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消費者問題速報 VOL.95 (2011年10月)

1 ヤミ金(自動車担保貸付)への支払を苦に自殺した債務者の遺族がヤミ金業者に対して提起した損害賠償請求につき,ヤミ金による取立と自殺との因果関係を肯定した判決

 さいたま地裁平成23年9月7日判決は,自動車売買契約及び同賃貸借契約を仮装して年利252.78%~514.29%の貸付けを行い,債務者が返済できなくなった場合,自動車を引き上げるものの清算義務は果たしていなかったヤミ金業者グループから貸付けを受けた債務者が,支払に困窮し取立を苦に自殺した事案につき,取立行為に脅迫的・強圧的言辞がなくても,ヤミ金業者による一連の行為は債務者を精神的に追い込むものであるとして,取立行為と自殺との相当因果関係(事実的因果関係に加え予見可能性)を認め,当該債務者の死亡による損害まで賠償を認めました(過失相殺なし)。本判決では,ヤミ金業者が引き上げた自動車の多くを購入し転売していた自動車販売業者(刑事では不起訴。)についても,ヤミ金業者グループの首謀者の1人であるとして,賠償責任を認めました。

  

2 有価証券報告書等の虚偽記載により損害を被った(元)株主らからの損害賠償請求につき,相当因果関係のある損害額の算定方法を示した判決

 最高裁平成23年9月13日判決は,西武鉄道の(元)株主らが,同社が提出していた有価証券報告書等の内容が虚偽(上場廃止基準に抵触していた特定少数者持株数の比率を操作,等)であったことが発覚し同社が上場廃止となったことで,損害を蒙ったとして,同社らに対して損害賠償請求をした事案(上告審の争点は損害の算定方法。本件は平成16年の証券取引法改正前の事案であり改正法で定められた損害額推定規定の適用なし。)において,損害の算定方法につき,当該虚偽記載がなければ株式を取得することがなかったとみるべき場合には,処分株式(虚偽記載公表後処分した場合)についてはその取得価額と処分価額との差額から,保有株式(同公表後も保有を継続した場合)についてはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の同株式の評価額との差額から,当該虚偽記載とは無関係な要因(経済情勢,市場動向,当該会社の業績等)による市場価額の下落分(なお,公表直後のろうばい売りによる下落は当該虚偽記載と関係がある。)を控除してこれを算定すべきである(具体的算定は民訴248条を利用)と判断し,損害の算定につき原審に差し戻しました。

 【裁判所HP】 

3 金融機関の全支店を対象として支店番号の若い順序により支店に順位付けをして預金差押命令を求めた事案につき,差押債権の特定性を欠くとした決定

 最高裁平成23年9月20日決定は,預金債権の差し押さえにつき,金融機関の支店を1つに特定することなく,全支店を対象として支店番号の若い順序により支店に順位付けをして差し押さえ命令を発する方式の適否につき,民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは,差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないとした上で,本件申立書は差押債権の特定を欠き不適法であると判断しました。もっとも,預金債権の差押えにつき,全店舗ではなく一部の店舗に限定し順位付けをして差押債権を特定した場合などの特定性の有無については,今後の検討課題だと思われます。

 【裁判所HP】 

4 輸入業者である株式会社が,通貨オプション取引に関して,これを勧誘した証券会社に対して不法行為を理由として損害賠償請求をした事案につき,証券会社の担保に関する説明義務違反を認めた事案

 大阪地裁平成23年10月12日判決は,輸入業者である株式会社が,日興コーデュアル証券(当時)に対し,同社の勧誘に応じて開始した通貨オプション取引(豪ドル)につき,不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案につき,日興コーデュアル証券には,担保に関する説明義務違反があるとして,請求を認容しました(過失相殺7割)。

 本件では,原告が,輸入業者であり,他の金融機関等との間で為替リスクヘッジ目的で通貨オプション取引(米ドル等)を行っていたことなどから,適合原則違反や商品自体に関する説明義務違反は認めませんでした。

 他方で,担保契約について,特に運転資金が必要な事業者にとっては,追加担保がどのような場合にいつ幾らくらい必要となるかは,通貨オプション取引を行うか否かを決定する際に重要な考慮要素となるので,証券会社は,為替相場の変動とその場合に必要となる追加担保額を顧客が具体的にイメージできるようなシミュレーション等の資料を示すなどして,本件取引の必要担保金額の計算方法の仕組みや追加担保に伴うリスクをできる限り具体的分かりやすく説明する義務を負うとした上で,本件ではかかる説明がなかったと認定し,通貨オプション取引で生じた損害との因果関係も肯定しました。

  

5 【ACネットの提訴】

 あいち消費者被害防止ネットワーク(通称:ACネット)は,平成23年10月4日,名古屋地方裁判所において,中部地方で初めてとなる適格消費者団体による差止請求訴訟を提起しました。請求の内容は,専門学校名古屋医専(学校法人モード学園運営)において用いられている学納金不返還条項が消費者契約法9条1号により無効となるとして,その条項の使用差止めを求めるというものです。

6 【安愚楽の期限】

 民事再生手続が開始された株式会社安愚楽牧場の債権届出期限は,平成23年12月6日です。10月20日の時点で債権届出書用紙の発送が相当数未了のようですが,今のところ延長の決定はなく,債権届出書用紙の到達から届出期限まで時間がない事態が予想されます。相談・受任されている方は,ご注意ください。