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消費者問題速報 VOL.71 (2009年6月)

1 居住利益控除論の否定〔名古屋高裁H21.6.4〕

 名古屋高裁(民4)は、平成21年6月4日、品確法の瑕疵担保責任に基づいて欠陥住宅の取壊しと建替えを認めた判決において、「本件売買代金を完済した上で本件建物に居住しているものであることや,本件建物の瑕疵の内容,部位,程度等は,前示の通り構造耐力についての建築基準法上の基準に適合しない重大なものであり,本件建物は,安全性を欠いた欠陥住宅であるといえるから,被控訴人らは,やむなくこれに居住していたものと推認できる」と判示して、欠陥住宅に住み続けたこと(居住利益)は損益相殺の対象とならないことを明らかにした。

2 適格消費者団体の活躍〔京都地裁H21.4.23〕

 消費者契約法の適格消費者団体「消費者支援機構関西」が、消費者金融「ニューファイナンス」に対し、同法13条3項に基づいて不当な違約金条項を含む契約締結の禁止等を求めていた事件について、京都地裁(第6民事部)は、平成21年4月23日、「本件条項は消費者が法律上支払い義務を負わない金員を支払うことを内容とする条項として,信義則に反して,消費者の利益を一方的に害する」「利息制限法に違反する可能性のある本件条項の差止めを認めても事業者である被告の利益を不当に害するとはいえない」と判示し、期日前弁済における違約金条項の使用禁止と同条項記載の借用証書の破棄を命じた。

 平成19年7月にスタートした消費者団体訴訟制度では,国の認定を受けた適格消費者団体は消費者に一方的不利な契約条項を差止請求できる(消費者契約法12条3項)。本判決は、この消費者団体訴訟制度に基づく初の差止命令であり、今後の過払い被害の未然防止につながることが期待される。

3 過払金返還請求訴訟の現状

(1) 消費者金融・最近の反論

 最近の過払金返還請求訴訟では、消費者金融各社は、過払い利息の発生時期を最終取引時として過払い利息の元本充当を遅らせ,返還すべき過払金の減額を主張する反論を展開している。これは過払金返還請求権の消滅時効の起算点を取引終了日とした平成21年1月22日、3月3日、6日の各最高裁判例を受けた主張と思われる。

 これらの最高裁判例でも返済時に過払い利息を貸付元本に当然充当する引直計算を採用しているが、これまで過払い利息の発生時期を明確に判示した例は下級審判決でも不見当だったため、裁判で主要な争点として争われるケースが増えている。

(2) 最新の下級審判例

 過払い利息の発生時期に関して、名古屋高裁管轄で下された最近の判例4件を紹介する。

 平成21年5月28日名古屋簡裁(民事2係) 「悪意の受益者と認められる以上,過払金が発生した場合は利息が生じることは明らかであり(民法704条前段),被告の主張は民法704条前段と後段を混同するものであって,採用できない。」

 平成21年5月27日名古屋地裁岡崎支部 「民法704条の趣旨は,利得財産から通常発生すると想定される運用利益について,悪意受益者と損失者との衡平の観点から,これを元本とともに損失者に返還させるところにあるところ,何らかの理由でその行使を一定期間行わないことにしたとしても,その間運用利益の逸失が発生し続けることに変わりはなく,不当利得返還請求権の行使自体に関する障害の有無によって同条による利息の発生が直接左右されるものではない」

 平成21年6月4日名古屋地裁(民事7部) 「過払い金は過払いとなる弁済の都度個別に発生するところ,悪意の受益者については,民法704条前段により,受益の日の翌日から法定利息が発生することは確立した判例」

 平成21年6月18日名古屋高裁(民事4部) 「民法704条は,悪意の受益者は,受けた利益に利息を付して返還すべき旨規定しているところ,同条所定の利息の始期は,受益の時(過払金については,過払金の発生時)であると解するのが相当である」  

4 消費者庁法案の成立

 平成21年5月29日、ついに消費者庁関連3法(消費者庁及び消費者委員会設置法、消費者庁及び消費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律、及び消費者安全法)が成立した。

 消費者庁は、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けて消費者の利益の擁護・増進などの行政事務を一体的に行う内閣府の外局で、消費者のための政策を企画・立案、関係機関の調整や協力を求める権限が与えられている。

 このことは、従来の産業育成の行政から消費者・生活者のための行政へと転換する画期的なものと評価できよう。