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消費者問題速報 VOL.144 (2016年3月)

1 時効債権の承認と時効援用権の喪失・違法取立てに対する慰謝料請求が認められた控訴審判決(岐阜地方裁判所平成27年12月9日判決)

 借主がギルドに対して「弁護士に相談したら時効であると言われた」と告げたところ、その後にギルドから「時効など認められない」と強い口調で支払いを求められて1万円を支払ったという事案である。

 裁判所は、借主が時効であると告げたことは消滅時効援用の意思表示に該当し、その後にギルドに対して1万円を支払ったとしても時効援用権の喪失ないし撤回には該当しないとした。そのうえで、脅迫言動的言動によって取り立てをしたことが不法行為に該当するとして、慰謝料10万円が認められた。

 【判決文は名古屋消費者信用問題研究会HPに掲載】

2 投資詐欺事件において、バーチャルオフィス契約に用いられた本人確認書類を提供した者及びIP電話レンタル契約に用いられた本人確認書類を提供した者に対する損害賠償責任が認められた控訴審判決(東京高等裁判所平成28年1月27日)

 投資詐欺の被害者が、投資勧誘活動に利用されたバーチャルオフィスを開設した会社A、バーチャルオフィス契約時に本人確認書類(運転免許証、住民票、電気料金の領収書の写し)を提供した個人B、IP電話レンタル業者C及びIP電話レンタル契約締結時に本人確認書類(実印、印鑑証明書、運転免許証の写し)を提供した個人Dに対して、損害賠償請求を求めた事案である。

 争点は、B及びDの責任の有無である。

 1審は、Bが提出した本人確認書類は、Bの就職活動に際して提出したものが流用された可能性も否定できないため詐欺行為に荷担したとは認められないこと、これらの書類が一般に本人確認書類として利用されることから、詐欺行為に悪用されることの予見可能性があったともいえないとして、Bの責任を否定した。Dについても、DがIP電話レンタル契約を締結して、詐欺行為に流用させたと認めるに足りる証拠はない、仮に流用させたとしても過失はないとして、Dの責任を否定した(Cの責任も否定)。

 控訴審は、Bの本人確認書類の各写しが提出後3ヶ月以内にAの管理下に置かれて、バーチャルオフィス契約のAの総務責任者の本人確認資料に用いられたことからして、Bは本人確認書類をAに提供してAの詐欺行為に荷担したと認めることができるとして、Bの責任を認めた。Dについても、Dの本人確認書類が短期間のうちにAの管理下に置かれて、IP電話レンタル契約のAの本人確認資料に用いられたことから、Dは本人確認書類をAに提供してAの詐欺行為に荷担したと認める事ができるとして、Dの責任を認めた(Cの責任は否定)(原告の過失として3割を認定)。

 【判決文は先物取引裁判例集74号に掲載予定】

3 ファンドまがい商法において、代理店と称される勧誘者が幾重にも重なっており、代理店群が預り金から数%という形で金銭を得ていくという報酬制度が構築されている事案で、最上位の者から直接の勧誘者に至るまで不法行為責任を認めた判決(東京地方裁判所平成28年1月26日判決)

 本事案は、スポーツブックを利用した裁定取引を行うことにより、「毎月数%の高い利益を恒常的に得られる」と宣伝して、投資を募ったが、取引が破綻し、出資金が返還されなくなったというものである。本件においては、代理店と称される勧誘者が幾重にも重なっており、末端の代理店からは、本取引について真っ当なファンドと信用していたとの反論がなされた。

 判決は、本件商法を早期破綻をきたす事態を生じる危険を有し、各種規制法令に適合しないものであり、一般大衆の財産を毀損する危険性が高い商品であったと認定した。そして、判決は、被告らを、概ね、①首謀者グループ、②最上位の代理店、③下位に位置する代理店群に分けたうえ、いずれに対しても不法行為責任を認めた。①については、スポーツブック投資商法に深く関与しており、わずかな注意を払えば容易に予見し得た、②及び③については、いずれも第三者を紹介して報酬を得ていた者であり、上記のような投資商品は、一般的に馴染みがなく、それを対価を得て第三者を勧誘する場合、自己の財産の保全のために払うべき注意以上に慎重な注意を払うべきであり、勧誘に先立ち、本件商法の安全性について、客観的な裏付けに基づいた調査をする義務があるとして、不法行為責任を肯定した。