令和2年10月30日付けで新型コロナウイルス感染症の影響によって債務の弁済が困難となった個人債務者の生活や事業の再建を支援することを目的として「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「自然災害債務整理ガイドライン」という。)を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則(以下「本特則」という。)が取りまとめられ、同年12月1日にその適用が始まった。本特則の趣旨は、個人債務者が、新型コロナウイルス感染症の蔓延という、誰もが予測しえなかったリスクの発現によって、既存債務の返済が困難となった場合について、帰責性のない個人債務者のみにそのリスクを負わせるのではなく、対象債権者の協力の下に、個人債務者の生活及び事業の再建を図ることにある。

 本特則適用から1年が経過し、その間、当会会員への委嘱件数は90件を超えており、うち9件について既に債務整理が成立している。このように、本特則が、厳しい状況に追い込まれた個人債務者の生活及び事業の再建に一定の役割を果たしてきたと評価することができる。この間、本特則の運用に尽力してこられた金融機関等をはじめとする関係各者に改めて敬意を表する。

 他方で、委嘱件数が増加するにつれ、以下の課題も明らかになってきている。

1 損失補償付き制度融資の問題

 地方自治体による損失補償付きの制度融資に関し、本特則のケースについて求償権放棄を認める条例の規定が未整備であることが原因で、対象債権者が登録支援専門家による提案内容に同意しない事案が報告されている。同様の報告は愛知県のみならず全国各地でなされている。

 したがって、本特則を含む自然災害債務整理ガイドラインに基づく債務免除の場合において、求償権放棄を可能とすべく、地方自治体における条例改正等の対応が急務である。

2 自然災害債務整理ガイドラインを尊重しない対象債権者の存在

 一部の対象債権者が、本特則に基づく債務整理を通常の私的整理(任意整理)と混同し、本特則の内容とは齟齬する対応をしているとの報告がされている。

 対象債権者をはじめとするすべての関係者には、本特則を含む自然災害債務整理ガイドラインを尊重する対応が求められる。

3 対象債務の基準日の問題

 本特則が適用されない基準日後の対象外債務の存在が原因となり、基準日以前の対象債務も含めて本特則の利用を断念した事案が報告されている。

 新型コロナウイルス感染症の影響のさらなる長期化に伴って、同様の事案は増えると推測されることから、対象債権者の一部に見受けられるように、本特則の趣旨・目的を尊重して、対象債務の範囲を緩やかに解釈する等の弾力的運用が期待される。

 本特則が実効的に運用されていくためには、すべての関係者が、本特則の趣旨・目的等への理解を深めるとともに、課題に対して真摯に向き合い、既存の制度の改善、制度の弾力的な運用等による課題解決を目指していかなければならない。  

 当会は、引き続き、本特則がより実効性あるものとするために尽力していく所存である。

                     2021年(令和3年)12月7日                       愛知県弁護士会    

会 長 井 口 浩 治