民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めて夫婦同姓を義務付けている(夫婦同姓制度)。そして、実態としては、婚姻事例の約95パーセントは女性が改姓している。

 しかし、「氏名」が個人の人格の象徴であり、人格権の一部を構成するものであるにも関わらず、婚姻に際して、氏の変更を強制されない自由が不当に制限されているという点で憲法13条に違反する。また、夫婦が同姓を選択しない限り婚姻による法的効果を享受できないという点で憲法14条に違反し、夫婦が同姓でなければ婚姻できないといった、両性の合意以外の要件を付すことは、憲法24条1項が定める「婚姻の自由」を不当に制限するものである。

 この点、2021年(令和3年)6月23日の最高裁判所大法廷決定では、上記民法などの規定は合憲であるとの判断がなされているが、4人の裁判官は違憲であるとの反対意見を示している。そして、多数意見においても、合憲であるとの判断をしたものの、積極的に夫婦同姓制度に賛同しているものではなく、「制度の在り方は、平成27年大法廷判決の指摘するとおり、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」としている。

 ところが、夫婦同姓制度を解消するための選択的夫婦別姓については、1996年(平成8年)2月に法制審議会が「民法の一部を改正する法律要綱案」を答申したものの、結局、法案提出が見送られたままであり、その後も、本問題は放置されていると言わざるを得ない。

 現在、婚姻前の氏を「通称」使用として認める場面は増えているものの、上記のとおり、夫婦同姓制度は憲法に反するものである。

 そして、一般社団法人日本経済団体連合会は、2024年(令和6年)6月18日に発表した「選択肢のある社会の実現を目指して~女性活躍に対する制度の壁を乗り越える~」の中で、「通称」使用では解決が困難な課題も少なくなく、女性が活躍する社会においては、「通称」使用に伴う課題が、企業にとっても、ビジネス上のリスクとなり得る事象であると断じ、選択的夫婦別姓制度の導入を求めている。

 このように、民法750条が定める夫婦同姓制度は憲法に反するものであって、多様性を重視する社会の趨勢ともかけ離れたものである。そして、「通称」使用では、解決が困難な課題も少なくなく、経済界からも、選択的夫婦別姓制度の導入が求められているところである。

 よって、当会は、夫婦同姓制度を定める民法750条を速やかに改正し、いわゆる選択的夫婦別姓の制度化を早期に実現するよう強く求めるものである。

                         2024年(令和6年)7月23日

                          愛知県弁護士会

                              会長  伊 藤 倫 文