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消費者問題速報 VOL.153 (2017年1月)

1 インターネット契約の中途解約における違約金条項について、違約金条項に基づく意思表示の差止めを認めた上、会社に対して当該意思表示をするための業務を行わないことを従業員に指示することを命じた判決(京都地裁平成28年12月9日判決)

 本件は、適格消費者団体である原告が、インターネット接続サービスを業とする会社である被告に対して、被告の契約約款の中にある「2年の最低利用期間内に解約をした場合には残余期間分の利用料金全額を一括して支払う」旨の条項(以下、「本件条項」という)が、消費者契約法9条1号等に基づき無効であるとして、同法第12条3項に基づき、本件条項に基づく意思表示の差止め等を求めた事案である。被告会社は、顧客が2年間の最低利用期間内に解約をした場合、本件条項に基づき、①初期工事費用(被告会社は初期工事費用無料キャンペーンを実施していた)及び②最低利用期間に達するまでの残期間分の利用料金を請求していた。

 消費者契約の解除に伴う違約金等を定める条項のうち、契約の解除に伴って生じる「平均的な損害」を越える部分は無効となる(同法9条1号)。判決は、①初期工事費用について、被告会社のパンフレットや約款上、最低利用期間内に解約がなされた場合に初期工事費用が利用者の負担となる旨が記載されていないことを指摘し、初期工事費用は被告会社の「平均的な損害」では無いと判示した(また、判決は、初期工事費用は、解約の有無にかかわらず既に被告会社が負担しているため「解約に伴う」損害ではないとも判示している)。

 また、②残期間分の利用料金全額について、被告会社は、インターネット契約が解約された場合、金融機関の引落手数料等の支出を免れることになるから、免れた支出分については「平均的な損害」に含まれないと判示した。

 そして、判決は、本件条項は一つの意思表示であるから、差止めを無効部分に限らず、本件条項に基づく契約申込の意思表示全体の差止めを認めた。

 加えて、判決は、「予防の実効性」を図ることができることを理由に、被告に対して、従業員へ本件条項に基づく契約申込の意思表示の業務を行わないよう指示させることを命じた。

 【NPO法人京都消費者契約ネットワークのHP掲載】

2 中古住宅の販売に際して、中古住宅販売会社が、耐震性に関して顧客に不利益な事実を告知しなかったとして、消費者契約法4条2項に基づく土地建物の売買契約の取り消しと、建売住宅購入に際する諸費用の損害賠償を認めた判決(名古屋地裁平成28年12月20日判決)

 耐震対策に強い関心を抱いていた顧客が、中古住宅販売会社(以下、単に「販売会社」という)及びその仲介業者に対して、当該住宅が横揺れに弱い状態であったことを秘匿して販売を行ったものとして、販売会社に対しては不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)を原因とする土地建物の売買契約の取消し及び購入代金の返金(不当利得返還請求)を、販売会社及び仲介業者に対して諸費用(住宅購入時諸費用、不動産取得税、住宅ローン金利、本件住宅の欠陥に関する建築士等調査費用・意見書作成費用等)の損害賠償(民法709条)を求めた事案である。

 本件住宅は、北側基礎部分が北に向けて大きく沈下している状態であったところ、販売会社は、いわゆるジャッキアップ工法により、本件住宅の基礎と土台との間に鉄板を挟み込む形で、床を水平にする工事を行った。結果、本件住宅は、建物の基礎と土台が緊結(直接に接合されている状態)されていない状態となった。なお、建物の基礎と土台が緊結されていない場合には、当該建物は横揺れに弱く、建物が倒壊する可能性がある。

 判決は、本件住宅が上記のような状態であったことを認定した上、販売会社の担当者が、顧客に対して、「耐震については補強がしっかりされている」と述べたことについて、「この事実(筆者注:本件住宅の基礎と土台が緊結していない事実)を告知しないばかりか、…、あたかも本件建物の基礎に…問題がないかのように誤認させる説明」と指摘し、不利益事実の不告知による土地建物の売買契約の取消し及び取消しに伴う不当利得返還請求(本件住宅の登記を販売業者に移転することとの引替給付)、並びに不法行為による損害賠償を認めた(なお、仲介業者に対する損害賠償については、本件住宅が上記状態にあることまで調査する義務が無いとして、耐震性に関する説明を行わなかったことが不法行為になるとまでは言えないと判示している)。

 なお、販売業者は、損害賠償請求に関して、「居住利益の控除」(契約が取り消されるまでの間、顧客が本件住宅に住み続けていた分の利益を損害賠償額から差し引くべきであるとの主張)を主張した。

 この点について、判決は、倒壊する具体的なおそれがあるなど、建物自体が社会経済的な価値を有しないと認められる場合については、建替費用相当額の損害賠償につき居住利益の控除をしないとした最高裁判決(最高裁平成22年6月17日第一小法廷判決・民集64巻4号1197頁)を引用して、当該最高裁判決が本件にも妥当するものであるとして、居住利益の控除をせずに損害賠償請求を認めた。また、販売会社は、当該最高裁判決は、新築建物に関する最高裁判決であって、本件建物のような中古住宅には、当該最高裁判決の法理は及ばないと主張したが、この主張も退けられている。