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消費者問題速報 VOL.136 (2015年6月)

1 残債務承認の和解契約を無効とした判決(東京高裁平成27年5月13日判決)

 アコムが、返済が遅滞している借主に対し、残元金と既発生利息を承認する旨の示談書を送付し、借主がこれに署名押印してアコムに返送して返済を続けていた。しかし、実際は、示談の時点で、335万円を越える過払金が発生していた。判決は、本件示談には互譲が無いとして民法上の和解と認めることは出来ないとした上で、仮に民法上の和解に該当するとしても錯誤により無効であるとして、和解の無効を認めた。

 【判決文は名古屋消費者信用問題研究会HPに掲載】

2 金の先物取引についてスマートCX取引と称される損失限定型の取引を行っていた者が、不招請勧誘を受けて通常先物取引に移行させられて損失を被った事案において、不招請勧誘・説明義務違反・新規委託者保護義務違反・適合性原則違反・一任売買・無意味な特定売買の違法を認めて、過失相殺を行わなかった判決(東京地裁平成27年5月28日判決、業者:KOYO証券)

 KOYO証券から金地金を購入したことがある顧客(その他投資経験無し)が、金のスマートCX取引(一定額以上の値下がりがあると強制ロスカットされて損失が限定される取引)を開始した後(取引回数2回・取引総額280万円)、通常の金の先物取引の不招請勧誘を受けた結果、通常先物取引開始から約8か月間の総取引回数は564回にものぼり、約4000万円の取引損を被った事案である。

 判決は、スマートCX取引から通常の先物取引に移行するにあたり、KOYO証券担当者が、目的を告げずに顧客に架電し、顧客からの招請が無いのに取引を勧誘したことが不招請勧誘に該当すると判示した。

 また、判決は、担当者は通常先物取引の勧誘にあたりスマートCX取引との違いを説明するだけで通常先物取引の仕組みやリスクを説明していなかったこと、その説明時間が約30分であったこと、顧客の従前の消極的な投資意向からすると本件のような多数回の取引を望んでいなかったこと、担当者が新規委託者に対する社内規則を十分に把握していなかったこと、顧客は取引内容や手法に関して担当者の提案に依存していたこと、総取引回数のうち特定売買の占める割合や取引損に対する手数料の割合が高いこと等を認定し、説明義務違反・新規委託者保護義務違反・適合性原則違反・一任売買・無意味な特定売買の違法を認めて、顧客の請求を全部認容した。

 

3 ①仕組債(日経平均連動債)の取引について余裕資金の運用であることや投資に関する一定の知識・経験を認定しつつも商品の具体的特性等に鑑みて、適合性原則違反及び説明義務違反を認めた、②外国債の取引について投資資金の性質に照らして適合性原則違反を認めた判決(福岡地裁平成27年3月20日判決、業者:みずほ証券、過失相殺:仕組債3割・外債5割、被告控訴中)

 財団法人の嘱託職員であった男性顧客がみずほ証券から3つの仕組債(日経平均連動債)の取引によって損失を被り、その妻も豪ドル建の外国債の取引にて損失を被った事案である。なお、3つの仕組債の内、2つはノックイン条件・期限前償還条件の成就・償還満期額について、日経平均株価のみならず為替レートも決定要因とする特性を有していた。

 判決は、本件仕組債を、上記の特性に鑑み、いずれもリスクが高く得られる利益とリスクの比較が容易でない複雑な仕組みを有する金融商品であることを認定した。

 その上で、適合性原則違反については、男性には相応の社会的経済的知識や仕組債等の取引経験があること、日経平均株価・為替レートの一般的知識があること、余裕資金の運用であることを認定しつつも、本件のような複雑な仕組みに対応する能力までは認められず、過去の仕組債等の取引経験もただ勧誘者の勧めに従っていたものと認定し、商品の特性とリスクを理解せずにただ勧誘者に対する信頼感情と利回りの良さに惹かれて商品を選択したものであるから、本件仕組債の購入はその能力に比して過大な危険を伴っていたものであって適合性原則違反となるとした。

 また、仕組債の説明義務違反についても、一般投資家は高利の商品を勧誘されて購買意欲を刺激されると、その仕組みやリスクを理解できないまま金融機関を信頼して迎合的に投資する傾向があり、他方で勧誘者は一般投資家の購入意欲を減退させるリスク説明をおざなりにする傾向を示すことが少なくないから、高利商品の勧誘者はこの通弊に陥らないようにしなければならないとした上で、目論見書やリーフレットが交付してリスクの概要を説明しても、本件商品の複雑性に鑑みれば、期限前償還条項の持つ意味や元本欠損の恐れ等のリスクについて男性が具体的に理解したものとは言えないとして説明義務違反となるとした。

 さらに、妻が購入した外国債についても、投資資金が居住用マンションの購入資金として約1年後に必要となるもので、勧誘者もそれを知っていたのであるから、本件外国債(満期2年)は中途換金が避けられず、その際に為替リスクや流動性リスクが現実化して大幅な元本欠損が生じるおそれがあるから、本件外国債は資金の性質に照らし明らかに適合性を欠くとして、適合性原則違反となるとした。

 【判決文は証券取引被害判例セレクト49に掲載予定】

4 不招請勧誘禁止に関する商品先物取引法施行規則の改正のお知らせ

 平成21年に制定された商品先物取引法では、商品先物取引の販売について一般の個人に対して相手の要請がないのに訪問や電話で勧誘営業を行うこと(不招請勧誘)は省令で定める一定の例外を除き禁止されていました。

 しかし、平成27年6月1日より施行される改正商品先物取引法施行規則では、これまで規制の例外とされてきた「商品先物取引業者が継続的取引関係にある顧客」に加え、

① 他社顧客を含む,いわゆる「ハイリスク取引」の経験者に対する勧誘

② ○A65歳以上の高齢者または年金生活者以外の者であり、かつ○B年収800万円以上若しくは金融資産2000万円以上を有する者又は弁護士・公認会計士等の資格を有する者に対する勧誘

 が除外されます。

 このように、他社の顧客や、一定の要件を充足する者に対する勧誘が許容されてしまったため、他社との取引関係の有無や「一定の要件」を確認するための連絡・説明が許容されることになり、投資の知識・意向のない者への不意打ち的な勧誘を禁止してきた商品先物取引法の趣旨が大きく揺らいでいます。また、年収等の一定の要件の確認も、業者の勧誘行為の中で行われるため、業者の誘導の恐れが高く、適正な確認が行われない恐れがあります。日弁連も上記施行規則の改正は商品先物法214条9号の委任の趣旨を逸脱する違法なもので廃止されるべきであると主張しています。 上記施行規則の施行により、今後、商品先物取引業者による不招請勧誘が増加することが予想されます。①取引に関心がない場合や取引の仕組みやリスクが理解できない場合は、勧誘を断りましょう。②「必ずもうかる」などの業者のセールストークは信用しないようにしましょう。③年収や金融資産、取引経験について答える場合には、正確に伝えましょう。