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消費者問題速報 VOL.109 (2013年1月)

1 専修学校(名古屋モード学園)におけるAO入試,推薦入試,専願での一般・社会人入試及び編入学の合格者が納入した学費等につき,入学辞退の時期を問わず一切返金しないとの約定は,消費者契約法に反し無効であるとし,適格消費者団体からの約定の使用差止め請求を認容した判決

 名古屋地裁平成24年12月21日判決は,適格消費者団体あいち消費者被害防止ネットワーク(ACネット)が名古屋医専(名古屋モード学園)に対し,在学契約の解除(入学辞退)に関し,「AO入試,推薦入試,専願での一般・社会人入試および編入学によって入学を許可された場合,納入後の学費(授業料,教育充実費,施設・設備維持費各1年分及び教材費)は理由のいかんにかかわらず返金しない」との合意を消費者との間でしないこと等を求めた事案について,専修学校であっても本件では大学の場合と同様に最高裁平成18年11月27日判決の判断基準が妥当するとした上で,いずれの入試の合格者も在学契約を締結した時点で同校に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予想されるが,AO入試,推薦入試,専願での一般・社会人入試は二次募集試験最終試験日までなら,また,試験を随時実施する編入学は2月1日までなら,それぞれ辞退者の代替入学者を確保できるので,同期限以前の辞退者にまで学費等の返還をしないとする約定は消費者契約法9条1号に反し無効であると判断しました(請求認容,控訴)。

 【ACネットHP(事業者に対する是正申入活動・16番)】

 

2 投資経験の乏しい夫婦(69歳,71歳)に対する豪ドル建日経平均連動債の販売に関し,SMBCフレンド証券には適合性原則違反及び説明義務違反があるとした判決

 大阪地裁平成24年12月3日判決は,購入当時69歳と71歳であり,2度の株式投資信託以外にはほとんど株取引の経験がなかった夫婦(元工員)が,SMBCフレンド証券に対し,同社からの勧誘で購入した豪ドル建日経平均連動債(期限10年。基準日の日経平均株価終値が当初の103%(トリガー価格)以上になれば早期償還される一方,観測期間中に一度でも当初の56%(ノックイン価格)以下になれば以後は下落率に応じた損失が発生する仕組み。クーポンは当初の3か月確定,以後は日経平均株価が当初の80%(クーポン判定価格)以上かどうかで利率が大幅に変動する)につき,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において,適合原則違反及び説明義務違反があるとして,請求を認容しました(過失相殺3割)。

 本判決は,当該商品を,仕組みが複雑であり,必ずしも理解することが容易ではなく,種々に亘る相当高度なリスクを有すると評価した上で,原告らには投資判断能力がなく,その投資意向にも沿わないものであるから,その勧誘は適合性原則に反するとしました。また,担当者から一応の説明はあったことを認定しつつも,担当者が,原告らの属性や投資意向を正しく認識しようせず,顧客保護のための社内手続も履践していなかった実態を指摘し,説明義務違反も認めました。

 【全国証券問題研究会HP

3 CFJによる取引履歴廃棄の主張を排斥し,その提出を命じた原決定の内容を維持した抗告審決定

 大阪高裁平成24年11月15日決定は,過払金返還請求訴訟において取引履歴の提出を命じた原決定に対し,CFJが,当該取引履歴は廃棄しているところ,現在の所持の証明責任は提出命令申立人が負う,として抗告した事案について,申立の相手方(CFJ)が当該文書を作成した場合には,これが滅失・廃棄されたなどの特段の事情がない限り,現時点においても当該文書は存在し,相手方が所持していると推認するのが相当と判断しました。その上で,本件では,当該文書が廃棄されたことにつき,相手方からは合理的な説明がなされておらず,特段の事情がないとして提出命令を維持しました(特定の関係で対象文書は若干変更)。

 

4 アエルからニューヨークメロン信託銀行に対する貸金債権信託譲渡後,債務者対抗要件具備前にサービサーたるアエルに対して交付された弁済金については,債務者が主張する場合,全てニューヨークメロン信託銀行の利得であり,同銀行は悪意の受益者として過払部分につき返還義務を負うとした判決

 大阪地裁平成24年12月7日判決は,アエルからニューヨークメロン信託銀行(旧JPモルガン信託銀行。以下「NYメロン」)に対し貸金債権が信託譲渡された事案につき,①信託譲渡後,債務者対抗要件具備前にアエルが原告に交付した貸付金(債権)は,原告のアエルに対する過払金債権に充当されることなくNYメロンに移転するが,②原告は,債務者対抗要件具備前に,債権者がアエルであると認識して行った弁済を,NYメロンの有する債権に対する弁済だと主張することができ,③当該弁済金は,過払いとなるものも含め,NYメロンの固有財産ではなく信託財産に帰属することになるところ,④過払部分については,サービサー兼信託受益者たるアエルとNYメロンとの間で相殺処理されたものも含め,全てNYメロンの利得であり,⑤当該不当利得につきNYメロンは悪意又はこれに準ずる重過失のある受益者である,と判断し,信託譲渡後の弁済金(に同期間の貸付金を充当したもの。過払いとなっている。)について請求を認容しました。本件と同様の事案については裁判所の判断が固まっていないところ,本件は原告に有利なものとなっています。

 

5 アイフルがリボルビング方式無担保貸付から同方式不動産担保付貸付に同日切替した事案について,一連計算を肯定した原審の判断を是認した判決

 横浜地裁平成24年12月5日判決(控訴審)は,過払金返還請求訴訟(アイフル)において,先行するリボルビング方式無担保貸付から同方式不動産担保付貸付に同日切替した事案について,一連計算を肯定した原審の判断を是認しました。判断に当たっては,基本契約を別にする貸付取引の一連性判断基準を示した最高裁平成20年1月18日判決を引用し,本件では,事実上1個の連続した貸付取引であると評価できるので,特段の事情があるとしています。なお,この判決は,リボルビング方式無担保貸付から確定金額不動産担保付貸付への同日切替につき,方式の違いなどを理由に事案の結論として一連性を否定した最高裁平成24年9月11日判決後になされたものとなります(同旨裁判例として,名古屋地裁平成24年10月25日判決,山口地裁周南支部平成24年11月1日判決)。

 

6 ソフトバンクが調査嘱託に対し回答を拒否した事案について,回答義務は公法上のものではあるが,回答拒否が申出当事者に対する不法行為となる可能性があることに言及した判決

 東京高裁平成24年10月24日判決は,原告が,別訴での調査嘱託の回答を拒否したソフトバンクモバイルに対し,調査嘱託の回答義務の中間確認と不法行為に基づく損害賠償を求めた事案について,回答義務は裁判所に対する公法上の義務ではあるものの,一定の場合には回答拒否が申出当事者に対する不法行為となりうるとの判断を示しました。もっとも,本件では,調査嘱託書に目的の記載がなく(申出書には記載あり),ソフトバンクが秘密保持等のために回答を拒否しても止むを得ないとして,過失がないことを理由に不法行為の成立を否定しました(中間確認は確認の利益を否定して却下)。今後の調査嘱託実務のあり方に影響を与えうる判決だと思われます。

 【金融商事判例1404号】