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消費者問題速報 VOL.90 (2011年4月)

1 17条書面に「返済期間及び返済回数」の記載がなく、みなし弁済の適用があると認識したことにつき、やむを得ないといえる特段の事情はないとしてアコムに悪意の受益者性を認めた判決(東京高裁平成23年3月24日判決)

 本判決は、リボルビング方式の貸付であっても、個別貸付に際して「返済期間及び返済回数」及び「各回の返済金額」を記載することは可能であり(最高裁平成17年12月15日判決同旨)、17条書面の交付義務が免除される理由はなく、これを緩和する見解に立つ相当数の裁判例や有力学説があったという合理的根拠もないとした。その上で最高裁平成19年7月13日判決を前提に、アコムが17条書面に代わるものとして「貸付金額」及び「次回の返済期限及び返済額」を記載した個別明細書を交付しても、みなし弁済の適用があると認識したことにつきやむを得ないといえる特段の事情はないとして、悪意の受益者性を認め、上記平成17年判決以前の取引については悪意の受益者性を認めなかった原審を変更した。

2 再現した17条書面、18条書面では個別貸付時に借主に交付されていたとは認められないこと等を理由に、プロミスに悪意の受益者性を認めた判決(名古屋高裁平成23年3月11日判決)

 本判決は、再現した17条書面、18条書面では、同じもの全てがその都度借主に交付されていたと認める証拠にはならず、これらの書面の内容も特に初期の書面は、17条書面、18条書面の適用用件を充足すると認識し、かつ、認識していたとしてもやむを得なかったといえる程度に達していたとは認め難いとして、プロミスに悪意の受益者性を認めた。

3 ①取引履歴開示冒頭日以前の貸付金額を0円と推計して過払金を算出することを認めた原審判決、②エイワが17条書面を交付しているとは認められないとして悪意の受益者性を認めた原審判決、についてエイワの上告を棄却し、上告受理申立てを不受理とした判決(最高裁平成23年3月3日判決)

 原審判決(東京高裁平成22年9月30日判決)は、取引履歴開示冒頭日以前の借用証書等に記載された約定利率、各借換時の弁済額、この間取引が継続されていたことに照らし、取引履歴開示冒頭日までの貸付額を0円となるだけの過払金を推定計算したことを合理的であるとした。また、みなし弁済の適用を受けるためには、17条書面、18条書面を交付することが用件となるが、エイワが17条書面を交付していたと認めることはできないとして、悪意の受益者性を認定した。本判決は、これらの原審判決に対するエイワの上告を棄却し、上告受理申立てを不受理としたものである。

4 (1)引き直し計算の結果と調停内容が乖離していること、(2)借主がその乖離の事実を認識していないこと、(3)借主が認識しなかったことにつき、貸金業者側に起因する事情があること、の3要件が満たされる場合、調停は錯誤による無効となるとした判決(名古屋高裁平成22年10月28日判決)

 本判決は、武富士が取引履歴の一部しか開示せず、これを前提として実際の借受金債務残額より高額な債務の支払いを合意した特定調停の効力につき、上記3要件をもとに、(1)引き直し計算の結果と調停内容が乖離していること、(2)借主が乖離したことを認識できないまま、開示された取引の限度の計算結果を前提に調停に応じたこと、(3)借主が乖離を認識できなかった原因は、武富士が取引履歴の全てを開示しなかったことにあること、を認定し、当該特定調停は要素の錯誤があり、かつ、その動機も表示されていたとして無効であるとした。

5 建物の構造計算を誤るという注意義務違反により、当該建物の居住者等の権利を侵害したとして、建物の構造計算を担当した建築士及び工事監理者である建築士に建物の補修費用等についての損害賠償請求が認められた判決(福岡地裁平成23年3月24日判決)

 本件は、建物の構造計算に偽装があり、安全が確保されていないとして、マンション住民が構造計算を担当した建築士らに起こした損害賠償等請求事件である。

 本判決は、建物建築に携わる設計者、工事監理者等は、建物建築に当たり、当該建物の居住者等に対しても、建物としての基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務を負うとした最高裁判決(平成19年7月6日判決)を引用した上で、被告である構造計算を担当した建築士につき、誤った構造計算をして上記注意義務を怠ったため、本件マンションは大規模な地震等により崩壊、破壊等を起こす危険性があるという瑕疵を生じさせ、マンション居住者等の財産を侵害したとして不法行為責任を認めた。また、マンションの工事監理者である建築士に対しても、構造計算の誤りを見過ごしたとして、同様の不法行為責任を認めた。その結果、両建築士に対し、建物の補修費用等約1億7500万円の損害賠償が命じられた。

