今日、日本国憲法は70年目を迎えます。1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、戦後わが国が平和のうちに繁栄し、国際社会から高い信頼を得るのに重要な役割を果たしてきました。主権者たる国民は、戦後憲法が施行されてから今日までの間、憲法の精神をはぐくむと共に、憲法と現実社会との相克の中で生じる困難を克服しようと行動してきました。また、私たち弁護士も、司法の一翼を担う者として、ときに生じる憲法違反の実態を是正しようと取り組んできました。

 昨年夏の参議院選挙から選挙権年齢が引き下げられ、18歳以上の若い人たちにも選挙権が認められました。若い世代と憲法の状況について語る時間を共に過ごしたいと思います。

 憲法は、国家権力の濫用から自由や権利を護るため主権者である国民が定めたきまりであり、国家権力を制限、拘束するものです。これを立憲主義といいますが、日本国憲法は、個人よりも国家が尊重され国民の自由や権利が侵害されてきた戦前、戦中の歴史に対する深い反省の下、立憲主義を理念として制定されたものです。世界人権宣言(1948年採択)に先駆けて豊富な人権規定を定め、世界に例をみない徹底した恒久平和主義を採用しています。日本国憲法は、私たち国民の自由や権利を護るために過去の反省を踏まえ、また未来への指針を示している大切な拠り所です。

 21世紀となった今日、私たちの社会は新たな課題を抱えています。貧困と格差の広がりにより、個人が尊厳をもって労働し生存する権利が脅かされるという極めて深刻な事態が常態化しています。また、他国と協調するという理由のもとに、恒久平和主義に反する集団的自衛権の行使を可能とした安保法制が敷かれ、立憲主義の危機ともいえる状況も生じています。最近の憲法改正をめぐる議論では、個人よりも国家を重視することや、緊急事態条項(国家緊急権)により一時的に権限を内閣に集中させるといった意見が発表されていますが、それらが認められれば、国民の自由や権利を護るため国家権力を制限するという立憲主義は大きく損なわれることとなってしまいます。

 私たち主権者が立憲主義を脅かす新たな問題を克服するためには、十分な情報が得られ、権力から監視されることなく自由闊達な議論ができ、熟慮のための十分な時間を与えられることが必要です。現在、国会では、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案が審議されています。監視社会につながるおそれがあると心配されます。今こそ、国民に知る権利と自由に議論をする場が十分に保障されることが大切です。

 私たち弁護士は、70年を振り返る今こそ、弁護士の使命として、一人ひとりが個性豊かに次の時代を志向する主権者たる国民のため、日本国憲法の理念に反する諸問題の克服に果敢に取り組んで行く最大限の努力をすることを誓い、主権者と共に考え行動していきたいと思います。

2017年(平成29年)5月3日        愛知県弁護士会 会長 池田 桂子