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消費者問題速報 VOL.127 (2014年9月)

1.元利均等分割払返済方式の金銭消費貸借契約において、借主から約定分割弁済額を超過する額の支払いがなされたときには、当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなどの特段の事情がない限り、当該超過額は、将来発生する債務に充当されることはないとした事例(最高裁平成26年7月29日判決(第三小法廷)、平成26年7月24日判決(第一小法廷))

 原審(名古屋高等裁判所平成24年10月25日判決、仙台高等裁判所平成24年10月10日判決)が、借主が一定期間中に約定分割返済額を超えて支払った部分を合計すると当該期間後に債務者が支払うべき元本及び利息も支払済になるとして債務の消滅を認め、貸金業者に過払金の返還を命じたのに対し、最高裁は、「元利均等分割返済方式によって返済する旨の約定で金銭消費貸借契約が締結された場合において、借主から約定分割返済額を超過する額の支払がされたときには、当該超過額を将来発生する債務に充当する旨の当事者間の合意があるなどの特段の事情のない限り、当該超過額は、その支払時点での残債務に充当され、将来発生する債務に充当されることはないと解するのが相当である。」と述べた。そして、原審は、上記特段の事情の有無について審理判断しないまま、約定弁済額を超過する額の支払がされていたことをもって、将来発生する債務の支払をしたことになる旨判断しているとして、原審を一部破棄し、差し戻した。

 【最高裁判所HP

2.1億9000万円の流動資産を有する女性(当時48歳、無職)との取引について商品先物取引業者の適合性原則違反を否定し、新規委託者保護義務違反を認めた事例(東京高裁平成26年7月17日判決)

 金の先物取引をしていた控訴人が、商品先物取引業者である被控訴人に対し、不法行為又は債務不履行による損害賠償を求めた事案。控訴人は、取引開始当時、約1億9000万円の流動資産を相続しており、投資可能額を6000万円と申告していた。

 東京高裁は、控訴人について、先物取引等の十分な経験がなく、当時48歳の無職の女性で、資産は夫の遺産であり、2人の子があり、老後は遺産を取り崩して生活することが推測されるから、生活困難ではないとしても生活設計に大きな影響を与えるし、遺産を相続しなければ原則として商品先物取引を勧誘することは不適切であったなどとして、民法1条2項、商品取引所法213条(当時)の趣旨から、被控訴人には、控訴人が取引に習熟するまでの間、初心者にふさわしい取引をさせる義務があるとした(新規委託者保護義務)。そして、新規委託者保護義務違反は、管理規則やガイドラインが定める取引量を超えているかを形式的に見るのではなく、制限の趣旨をふまえて、委託者の能力、適性、勧誘状況、取引経過等を総合的に検討して判断すべきところ、本件取引では、被控訴人は、自ら定めた取引制限を超える委託証拠金を預託させている点、取引開始から3か月間の制限枚数を超えて取引を勧め又は注文を受けている点、保有する買建玉を全て売りたいという控訴人に対し取引を継続させるため翻意又は再考を促した点などについて、新規委託者保護義務違反の違法があるとして、不法行為の成立を認めた。

 なお、控訴人が、被控訴人から勧誘される前に資料の交付を求めたこと、自ら投資可能金額を6000万円と申告したこと、被控訴人の調査部から損失のリスクを指摘されながらもこれに配慮せず、積極的に取引に関与し、取引量を増大させたなどの事情を考慮すると、控訴人の過失割合は6割とするのが相当とされている(一審は全部棄却)。

 【先物取引裁判例集71号(掲載予定)】

3.金・白金地金の割賦販売契約の形式をとる差金決済契約について、商品先物取引法329条に定める相場による賭博行為の禁止等の規定に違反しており、取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられたともいえないから、公序良俗に反し、違法であるとして、不法行為の成立を認めた事例(東京地裁平成26年7月18日判決)

