本日、名古屋高等裁判所刑事第1部(山口裕之裁判長)は、名張毒ぶどう酒事件につき、故奥西勝氏の妹岡美代子氏の死後再審請求を棄却する旨決定した(第10次再審請求審決定。以下「本決定」という。)。

 本件は、1961年(昭和36年)3月、三重県名張市の集落で行われた懇親会において、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡し、12名が傷害を負った事件である。奥西氏は、第一審津地方裁判所で無罪判決を受けたが、控訴審名古屋高等裁判所で逆転死刑判決を受け、この判決は確定した。その後、日本弁護士連合会が奥西氏の再審支援を開始し、第5次再審請求事件以降、当会会員を多数含む弁護団が、長年にわたって熱心な弁護活動を続けてきた。2005年(平成17年)4月には、一旦、再審開始決定が出されたが、その後、同決定は取り消された。そして、2012年(平成24年)5月、奥西氏は重篤な病に倒れ、2015年(平成27年)10月4日、第9次再審請求の道半ばで帰らぬ人となった。

 奥西氏の遺志を引き継いだ岡氏が新たな再審請求人となり、2015年(平成27年)11月5日、第10次再審が開始した。弁護団は、当審においても多数の新証拠を提出した。とりわけ糊に関する新証拠(毒物が混入されたぶどう酒の瓶口に巻かれていたとされる封緘紙の裏面に製造過程では塗布されるはずのない別の糊が付着していたことを示す鑑定書その他の新証拠)は画期的であり、奥西氏以外の人物に犯行機会があったことを明確にし、確定判決に合理的な疑いのあることを示すものであった。ところが、裁判所は、新証拠の価値を見誤り、依然として自白に偏重し、科学的証拠に対する理解を示そうとせず、また、弁護団が請求した証人尋問を実施せず、まさに審理不尽のまま再審請求を棄却した。

本決定は、無辜の救済という再審の制度趣旨を踏まえない極めて不当な決定であり、異議審において直ちに取り消されなければならない。当会は、引き続き名張毒ぶどう酒事件の再審を支援し、あらためて、無罪判決の獲得に向け、最大限の努力を継続することを表明する。

                        2017年(平成29年)12月8日

                           愛知県弁護士会     

                              会 長 池 田 桂 子