 同種の事件として建築士の耐震強度偽装により経営するホテルの建物を解体せざるを得なくなった者による損害賠償請求事件については、名古屋高裁平成22年10月29日判決が、建築確認審査事務を行った愛知県の建築主事の注意義務違反を否定し(原審判決認容部分を取消し)、コンサルティング会社については、信義則上の具体的注意義務を負い、その選定した設計会社が委託した建築士による耐震偽装について監督義務違反の責任を負うとして損害賠償請求を認容した。

6 いわゆる敷引特約は、敷引金の額が高額に過ぎるものである場合には、賃料が相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効となるとした判決(最高裁平成23年3月24日判決)

 本判決は、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重しており消費者契約法10条前段の要件を満たすと判断した。

 その上で、敷引特約が、当該建物に生じる通常損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価されるものである場合には、当該賃料が近傍同種の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情がない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条後段の要件を満たし無効となるものとした。

 もっとも、本件については、契約の経過年数、賃借物である建物の占有面積等から通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えないこと、経過年数に応じた敷引金額の増加割合、更新料の他に礼金等の一時金を支払う義務を負っていないこと等から、本件敷引金が高額に過ぎるとはいえず、消費者契約法10条により無効であるということはできないとした。

7 ①貸金業者間における資産譲渡契約(タイヘイ→CFJ)で過払金債務不承継条項が定められている場合に、過払金債務の承継を否定した判決(最高裁平成23年3月22日判決)と、②過払金債務不承継条項(マルフク→CFJ)の存在を前提としながら、同条項を主張することは信義則違反、権利濫用であり、許されないとして過払金債務の承継を認めた判決(東京高裁平成23年1月19日判決)

①の判決は、貸金業者間において貸金債権を一括で譲渡する旨の合意をした場合、譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは、譲渡業者と譲受業者の合意内容によるものとした。そして、資産譲渡契約(タイヘイ→CFJ)において過払金債務を承継しない旨の条項が明確に定めている本件においては、資産譲渡契約が営業譲渡の性質を有しても、借り主と譲渡業者との間の金銭消費貸借契約に係る契約上の地位が譲受業者に移転すると解することはできないとして、タイヘイからCFJに対する過払金債務の承継を否定した。これに対し、②の判決は、資産譲渡契約(マルフク→CFJ)上の過払金債務不承継条項の存在を前提としながら、貸金債権と表裏一体の関係にある過払金返還債務を営業譲受人に承継させないという特殊な定めを置く場合には、営業譲受人は、借主に対し、債務不承継条項などの契約内容の主要な部分を開示したり、借主の営業譲渡人に対する過払金返還請求権の行使を不当に制約しないよう配慮することが、信義則上要求されるとした。その上で、本件では、資産譲渡契約にマルフクの取引履歴破棄義務条項、CFJのマルフクに対する取引履歴の情報提供義務期間を限定する条項等により借主のマルフクに対する過払金返還請求権の行使が困難になったこと、CFJの予見可能性、マルフク、CFJ連名による借主に対する債権譲渡通知には、債権譲渡の事実のみが記載され、過払金債務不承継条項の存在が隠蔽されたこと、CFJは営業譲渡を受けた後も借主に対する与信を継続してマルフクの契約上の地位を承継したかの如き誤解を与えたこと等の事情を総合し、CFJが過払金債務不承継条項を借主に主張することは、圧倒的な経済力と情報量をもって、自己に有利な過払金債務不承継条項を資産譲渡契約の当事者ではない零細な借主に押し付ける一方で、零細な借主の過払金請求権の行使を困難にして著しく不利な状態においやるもので、信義則に反し、権利の濫用であり許されないとして、結果としてマルフクからCFJに対する過払金債務の承継を認めた。

8 ショッピングとキャッシングの利用が可能である信販会社のカードによる借入れによって発生した過払金債務の消滅時効期間は、カード契約の有効期限を経過するまでは進行しないとした判決(名古屋地裁平成23年3月9日判決)

 本判決は、カードキャッシングとカードショッピングの利用が可能である信販会社(オリコ)のカードを利用したキャッシングにより発生した過払金債務の消滅時効について,カード契約の有効期間が経過するまでは,カード契約に基づく取引はカードキャッシング(借入れ)を含めて有効期限日まで継続していたと認められるとして,カードの有効期限と定められた借主がカードの年会費を支払った最終日から1年後の日までは,消滅時効期間は進行しないとして時効の成立を否定した。