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消費者問題速報 VOL.128 (2014年10月)

1.不動産担保貸付けと無担保貸付けを交互に繰り返した事案につき,一連計算を認めた事例(大阪高等裁判所平成26年8月29日判決)  

 被控訴人が,控訴人との間で,第1取引(無担保貸付け),第2取引(不動産担保貸付け),第3取引(無担保貸付け),第4取引(不動産担保貸付け)と連続して金融を受けていた事案である。これらの取引がいずれも貸付けと返済を繰り返し,あるいは新たな貸付けを予定した取引が反復継続されたものであること,いずれの取引でも制限利率を超過する利率の約定がされ,新たな取引が開始された日にその前の取引の約定による残債務全額が返済されていることから,担保の有無や貸付額,利率の違いはあっても,連続した一体の取引というべきとし,一連計算が認められた。

 【名古屋消費者信用問題研究会HP

2.債権譲渡を受けるにあたり,借主が異議をとどめない承諾をしたことから債権譲渡前の残債務が法定利率を前提にした債務額であるとの抗弁を喪失しているというCFJの主張を退けた東京高裁及び名古屋高裁の判決に対する上告受理申立が不受理とされた事例(東京高等裁判所平成25年7月23日判決に対する最高裁判所第三小法廷平成26年8月26日決定,名古屋高等裁判所平成25年11月29日判決に対する最高裁判所第三小法廷平成26年8月26日決定)

 最高裁判所は,以下の東京高裁及び名古屋高裁の判決に対する上告受理申立てを不受理とした。

 東京高裁判決は,以下の①,②の理由で,異議の無い承諾による抗弁の切断を認めなかった事例である。①当事者の合理的意思からすると,異議をとどめない承諾をしたといっても約定に従って計算した残金の金額について承諾しただけで,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済がされてきたことを知っていた譲受人との間で,強行法規たる利息制限法に従った計算という抗弁を喪失させるのは相当ではない。②民法468条1項は,譲受人が抗弁事実を知らないことに過失がある場合にも,保護が与えられず,貸金業者である譲受人においては,貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するにいたったことについてやむを得ない特段の事情があるときでない限り,過失があり,譲受人は,譲渡を受けるにあたって,譲渡人から貸金業法43条1項の適用を受けるとの説明を受けただけでなんらの調査もしていないことから,譲受人が,貸金業法43条1項の適用があると認識したことには過失がある。

 名古屋高裁判決は,譲受人が,譲渡人から取引状況に関するデータの一切を入手し,譲渡人の貸付け取引の実情について十分に知っていたが,訴訟において譲渡人の取引に,貸金業法43条1項の適用があるとの具体的な主張及び立証がされていないことから,譲受人は,譲渡人に対する弁済に貸金業法43条1項の適用がないことについて悪意であると認定し,抗弁の切断を認めなかった事案である。なお,譲渡人から譲受人へは,譲渡債権について,貸金業法を含む法律を遵守した消費者に対する融資により生じた権利または債権である旨の表明保証がされていたが,そのことは悪意の認定を左右しないとされた。

 【名古屋消費者信用問題研究会HP

3.日本語の能力が不十分な中国残留孤児である男性顧客に対する銀行員のノックイン型投資信託の勧誘について適合性原則違反及び説明義務違反が認められた事案(京都地方裁判所平成26年9月25日判決)

 日本語教育を受けておらず,名前と住所以外ほとんど書けず,カタカナと数字以外ほとんど読むことができない等,日本語の能力が十分でない中国残留孤児の男性が,銀行でATMの操作方法が分からずに困っていたところ,銀行員に声を掛けられ,投資信託等の窓口に案内され,投資信託の購入の勧誘を受け,パンフレットの記載内容や説明をほとんど理解できないままに,元本割れのリスクのあるノックイン型投資信託を利率の高い預貯金と誤解して,満期前の定期預金を解約して購入した事案である。男性は無職で,年金以外に収入は無く,2000万円程度の金融資産を有していたが,自身と妻のため将来何があっても大丈夫なように貯めてきた物で,元本割れのリスクを許容するような意向は有していなかった。また,投資信託には,日経平均株価のオプションが付いており,ノックイン条件,早期償還条件,解約制限といった特性があった。

 判決では,投資信託について,投資判断を的確に行うためには,少なくとも販売担当者の説明を聞き,又はパンフレットなど交付した資料を読むことで,商品の特性を認識し,理解することができるだけの能力及び日経平均株価の推移や動向をある程度は把握し,理解できるだけの能力が必要であるといえるとされ,男性には主に日本語能力と経済的知識等に照らして,そのような能力は無かったことが認定され,適合性原則違反による不法行為が認められた。また,上記男性の能力からすれば,男性を勧誘するにあたっては,少なくとも通訳人を介し,また,パンフレットに記載された用語について正確な内容等を原告にも理解できるように訳するなどしたうえで,男性が商品の特性を理解できる程度の説明をすることが必要不可欠とされ,説明義務違反による不法行為も認められた。また、男性の日本語の不自由さを考慮して弁護士費用30万円が認められた。

 なお,過失相殺は認められなかった。

 【証券研HP