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消費者問題速報 VOL.101 (2012年4月)

1 高額の過払金の放棄を内容とする訴訟外の和解契約につき錯誤無効を認めた判決

 複数の金銭消費貸借契約が締結され、一連計算をすれば過払金が発生する事案で、貸金業者が一部履歴を開示しないまま、借主が一定額を支払う旨の和解契約が締結されました。この和解契約が錯誤により無効となるかについて、本判決は、「実際の取引経過に即して制限利率により引き直して計算した結果と和解内容が大きく乖離していて、かつ、そのことを借主が認識しておらず、認識しなかったことが貸金業者側に起因する事情に基づく場合は、借主に法律行為の要素について動機の錯誤があり、その動機は表示されているというべきであるから、当該和解契約は無効となると解するのが相当」と判示しました。(三島簡裁平成23年12月22日)【名古屋消費者信用問題研究会HP

2 貸倒損失処理以降の過払金は発生と同時に消滅時効が進行するという主張を退けた判決

 貸金債権について貸倒損失処理を行い、貸付停止措置を取った以降は、追加借入できないので新たな借入金債務の発生が見込まれず、その後の過払金は発生と同時に消滅時効が進行するというアコムの主張に対し、本判決は、上記貸倒損失処理はアコム内部の手続にとどまり、借主において新たな借入をすることができないことを客観的に認識できたと認めるに足りる事情もなく、借主がこれを認識しうるに足るような措置をしたこともないとして、消滅時効が継続的な金銭消費貸借取引の終了時から進行すべきものと解すべきではない特段の事情(最判平成21年1月22日)は存在せず、本件過払金の消滅時効は取引の終了時(最終取引時)から進行すると判示しました。

 (仙台高裁平成24年3月14日)【名古屋消費者信用問題研究会HP

3 無担保取引と不動産担保取引の一連計算を認めた判決

 アコム側が、無担保取引の最終日と不動産担保取引の開始日が同日であったとしても、両取引は契約内容が大きく異なる別個の取引であるから過払金充当合意など存在しないと主張し控訴した事案について、本判決は、当事者間で借換え合意がされた上で不動産担保取引が契約されたことを認定し、両取引が異なる類型の貸付け契約であることは、取引の連続性の判断及び充当合意の推認を左右する事情ではないとして、両取引が事実上連続した1個の取引であるとしました。

 (大阪高裁(第10民事部)平成24年3月23日)【名古屋消費者信用問題研究会HP

 また、同じく無担保取引に不動産担保取引が続く事案(対CFJ)において、借主は過払金と借入金とを併存させることを望んでいないこと、貸金業者はみなし弁済が成立しない場合は利息制限法に従って充当計算されることは当然に知っていること、複数の権利関係が生じることは当事者も望まないこと等を理由として、無担保貸付取引と不動産担保貸付取引の一連計算を認めた原審が支持されました。

 (大阪高裁(第4民事部)平成24年3月16日)【名古屋消費者信用問題研究会HP

 

4 未開示取引履歴等の文書の提出を命じた決定

 開示された取引履歴以前から取引が存在するかについて争われた事案において、本決定は、開示部分冒頭の貸付額が比較的高額であったこと、同時点での本人確認書類がほとんどないこと等から、エイワが取引履歴を開示した期間以前にも、取引があったのものと推認できるとし、文書の所持者であるエイワが文書の廃棄、滅失について主張立証すべきであり、廃棄、滅失については所持者が真摯な調査を行った上で合理的な説明を尽くす必要があるとしました。その上で、代理人からの取引履歴開示要求に対し小出しにしか開示せず、また真摯な説明も尽くしていないとして、エイワに対し取引履歴等の文書の提出を命じました。

 (東京高裁(第14民事部)平成24年3月22日)【名古屋消費者信用問題研究会HP

5 期限の利益喪失特約の文言を変更した後はみなし弁済が成立するというシティズの主張を否定した判決

 利息制限法に反しない有効な期限の利益喪失特約の規定が記載されていたとしても、制限利率を超過した約定利息に基づく支払合計額が記載された償還表が添付されていることから、借主に対し、償還表に具体的に表示された約定利息を払わないと期限の利益を失うとの誤解を生じさせるおそれがあること、契約書上に利息制限法の条文が抜粋され記載されていたからといって上記おそれを払拭されるとはいえないこと、仮に契約書記載の文言すべてが読み上げられたとしても、法律の専門家でない者にとって、各支払期日において、制限超過部分については、その支払をしなくても、期限の利益を失わず、一括請求や損害金の請求を受けることはないということを理解できた可能性は極めて低いと解される、として、みなし弁済の成立を否定しました。

 (大阪高裁平成23年12月1日)【名古屋消費者信用問題研究会HP

 札幌高裁平成23年12月16日判決も同趣旨【名古屋消費者信用問題研究会HP

6 預託金返還請求につき、ゴルフ場運営会社だけでなく、同社の会社分割により設立された新会社に対しても法人格否認の法理を適用して請求を認めた判決

 本判決は、本件会社分割について、旧会社(ゴルフ場運営会社)及び新会社の背後にある訴外会社が、その支配的地位を利用して、原告を含む一部の預託金債権者を詐害する違法、不当な目的で行われたものであるとし、法人格を濫用したものとして、旧会社のみならず新会社についても、原告の旧会社に対する預託金返還請求権につき責任を負うものと判示しました。

 (名古屋地裁平成24年3月27日)

7 未公開株詐欺(買取仮装型劇場型)で、第三者の詐欺による意思表示取消しを認め、公正証書の執行力排除を認めた判決

 買取仮装業者である証券会社が被害者を欺罔し、高額な株式を購入させるにあたり、発行会社は被害者との間で執行受諾文言付公正証書を作成していたところ、発行会社はこれにもとづき強制執行(預金差押え)を行ったため、被害者が請求異議を申立てました。本判決は、証券会社の欺罔行為があったことを前提に、発行会社もこれについて悪意であったと認定し、第三者詐欺にもとづき本件公正証書作成における意思表示を取り消すことができるとして、請求異議を認めました。(東京地裁平成24年3月22日)