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消費者問題速報 VOL.106 (2012年10月)

1 学校法人モード学園が,学費不返還特約を盾に在学契約解除後の授業料相当額の金員の支払を拒否するのは,信義則に反し許されないとした判決(名古屋簡裁平成24年9月20日判決)

 本件は,モード学園に在学し,翌年度分の授業料等を納付した原告が,モード学園に対し,原告は年度当初から休学し病気のためにやむなく在学契約を解除し退学に至ったことを理由に,納付済み授業料全額の返還を求めた事案です。

 本判決では,①休学期間に相当する学費の不当利得性,②不返還特約の効力(ア 合意による特約の排除,イ 信義則違反による特約の主張制限,ウ 消費者契約法9条1号による特約の排除)が争点となり,裁判所は,①について,休学期間中であっても教育役務を提供し続けていることを理由に,不当利得に当たらないと判断し,②については,ア及びウを理由とする特約の排除は認めなかったものの,不返還特約の適用に当たっては,同特約により利益を得る学校において,その的確な処理,運用が必要とされるところ,本件では不適切な取扱いがあり,的確な処理,運用がなされていないことを主な理由に,モード学園側が,不返還特約の効力を主張し,在学契約解除後の授業料相当額の金員の支払まで拒むのは,信義則に反し許されないと判断しました。

 なお,本件は,控訴されています。

2 リボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約に基づく取引の後,不動産に担保権を設定して確定金額の金銭消費貸借契約が締結された場合,特段の事情がない限り,第1の契約による過払金を第2の契約の借入金債務に充当する旨の合意が存在するとはいえないとした判決(最高裁平成24年9月11日判決)

 無担保取引(リボ契約)から不動産担保付取引(証書貸付)に切り替えられた事案において(貸金業者は,CFJ)一連計算を認めた原審に対し,最高裁は,両取引は,契約の在り方を含む契約形態や契約条件において大きく異なっていることから,当事者が両取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引していると認められる特段の事情がない限り,一連計算をすべきでないと判示し,事件を原審に差し戻しました。

 この判決により,たとえ同日切替であっても,不動産担保取引が証書貸付による場合は,一連性が認められるのがより困難になったといえます。

 なお,田原睦夫裁判官は,補足意見で,本件のように,従前のリボ契約が解消され,リボルビング方式によらない担保権付契約が締結された場合であっても,追加貸付が予定されている場合や同じ貸金業者に複数のリボ契約やその他の金銭消費貸借契約を締結している場合に,専らそれらの取引を一本化する趣旨で不動産担保付取引が締結された場合等について,一連計算を認める余地があるとしています。

 【裁判所HP

3 原告(76歳女性)と被告エーシーイーインターナショナルとの取引について,適合性原則違反,説明義務違反,実質的一任売買の違法を認め,被告会社の取締役営業管理部長の立場にあった者に対し,会社法429条に基づく責任を認めた判決(名古屋地裁平成24年9月7日判決)

 本件は,①原告と被告会社との取引に関し,適合性原則違反,説明義務違反及び実質的一任売買の違法が認められるか,②本件取引により生じた損失につき,被告会社の取締役営業管理部長の不法行為責任又は会社法429条の責任が認められるかが争点となった事案です。

 裁判所は,①について,76歳で,ハイリスクな金融商品の取引経験がなかったという原告の属性に比して,10か月で6100万円(累計)という取引は著しく過大であるとして,適合性原告違反を認め,また,原告においてオプション取引につき十分な理解が得られるように具体的な説明を尽くしたものとはいえないこと,原告は,被告会社の担当外務員に指示されるまま取引をおこなっていたと言わざるを得ないことを理由に,説明義務違反及び実質的一任売買の違法も認めました。

②については,原告の取引について投資金額が著しく拡大されているのに法制管理部職員等によってこれが正されることがなかったこと等の事情に加え,被告会社が違法行為を防止するための各施策を実施することにした後に顧客と被告会社との紛争数が減少に転じたという傾向もうかがわれないことを勘案すると,被告会社で行われた上記の各種の方策には実効性をもって運用されていない部分があり,このような運用上の不備を是正しなかったという注意義務違反について上記取締役に重過失があったことを理由に,会社法429条の責任を認めました。

4 店頭証拠金差金決済取引(CFD取引)を行う行為自体賭博行為に該当し,公序良俗に反し違法であるとして,被告会社のほか,当時の代表取締役や取引を勧誘した従業員に対し,不法行為責任を認めた判決(名古屋地裁平成24年10月15日判決)

 本件は,金及び原油を原資産とする店頭証拠金差金決済取引(CFD取引)をさせたことが不法行為にあたるなどとして,原告が,業者やその代表取締役,取引に勧誘にあたった従業員を相手に対し,損害賠償を求めた事案です。

 本判決は,本件取引は,①偶然の事情によって,損益が決せられるものと評価できること,②顧客である原告の射幸心をあおるものであること,③被告会社と原告が財物をかけてその得喪を争うものと評価できることなどを理由として,本件取引を行うことはそれ自体賭博行為に該当し,公序良俗に反し違法であるとしています。そして,本件取引を顧客に勧誘しまたは行わせる行為は不法行為に該当するとしています。

 なお,過失相殺についても,被告らの違法性は著しく大きいことなどから認めていません。