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消費者問題速報 VOL.152 (2016年12月)

1 返済方法を翌月一括払いとする金銭消費貸借につき過払金充当合意の成立が認められた事例(東京地裁平成28年10月24日判決)

 亡Aの相続人であるXが、Yに対して過払金の返還を求めた事案で、消滅時効の成否が争われた。Aは、Yとの間のカード会員契約に基づき、平成6年11月から平成22年10月まで返済方法を翌月一括払いとする金銭消費貸借を繰り返していた。Yは、上記金銭消費貸借の返済方法が翌月一括払いであり、個々の貸付けと債務の弁済が個別的対応関係をもっていたことから、各返済は借入金全体に対する弁済ではなく、過払金充当合意が存在しないとして、平成17年11月30日以前に発生した過払金の消滅時効を援用した。東京地裁は、Aがカード会員契約という基本契約に基づいて発行されたカードを利用して継続的に空白期間もなく借り入れと貸付けを繰り返していること、Aは限度額の範囲内で何回でも借り入れが可能であったこと、Aがあえて翌月一括払い取引を選択したとは認められないことなどから、過払金充当合意の成立を認め、消滅時効の主張を排斥した。

2 社債購入代金の立替名下に金員を詐取された詐欺事件の損害賠償請求につき、詐欺行為に関与した会社のほか、その取締役として登記されていた名目的取締役の責任が認められた事例(大阪地裁平成28年1月13日判決・判例時報2306号77頁)

 77歳の年金生活者で未公開株詐欺の被害にあったことがあるXに対し、被害回復の支援をしたいとして電話をかけ、新設分割により設立されたA社名義の預金口座に社債購入代金の名目で金員を振込ませた詐欺事件の損害賠償請求訴訟である。大阪地裁は、A社の代表取締役として登記されていたY1について、就任を承諾した事実がないとして任務懈怠責任を否定し、口座が詐欺に利用されることについて具体的予見可能性があったとは認められないとして不法行為責任を否定したが、A社を新設分割したB社の代表取締役として登記されていたY2については、新設分割の分割計画書の記載に実体がなかったことから、B社の代表取締役として悪意又は重過失により内容虚偽の文書を作成したものであり、実体のない法人を設立することによって詐欺行為のための口座が開設されることが予見できたとして任務懈怠責任を肯定した。また、B社の取締役として登記されていたY3、Y4のうち、Y3については不実の登記作出に加工したとはいえないとして責任を否定したが、Y4については、詐欺行為の直前まで社債発行会社の取締役として登記されており、その当時から詐欺行為の準備がなされていたことなどを認定して、会社法908条2項の類推適用による任務懈怠責任と過失による幇助(不法行為)を肯定した。

3 詐欺事件の被害金送付先として利用された私書箱を開設していた会社及びその代表者に対する損害賠償請求を認容した事例(東京地裁平成28年1月26日判決・先物取引裁判例集75309頁)

 本件は、詐欺被害に係る現金の送付先として指定されていた私書箱を開設していた会社及びその代表者に対する損害賠償請求訴訟である。東京地裁は、犯罪収益移転防止法にいう特定事業者であっても偽造免許証の見分け方を認識しているべきものとは言い難いとしつつも、非対面取引である私書箱契約にあたっては、免許証の写しの交付を受けるだけでは足りず、転送不要郵便物等による本人確認をすべき義務があり、前記代表者はこれを怠ったとして、被告らに対する損害賠償請求を認めた。

 本件詐欺被害においては、原告が短期間の間に多数回にわたり多額の現金を現金書留やレターパックで送付し続けたこと、原告が教員の経験を有することなどから、原告はいずれかの時点で取引の異常性に気づくべきであったとして原告の過失は認定されたが、原告が79歳と高齢であることなどを考慮して、原告の過失は1割とされた。