1 災害ケースマネジメントって?
地震や風水害等の災害時に、被災者一人ひとりに寄り添い、生活全体における状況を把握し、それぞれの課題に応じた情報提供や人的支援など個別の支援を組み合わせて支援計画を策定し、「生活の復興」を支援する取組みを、「災害ケースマネジメント」といいます。
「災害からの復興」というと、一般的には行政(国や県、市町村)が責任を負うイメージがあります。それは必ずしも間違いではありませんが、それだけでは被災者支援としては不十分なのが実態です。
なぜなら、実際の災害時、被災者には食料・生活用品等の物資不足や、住宅、医療、保健、福祉、雇用・就労といった様々な課題が同時に発生しますが、これらの多種多様で複合的な課題に行政のみで対応しようとすると、どうしても画一的な対応にならざるを得ません。
というのも、災害時に行政が果たすべき最優先の役割は、「被災者の命を守ること」であるため、まずはこのために行政資源を投入していくことになります。また、そもそも平常時において、食料・生活用品等の物資の手配や、住宅、医療、保健、福祉、雇用・就労といった様々な課題の多くを解決しているのは、民間です(物品であればスーパーやコンビニエンスストア、住宅であれば民間の不動産会社、医療・保健であれば町のクリニック、福祉であれば社会福祉法人やNPO団体など)。
そこで、「餅は餅屋」の発想から、行政以外にも様々な民間事業者・団体を復興支援の担い手として、被災者一人ひとりの「困りごと」に合った個別支援をしていこうというのが、災害ケースマネジメントの考え方です。
2 岡崎市における災害ケースマネジメントのワークショップ企画への参加!
弁護士や弁護士会が災害復興支援に取り組む上でも、この災害ケースマネジメントの考え方が大切であると指摘されています。全国的には先進的な取組みもあり、たとえば、九州弁護士会連合会は、令和5年10月、「被災者支援のための「災害ケースマネジメント」を実効性あるものにするために必要な法改正等を求める決議」を行い、公表しています。
愛知県弁護士会としても、災害ケースマネジメントの中で一定の役割を果たすべく、県内の各自治体や関係機関との協議や研修に取り組んでいるところです。
そのような中、令和6年2月5日、岡崎市で災害ケースマネジメントへの取組みとして、「誰一人取り残さない災害対応のために in OKAZAKI ~支援機関向けワークショップ~」とのワークショップ企画が開催され、愛知県弁護士会からも5名が参加しました。
当日は、第一部において、菅野拓准教授(大阪公立大学大学院文学研究科)から「災害ケースマネジメントの概要及び実施のポイント」と題する非常に分かりやすい講演や、令和6年能登半島地震でボランティア活動をされてきた方々から被災地に関する報告がありました。
第二部のワークショップでは参加者を10名程のグループに分けて、「災害時にどんな困りごとが想定されるか?」「それを解決できるのは誰か?」という観点から、自由に意見を出し合って議論しました。
例えば、「大工さんなどの専門的スキルのあるボランティアを、どう確保・養成するか困っている。」、「それなら、自治体が職能団体と災害時協定を結び、災害時には被災者の負担なく活動してもらう仕組みを作ったらどうか。」といった具合です。
参加者は岡崎市職員の他、社会福祉協議会、ハローワーク、地域包括支援センター、訪問看護などの福祉事業に携わる方々が多く、災害時の困りごとの吸い上げとして、その解決策としても、特に福祉部門のチカラが必要不可欠であることがよく分かりました。
また、令和5年6月豪雨の際に実際にあった困りごととして、弁護士にご相談いただければお役に立てたであろう問題もあったことも分かり、災害時に可能な限り法律相談等の法的支援サービスを被災者の身近に届けられるようにする(そして必要に応じ別の支援につなげる)ことの重要性を、改めて認識することができました。
3 今後に向けて
ワークショップでは、災害時に想定される困りごとは実に多種多様であること、しかしその重層的な困り事に対しても、行政や福祉事業者、職能団体といった様々な解決策があり得ることが分かりました。
しかし、これらの解決策がそれぞれ独立したままの状態では、必要な支援を本当に必要な所に届けることは困難なため、各分野の日頃からの連携が必要となってきます。
また、弁護士会側としても、高齢者・障害者支援や子どもの権利など、会が取り組んでいる災害対策以外の分野との連携が求められます。
そのため、愛知県弁護士会としては今後、岡崎市などの自治体や他の支援団体との連携をさらに進めるとともに、会内の活動の相互理解にも取り組むことで、災害ケースマネジメントの一端を担っていきたいと考えています。
以 上