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消費者問題速報 VOL.102 (2012年5月)

1 ①貸付中止処理のときから過払金返還請求権の消滅時効が進行するという消費者金融側の主張を否定し、②高額の過払金債権の放棄を内容とする訴訟外の和解につき錯誤無効を認めた判例(仙台高裁平成24年3月14日判決)

①の点につき、本判決は、特段の事情がない限り、過払金返還請求権の消滅時効は継続的な取引の終了時から進行するとした最判平成21年1月22日第一小法廷判決を前提に、上記「特段の事情」があるというためには、借主において、もはや継続的取引に基づき新たな借入を行うことができないと認識するなど、基本契約の存在が過払金返還請求の行使を妨げないと認めるに足りる客観的事情があることを要すると判示し、本件の貸付中止処理は消費者金融内部の手続にとどまり借主が新たな借入ができないことを客観的に認識できたと言えないとして、特段の事情の存在を否定しました。

 また、本判決は②の点について、和解当時過払金発生の有無が問題となることが一般的に認識されていた以上、和解内容と引直し計算の結果が大きく乖離しており、法的知識の不十分な借主が、そのことを認識しておらず、かつ貸金業者側が取引履歴を開示しなかったなど貸金業者に起因する事情のために認識できなかった等の事情がある場合には、和解内容と表裏をなす過払金返還請求権の存否について動機の錯誤があり、そのことは表示されているとして、和解契約を無効としました。

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2 開示された取引履歴以前から取引があることを認め、取引履歴が廃棄されたことを真摯に調査しようとしない貸金業者に取引履歴の提出を命じた決定(東京高裁平成24年3月22日判決)

 本判決は、貸金業者との金銭消費貸借取引の終了後10年間は取引履歴等が保管されていることが推認され、貸金業者がその後の廃棄・滅失について主張立証をすべきであり、取引履歴等の存否について真摯な調査を行った上で、その廃棄、滅失の経緯について合理的な説明を尽くすことが必要であると判示し、このような真摯な調査がなされていないとして貸金業者に取引履歴の提出を命じました。

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3 民事調停法17条に基づく決定について錯誤無効の主張を認めた判決(東京地裁平成24年4月25日判決)

 本判決は、民事調停法17条に基づく決定(以下「17条決定」とする)は、当事者の意思表示を要素とする訴訟行為ではなく、17条決定に対する当事者の異議申立も、相手方に向けられたものではなく、相手方との間で意思と表示の不一致は問題にならないとして、原則として錯誤無効の余地はないとしながらも、本件の17条決定は、合意を予定する内容に付き,一方当事者の異議がないことが明らかであり、本来調停成立とすべきところを、一方当事者が調停期日に出席できず調停成立が著しく遅延することを避けるために、当事者双方の合意の下便宜的になされたものであり、その実質は当事者間の合意によると異ならないとして、民法95条の類推適用を認めました。

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4 過払金返還請求につき、貸金業者に対し取引履歴の開示と過払金が発生していれば請求する旨伝えた行為を「催告」と評価し、消滅時効の完成を認めなかった判決(名古屋地裁一宮支部平成24年3月30日判決)

 本判決では、貸金業者との金銭消費貸借取引の最終取引日からから10年6ヶ月後に訴えが提起され、貸金業者が消滅時効の援用を主張していたが、時効完成前に、借主代理人が業者に対して、取引履歴の開示と、過払金が発生している場合にはその請求をする旨口頭で告げた行為を時効中断事由である「催告」であると評価し、この催告から6ヶ月経過前に訴え提起がなされている以上、消滅時効は成立しないと判示しました。

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5 先物取引における適合性原則違反等について会社だけでなく、取締役らの責任を肯定した判決(名古屋地裁平成24年4月11日判決)

 本判決は、先物取引会社の担当従業員らについて、適合性原則違反、原告に対する善管注意義務ないし誠実公正義務違反を認め、同社が使用者責任を負うことを前提に、代表取締役については、本件取引開始時において、適合性原則違反を理由とする紛議・訴訟が多数起きており、行政当局からも適合性の審査に問題のあることや投資可能限度額を超えた取引がある旨指摘され、同社の外務員が、適合性の原則に反して委託者に被害を与える可能性があったことを知りながら、従業員教育、懲戒制度の活用などの適切な措置を執らず、放置していたものであって、業務の執行に過大な過失があるとして、会社法429条1項の取締役の第三者責任を認めました。

 また、それ以外の取締役についても、同社の取締役会で顧客との紛議の状況、判決内容の報告をし、改善案を協議していた以上、上記代表取締役の業務執行行為について監視、是正の措置を執ることが可能であったのにこれを怠ったとして、429条1項の責任を認めました。

6 為替デリバティブ取引について証券会社の説明義務違反を認めた判例(大阪地裁平成24年4月25日判決)

 本判決は、本件のクーポンスワップ取引が、顧客の利益が限定的であるのに対し、損失が無限定になる可能性のある相当にリスクの高い取引類型であることを認定し、顧客が為替相場の変動によるリスクにより不測の損失を被ることがないよう、本件スワップ取引の仕組み、取引に伴うリスクの存在について、顧客(法人)の代表者の理解力に応じた説明の義務を負うと判示し、さらに顧客代表者に通貨デリバティブ取引の経験、特に中途解約が困難な取引の経験が乏しい場合には、上記説明にとどまらず、同取引によって顧客が被る損失が理論上無限定であること、想定される最大損失額や追加担保の差し入れが必要となる条件、中途解約が事実上困難なことをも説明する義務があると判示しました。

 その上で、本件取引開始時に担当社員が交付した説明資料にはリスクについての説明はあるものの、担当社員は、損失が理論上無限定となること、追加担保が必要となる可能性があること、中途解約が困難であることを説明しておらず、上記説明義務を果たしたとはいえない、として、説明義務違反を認めました。

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