当会は、中央最低賃金審議会及び愛知地方最低賃金審議会に対し、早急に、最低賃金額を引き上げて、最低でも時給1000円以上の金額を答申することを求める。

1 長期に及ぶ新型コロナウイルス感染症の拡大により、労働者の収入が減少している。さらに、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが重要である。

2 中央最低賃金審議会は、本年7月ころ、厚生労働大臣に対し令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について答申する予定である。昨年、同審議会は全国加重平均で28円の引上げ(全国加重平均930円)の答申をし、これに基づき愛知地方最低賃金審議会でも最低賃金を28円引き上げるとの答申がなされ、愛知県の最低賃金額は955円となった。

3 しかし、最低賃金額である955円ではフルタイム(1日8時間、週40時間)で働いたとしても、月173時間として、月収で16万5215円、年収でも約198万円にしかならない。この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは到底不可能であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」にはほど遠い状況である。

  我が国の相対的貧困率は15.4パーセント(2018年)と依然高い水準にあり、貧困線は年収127万円で少し上がっているだけである。貧困と格差の拡大は女性や若者に限らず、全世代で深刻化している。働いているにもかかわらず、貧困状態にある者の多くは、非正規雇用労働者として最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっているといわざるをえない。

 先進諸外国では、2021年から2022年にかけて、最低賃金が次々に引き上げられている。フランスでは、2021年1月に続き、同年10月から10.48ユーロに引き上げられた。ドイツでは、2021年7月、2022年1月に続き、同年7月に10.45ユーロへ引上げとなる。さらに、同年10月から12ユーロに引き上げることについて国会で審議中である。イギリスでも、2021年4月に続き、2022年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が9.5ポンドに引き上げられた。韓国では、2021年1月に続き、2022年1月から9160ウォンに引き上げられた。このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しており、我が国でも2022年において大幅引上げが必要である。

4 当会は、2017年度(平成29年度)も、会長声明で最低賃金の大幅な引上げを求めたが、当該年度の引上げ幅は前年度と比べて約3%の引き上げにすぎず(845円から871円への引き上げ)、2018年度(平成30年度)に、このペースでは最低賃金が1000円に達するのは2022年であると指摘したが、仮に今年度が昨年度の引上げ幅であったとしても、最低賃金が1000円に達するのは2023年である。

 しかし、時給1000円であっても、フルタイム(1日8時間、週40時間)で働いたとしても年収は約208万円であり、単身者世帯にとってすら最低限度の生活を維持するのに十分な額といえないことからすれば、最低賃金1000円の達成は最低限の目標である。

5 なお、最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」 制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、利用件数はごく少数である。我が国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように十分な支援策を講じることが必要である。具体的には、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策が有効であると考えられる。

6 以上の理由から、中央最低賃金審議会及び愛知地方最低賃金審議会に対し、早急に、最低賃金額を引き上げて、最低でも時給1000円以上の金額を答申することを求める。  

2022(令和4)年6月20日

 愛知県弁護士会      

会 長  蜂 須 賀 太 郎