 顧客が分割金を払い終わるまで目的物である金等地金の引渡しをせず、顧客は、分割払の期間中、任意の時点で中途解約をすることができ、解約日の時価(=解約価格)に応じて、解約までに支払った分割金(又はこれに解約価格と購入価格の差益を加えた合計額)から手数料及び損金を控除した金額を解約清算金として受け取るという内容の金等地金の割賦販売契約は、実質的には差金の授受によって契約関係から離脱できる差金決済契約であり、先物取引に当たるから、本件各契約は、商品先物取引法329条の相場による賭博行為の禁止に違反するところ、原告が被告会社の信用について多大なリスクを負う上、相対取引であることによって、原告と被告会社とが利益相反状況にあること、それらの状況について原告が何らの説明も受けていないことその他取引の状況からすると、本件各契約は、取引秩序の維持及び委託者保護のための方策が講じられたとはいえないから、公序良俗に反し、違法であるとして、被告会社について不法行為の成立が認められた。

 【先物取引裁判例集71号(掲載予定)】

4.取引当時高齢で視力に障害のある女性に対する勧誘につき適合性原則違反、各債券の特徴やリスクを例示したり、図示する等して説明していないことにつき説明義務違反を認めた事例(横浜地裁平成26年8月26日判決)

 取引当時高齢で視力に障害のあった女性とその子であり取引当時無職の男性が、日経平均株価指数2倍連動債取引を行い損失を被ったとして、証券会社に損害賠償を求めた事案。リスクとリターンを計算式から直ちに理解することは困難であり、判断にあたっては、長期的な株価の動向に対する一定の見通しが求められる、前記女性については、「安全性をより重視したい」とのお客様カードの記載や保有している金融資産(個人向国債200万円)からハイリスクを負う投資傾向を有していたとは考えにくい、仕組債の取引経験もない、一定時期から取引を前記男性に事実上委任していた、自ら図表や計算式を見てイメージを持つことができない、投資額が原資のほぼ全額であり元本既存リスクを負う取引としては著しく過大であるなどから、適合性原則違反を認めた。次に、業者は原告両名に対し本件各債券の特徴及びリスクとりわけノックイン条件が成就した場合の満期償還額の決定方法、元本が毀損しゼロになるリスクを参考事例に基づき価格・下落率を例示したり、図示する等して説明すべき義務があったが、上記のような具体例に基づく説明を行った形跡はないとして、説明義務違反を認めた。なお、買付約定書の記載は、形式的文書に過ぎず説明義務違反の判断を妨げるものではないとされている。

 【セレクト47掲載予定】

5.旧武富士が信託銀行に拠出した資金をメリルリンチが組成した仕組債で運用し、290億円の損失を計上したことにつき、メリルリンチの説明義務違反が認められた事例(過失相殺5割)(東京高裁平成26年8月27日判決)

 武富士(現:更生会社TFK)が金融取引で約290億円の損失を被ったことについて、組成やリスクの説明が不十分だったなどとして、旧武富士側の訴えを退けた一審判決を取り消し、メリルリンチ日本証券などに説明義務違反を認めた判決(控訴審)。「過去の取引と比較すればハイリターン、ハイリスクだと旧武富士側も容易に推認できた」として5割の過失相殺を認め、メリルリンチ側に145億円の支払いを命じた。

 【日経新聞平成26年8月27日(電子版)】

6.介護付き有料老人ホームで居室を転居する際にした入居一時金を再度初期償却する合意及び入居不可能な期間を含む入居一時金の月割り均等償却の合意が消費者契約法10条により無効とされた事例(名古屋高判平成26年8月7日)

 介護付有料老人ホームの「入居一時金」について,入居時にされた初期償却の合意については無効とならないが,居室を転居する際に締結された転居契約において入居一時金を再度初期償却する合意が消費者契約法10条により無効とされた。また、上記入居一時金の月割り均等償却につき,入居不可能な期間を含む入居契約締結日の属する月をその始期をとしている点が消費者契約法10条により無効とされた。

 【最高裁判所HP