袴田事件、福井女子中学生殺人事件と、相次いで再審無罪判決が出された。また、プレサンス事件、大川原化工機事件など、冤罪事件は跡を絶たない。刑事弁護活動の重要性が改めて認識されている。

 2025年(令和7年)7月には、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の取りまとめ報告書が作成された。特に国選弁護に関していえば、近年では、9割近い被疑者が捜査段階において国選弁護人を選任し、ほぼ全ての事件において24時間以内に国選弁護人が指名されること等、その堅調な利用が確認された。

 当会もこれまで、国選弁護が被疑者・被告人の権利擁護のため、憲法上必須の制度であるとの認識の下、会独自の予算で、当番弁護士制度や取調べ立会いの援助制度、罪に問われた障がい者等に対する刑事弁護費用等の援助制度を創設し、時代の進展に合わせ高度化する刑事弁護活動を、市民が費用負担の心配なく享受できる体制の拡充に注力してきた。当会では、平成23年4月から、当事者鑑定が必要な場合に鑑定にかかる費用を支給する制度を設け、検察官が起訴前鑑定を実施している事件や、被疑者又は被告人が鑑定留置された事件のほかに、責任能力・過失の有無・犯人性等犯罪の成否に関する主要な争点や、被告人の処罰の要否に重大な影響を及ぼす情状関連事実が存在し、当事者鑑定が必要であると認められる事件について費用の援助を行っている。なお、この制度は、専門家に依頼して行う鑑定であれば、精神鑑定のほか、情状鑑定、法医学鑑定、工学鑑定、DNA鑑定、筆跡鑑定等も広く対象としている。

 しかし、そもそもこれらの諸措置は、無罪推定の原則が憲法上保障される我が国において、本来全て国費によるべきものである。前記在り方協議会で取り上げられた多岐に亘る新たな刑事弁護活動を含めて、国費で賄われることを前提に、これを支える確固とした予算措置の議論が必要不可欠である。

 そして、かかる議論の中で、現行の国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用が極めて不十分であることの抜本的な解決も図られるべきである。

 すなわち、国選弁護事件の平均的な報酬は、捜査・公判段階(裁判員裁判対象事件を除く)共に適正な弁護活動を行うために必要な対価としては非常に低額な状態が続いている。昨今の物価高すら反映されていない。近年、物価の上昇傾向は顕著であり、消費者物価指数の上昇率は、ここ5年間で10パーセントを超えている。ところが、この様な物価上昇傾向にもかかわらず、国選弁護報酬の額が増額されることはなく、約20年前からほぼ横ばいの状態である。

 この様な状況が続けば、当初より低廉であった国選弁護報酬の額が実質的な減額と評価され、国選弁護の担い手を確保するに当たり大きな障害となる。

 また、当会では、要通訳事件が比較的多く、要通訳事件の担当者には、通訳人を探して通訳を依頼し、接見の日時について通訳人と日程調整をする負担が加わる上に、通訳を介しての接見は、そうでない場合と比較して概ね2倍の時間を要すること等の負担もある。また、要通訳事件においては、捜査機関の通訳、翻訳における誤訳チェックが重要であることは言うまでもないが、その作業を通訳人と協同で行う負担も加わる。しかしながら、現在の報酬体系が、これらの負担増に見合ったものであるとは到底いえない。これらの点で国選弁護の負担に見合う報酬体系とは到底いえない。

 また、近時、佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA鑑定で不正行為が発覚したが、本来、捜査機関側の鑑定の信用性を争うべき事案は多く、数々の冤罪事件でも弁護側の科学的鑑定が無罪主張の柱となってきた。しかし、現行の国選弁護費用体系では、当事者鑑定の費用をはじめ、本来行われるべき多くの弁護活動の費用が賄われず、極めて不公平なものとなっている。その結果、証拠開示が不十分な中で人質司法に抗し、冤罪防止や更生支援等に鋭意努めるべき国選弁護人の活動が相当制約されているのである。

 そもそも、国選弁護業務のための予算は160億円前後と極めて僅少な額で推移している。膨張を続ける100兆円規模の国家予算に占める割合も年々低下しており、人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れているという他ない。

 よって、当会は、被疑者・被告人の更なる権利擁護と公正な刑事司法制度実現のため、国会、法務省、財務省等に対し、国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める。

 2026年(令和8年)5月18日

                              愛知県弁護士会

会 長 長谷川 龍 伸