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消費者問題速報 VOL.135 (2015年5月)

1 武富士の代表取締役であった武井健晃氏に対し、利息制限法に引き直せば残高が異なる可能性があることを顧客に告知する体制を整備する義務があったのに怠ったとして、元顧客らに対する損害賠償の支払いを命じた判決(大阪地裁平成27年5月8日判決)

 武富士の元顧客らが武富士の創業者一族に対し損害賠償を求めている一連の裁判で、元取締役の責任を認めた初の判決。元顧客ら5人に対し計約327万円を支払うよう命じた。

 (判旨)

 最高裁平成18年1月13日判決以降は、被告健晃は、約定残高による請求は法的根拠を欠くことを認識し又は容易に認識し得た。

 武富士が約定残高を請求した行為は、法的根拠を欠くことを認識しながら敢えて法的義務を伴わない金銭の支払を顧客に行わせようとするものであり、社会通念に照らして著しく相当性を欠き違法。

 武富士は、金銭消費貸借契約を基礎とする信義則上の義務として、請求行為を行う場合には、約定残高と利息制限法に基づく引き直し残高が相違する可能性があること(残高相違可能性)を告知し、顧客に自らの判断で義務なき出捐を回避する方途を示唆する義務を負う。

 武富士の代表取締役であった被告健晃においては、残高相違可能性を告知する体制を整備する義務を負っていたにもかかわらず、その履行を怠った。その任務懈怠については少なくとも重過失があったものであり、損害賠償責任を負う。

 (上記最高裁判決後に武富士で常務会が開催された平成18年5月8日を基準時として、その基準時後に、残債務が存在しないのに顧客が武富士に対し支払った部分のみを損害と認定した。)

 

2 販売業者からの「支払いについて迷惑を掛けることはない」等の説明を信じてなされた名義貸し事例において、「不実告知」による取消しを認め、信販会社(オリエントコーポレーション)による立替金払い請求を棄却した判決(旭川地裁平成26年3月28日判決)

 オリコの加盟店であった個別信用購入あっせん販売業者が、運転資金を得る目的で顧客の名義を借りて架空の売買契約を締結し、オリコから立替金の支払いを受けたという事例。

 判決は、このような販売業者主導で行われるクレジット取引の悪用事例では、立替払契約と売買契約との密接な牽連関係、あっせん業者と消費者との損失負担能力の差等に照らし、消費者保護の必要性が高いと認定。

 そして、販売業者が顧客に名義貸しを依頼した際に「支払いについて迷惑を掛けることはない」と説明していた点につき、割賦販売法35条の3の13第1項6号の不実告知による立替払契約の取消しを認め、オリコの立替金払い請求を棄却した。【判例時報2250号60頁に掲載】

3 医療機関債の発行に関する詐欺事件について、医療法人の理事長医師の過失による共同不法行為を認定した判決(東京地裁平成27年3月27日判決)

 「医療法人社団真匡会」が、平成23年から平成24年にかけて、「医療機関債」を発行し、高齢者などから合計12億円以上を集めたが、実際には償還の目処はなく、発行要領の記載も虚偽で、集めた金は赤字の補てんやグループのメンバーらの遊興費に充てられていた、という詐欺事件に関する判決(この事件は刑事事件にも発展した。)。

 判決は、医療機関債の発行を行っていたメンバーらの故意による共同不法行為を認めた上で、医療法人の代表理事であった被告医師についても、「真匡会の代表者としてその業務について善管注意義務を負っていたにもかかわらず、・・・・医療機関債の発行中止などの措置等を行わなかった点で過失があり、本件医療機関債の発行及び勧誘について、他の被告らと共同不法行為責任を負う。」として、過失による共同不法行為を認めた。

 【判決文はあおい法律事務所のホームページに掲載】

 ※医療機関債:医療機関債は、金融商品取引法の適用外で有価証券には該当せず、医療法人との間の金銭消費貸借契約とされる。医療法人が破産等した場合は全損のリスクがあり、また、原則として償還日前は中途での換金はできないとされる等、流動性が低い。厚生労働省から「医療機関債発行のガイドライン」が通知されているが、平成23年以降、ガイドライン違反や強引な勧誘・虚偽の説明等による被害が発生し、注意喚起がなされていた(厚生労働省、消費者庁、国民生活センターの各HP参照)。

4 詐欺会社に電話回線を提供していた電話回線レンタル業者に対し、回線提供の際の本人確認義務違反を認定し、詐欺会社の代表取締役との共同不法行為責任を認定した判決(さいたま地裁平成27年5月12日判決)

 詐欺会社が別人名義で電話回線のレンタル契約をした際、電話回線レンタル業者が、免許証の写ししか確認しておらず,しかも免許証の写真と申込をした者を対照していなかった点で本人確認義務違反があったとする原告の主張を容れ、このように本人確認を怠った電話回線が詐欺行為に利用されることは容易に予見できるとして、被害者に対する、詐欺会社との共同不法行為責任を認めた。