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消費者問題速報 VOL.138 (2015年9月)

1 貸金返還請求訴訟において,消滅時効完成後に貸金債務を一部弁済した被告の時効援用権の行使が信義則に反しないとされた事例(宮崎簡裁平成27年7月21日判決)

 被告は、原告との間で、平成15年、被告の貸金債務30万円を分割で支払う旨の和解契約を締結した。しかし、被告は、糖尿病を患い就労不能となったため、同年10月以降生活保護の受給を開始し、原告に対する貸金債務の弁済を止めた。

 その後、被告は、原告から上記債務の弁済を求められ、平成24年8月から平成25年6月にかけて、合計3万5000円を生活保護費から支払った。

 原告が被告に貸金返還を求めたところ、被告は、貸金返還債務について、期限の利益を喪失した平成15年7月31日を起算日とする商事消滅時効を援用した。これに対し、原告は、上記債務の消滅時効完成後に被告が債務を承認しており、被告による時効援用権の行使は信義則に反し許されないと主張した。

 本判決は、原告は被告が受給する生活保護費の中から債務弁済に充てざるを得ないと知りながら被告に分割弁済を求めたものと認められ、保護費を借金返済に充てることはできない生活保護制度や被告の原告への対応等を考慮すると、原告が上記被告弁済を消滅時効完成後の債務承認として主張することは権利濫用として許されないとして、上記事情のある被告による消滅時効の援用は信義則に反せず、被告の貸金返還債務は時効により消滅したと判示し、原告の請求を棄却した。

2 過払金が発生している継続的な金銭消費貸借取引の当事者間で成立した特定調停成立後も、調停成立時点で発生していた過払金返還請求権は消滅しないとされた事例(最高裁平成27年9月15日判決)

 継続的な金銭消費貸借取引の当事者間において、借主の借受金支払義務を認める確認条項、本件調停条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認する清算条項等を内容とする特定調停が成立したが、本件調停成立時点で、上記取引について過払金及び法定利息が発生していた。借主が過払金等の支払を求めて提訴したところ、貸金業者は上記清算条項による過払金請求権消滅を主張した。

 ・原審(東京高裁平成25年6月19日判決)

 本件調停成立時点で過払金等が発生していたにもかかわらず借主に借受金の支払義務を認める上記確認条項は、利息制限法に違反するものとして、公序良俗に反し無効であるとした。

 ・上告審

 特定調停手続について、支払不能に陥る債務者等の経済的再生に資するため、債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とするものであり、特定債務者の有する金銭債権の有無やその内容を確定等することを当然には予定していないとした上で、本件調停の目的は継続的金銭消費貸借取引のうち特定の期間内に借主が借り受けた借受金等の債務であると文言上明記され、本件調停における確認条項及び清算条項も上記目的を前提とするものであるから、上記各条項の対象である権利義務関係も、借主の貸金業者に対する上記借受金等の債務に限られ、上記取引によって生ずる借主の貸金業者に対する過払金返還請求権等の債権はこれに含まれず、上記清算条項により過払金返還請求権は消滅しないとした。

 【判決文は最高裁判所HPに掲載】