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消費者問題速報 VOL.110 (2013年2月)

1 被告証券会社(SMBC日興証券)の原告(会社代表者)に対する仕組債(いわゆるリーマン債)購入の勧誘に説明義務違反があったとして、被告証券会社の損害賠償責任を認めた判決(大阪地裁平成25年1月15日判決)

 本件は、会社代表者である原告が被告証券会社の担当者の勧誘を受け、リーマン・ブラザーズ・トレジャリー発行(リーマン・ブラザーズ・ホールディングス・インクが保証)の私募の仕組債(3銘柄を対象とするEB債)を平成20年7月8日に代金5000万円で購入したところ、同年9月にリーマングループが破たんしたため、償還を受けられなくなったという事案です。

 本件判決は、原告の属性(1億円程度の金融資産、株式取引経験、代表者を務めている会社での社債発行の経験がある等)から適合性原則違反は否定しました。しかし、本件仕組債は「株式のプットオプションの売りが組み込まれたEBの一種」であるとした上で、「本件債券の特性からすれば、いわゆる信用リスク、株式償還リスク、流動性リスクを個々に説明するだけでは足りず、買付時から計算日までの約1年間における発行体の信用リスクや参照銘柄の株価の値下がりによるリスクを引き受けなければならないことを原告が具体的に理解できるように説明する必要がある」とした上で、被告証券会社の担当者の説明は、本件仕組債の実際のリスクに比して、リスクが小さいかのような印象を与えるものであり、流動性リスクと相まった信用リスクの存在についての注意喚起としては不十分であったといわざるを得ないとして、説明義務違反を肯定しました(過失相殺8割)。

 本件判決は、いわゆるリーマン債被害という信用リスクが問題となる事案において、個々のリスクを分断することなく総合的に考慮して説明義務違反を肯定している点においても、非常に参考になると思われます。

 【全国証券問題研究会HP

2 原告(30歳代女性)と被告証券会社(SMBCフレンド証券)との間の多数回に及ぶ信用取引が適合性原則違反であり、また、過当取引として取引勧誘の適法性が否定されるとして、被告証券会社の損害賠償責任を認めた判決(大阪地裁平成25年1月11日判決)

 本件は、司書として図書館に勤務し、両親からの相続で一定の資産を有していた原告(30歳代女性)が、平成15年から平成24年までの信用取引を中心とする株取引等によって、多額の損失を被ったという事案です。

 本件判決は、原告の学歴や職歴と理解力、資産の状況等から、信用取引の開始自体についての適合性原則違反や説明義務違反は否定しました。しかし、たとえ「信用取引を行う適合性自体を有する者であっても、実際に個々の取引を行う上では、現物取引も含め、取引の銘柄、回数、その投資意向との整合性等のいかんによっては、的確に取引の動向を把握することができず、また、投資意向に反するものとして、個々の取引を行う上での適合性が否定されるとともに過当取引として、取引勧誘の適法性が否定される余地はある。」とした上で、「本件取引開始以後の経緯、本件取引の取引回数、保有期間、損失額に占める手数料の割合、回転率のほか、原告の安定重視という投資意向にも沿わない取引が少なからず行われていること、原告が被告担当者のいいなりになっていた実態等にも照らすと、本件取引は、全体として、適合性の原則に違反し、過当に行われたものであって、被告担当者の勧誘行為は、全体として、不法行為を構成する」と判示しました(過失相殺4割)。

 過当取引は証券被害としては古典的なものですが、現在でもなお相当数の被害はあるようであり、本件判決の有用性は依然として大きいと思われます。

 【全国証券問題研究会HP

3 静岡市の建築主事には、構造計算書の確認を怠り、誤って不十分な建築確認を行った注意義務違反があったとして、特定行政庁(静岡市)の損害賠償責任を認めた判決(静岡地裁平成24年12月7日判決)

 本件判決は、耐震強度不足が発覚した分譲マンションの建築主が特定行政庁(静岡市)、設計者(外注先の構造設計者を含む)及び施工業者らに対して、約10億円の損害賠償を請求した事案において、特定行政庁及び設計者の賠償責任を認めたものです。本件では、構造設計者が構造計算書の最終ページ(耐震強度不足であることを示す結論部分が記載されていた)を欠落したまま建築確認申請をし、その後、建築主事が構造設計者に最終ページを提出させたものの、最終ページとそれ以外のページの計算が整合していない事実を見落としたまま、建築を許可したという事情がありました。

 本件では、建築主事が審査すべき範囲が争点となりましたが、本件判決は、最終ページの欠落という頻繁にあるとは通常考えがたい事態が生じた以上、提出済みのページに記載されていた計算過程との連続性について慎重に確認すべきだったとし、市の建築主事は職務上通常尽くすべき注意義務に反していたと判断しました。

 本件はいわゆる姉歯事件とは無関係の事案ですが、姉歯事件においても耐震強度不足を巡って特定行政庁の賠償責任を認めた裁判例は見当たらない中で(地裁判決において特定行政庁の責任を認めたものが1件ありましたが、その後の高裁判決では認められず、現在、上告審係属中です。なお、民間確認検査機関の責任を認めたものとしては横浜地裁平成24年1月31日判決があります)、本件判決の非常に意義のあるものといえます。

 【日経アーキテクチュア991号(2013年1月10日)、同993号(2013年2月10日)】

4 「押し買い」の規制を盛り込んだ改正特定商取引法の施行

 いわゆる押し買い(訪問購入)の規制を盛り込んだ改正特定商取引法が平成25年2月21日から施行されました。

(1) 近年の金・プラチナ等の高騰を背景に、いわゆる押し買いが社会問題となっていましたが、従前、押し買いを規制する法律はなく、クーリングオフによる対応などもできない状態が続いていました。

 そのため、特定商取引法の改正により訪問購入に関する規定を設け、押し買いが規制されることとなりました。施行日である平成25年2月21日以後は、押し買いについて、事業者には不招請勧誘の禁止・契約書面の交付義務などが課せられ、また、消費者にはクーリングオフや物品の引渡拒絶(但し、クーリングオフ期間内)が認められることになります。但し、自動車、書籍、CD、有価証券など6品目が規制対象外となっていますので、注意が必要です。

(2) なお、消費者庁HPには、改正特定商取引法の条文等(http://www.caa.go.jp/trade/index.html#m05)や消費者庁作成による説明資料(http://www.caa.go.jp/trade/pdf/130213legal_1.pdf)やリーフレット(http://www.caa.go.jp/trade/pdf/130218legal_2.pdf)があります。