1 自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則、適用開始に

新型コロナウイルス感染症の影響が続いています。社会経済活動の自粛や制限が長期に及ぶ中で、経営危機に陥る事業者も出ています。また、その影響は、個人の生活にも広く及び、就業先や取引先の経営危機や倒産等により、減収や失職、廃業を余儀なくされた方も少なくありません。

2020年12月1日、災害救助法の適用を受けた災害を対象とする「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下、「自然災害債務整理ガイドライン」といいます。)を、一定の要件を修正した上で、新型コロナウイルス感染症の影響によってローン等が返済できなくなった個人債務者にも適用することが発表されました(以下、自然災害債務整理ガイドラインを新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則のことを、「コロナ特則」といいます。)。

新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則について | 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関

○自然災害債務整理ガイドラインとは?

自然災害債務整理ガイドラインは、自然災害に被災したことで住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローン等の既往債務の返済が困難となった個人債務者について、破産手続等の法的倒産手続の要件に該当することになった場合でも、このような法的倒産手続によらずに、債権者と債務者の合意にもとづき、債務整理を行う際の準則として取りまとめられたものです。

自然災害債務整理ガイドラインには、

①破産をしなくても、既往債務の減免を受けられる

②個人信用情報機関に登録されない(いわゆるブラックリストに載らない)

③破産に比べ、より多くの財産を債務者の手元に残すことができる

④原則として、保証人に対して請求がいかない

⑤弁護士等の「登録支援専門家」の支援を無料で受けられる

など、債務者にとってのメリットがあります。

熊本地震や西日本豪雨災害、北海道胆振東部地震等の被災者支援でも活用され、とても多くの債務者が、このガイドラインによって債務を整理し、生活や事業を再建してきました。

○新型コロナウイルス感染症の拡大と「災害」

新型コロナウイルス感染症は、震災や台風、水害等のいわゆる自然災害ではありません。

しかし、不可抗力とも言える事象により個人や個人事業者が支払不能となる構図については、新型コロナウイルス感染症と自然災害は共通です。

もともと、日本弁護士連合会や各地の弁護士会は、「感染症の蔓延は災害である」との立場から、様々な感染症に対し、災害対策・災害復興支援という観点からも取り組んできました。自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則は、災害復興支援のために弁護士や弁護士会が取り組んできた知見や経験を、新型コロナウイルス感染症拡大による影響に活用するものとも言えます。

2 自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則を利用するには?

コロナ版ローン減免制度とは.png

○コロナ特則の要件

自然災害債務整理ガイドラインのコロナ特則を利用できるのは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことによって、対象債務を弁済できなくなった個人の債務者です。個人事業主は対象となりますが、法人は対象外です。

「新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことによって」とは、新型コロナウイルス感染症の影響により収入や売上げ等が減少したことであり、具体的には、2020年2月1日以前の収入や売上等と比べて、収入や売上等が減少している場合などに認められます。

コロナ特則によって整理できる債務(対象債務)は、基本的には、金融機関等に対して負う、以下の債務です。

① 2020年2月1日以前に負担していた既往債務

② 2020年2月2日から2020年10月30日までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上等の減少に対応することを主な目的として借入等を受けたことに起因する債務

これら以外にも、コロナ特則を利用するには、いくつかの要件を充たす必要があります。

○コロナ特則を利用するために、まず最初に行うことは?

コロナ特則を使って債務の整理をしようとする債務者は、まず、ご自身で、主たる債権者(債務残高が最も多い債権者)に、コロナ特則の手続に着手することを申し出ます。この申出は、口頭でもかまいません。

申出に対し、主たる債権者から手続の着手についての同意書を受け取ったら、弁護士会に対して、登録支援専門家の委嘱を依頼してください。

愛知県弁護士会に対する登録支援専門家の委嘱依頼については、以下のページをご覧ください。

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づく支援専門家の委嘱について - 災害対策委員会 - 愛知県弁護士会

○手続着手の申出や着手同意書取得にお困りの場合は?

なお、主たる債権者による手続着手の同意は、コロナ特則の制度上、あくまでも手続に着手することの同意であって、債務減免の同意ではありません。

そのため、本来は、この手続着手の申し出や着手同意書の取得は、それほど困難なプロセスではありません。しかし、実際は、自然災害債務整理ガイドラインやコロナ特則が十分に金融機関等に知られていないためか、この着手申出と着手同意書の取得がうまく進まないケースも多いようです。

このような場合は、弁護士会の法律相談などをご利用ください。

サラ金・クレジット被害 - 愛知県弁護士会

○委嘱依頼後の流れ

弁護士会に登録支援専門家の委嘱依頼をした後は、概ね2〜3週間程度で、担当の登録支援専門家から連絡があり、以後、登録支援専門家の支援のもと、手続が進んでいきます。

手続きの流れは、自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関のホームページをご覧ください。

手続の流れ | 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関

3 コロナ特則のための愛知県弁護士会の取組

愛知県弁護士会は、自然災害債務整理ガイドラインの登録団体として、登録支援専門家の名簿を整備し、委嘱依頼を受け付け、登録支援専門家を推薦するなどしています。

また、市民向けの無料電話相談を実施したり、会員や金融機関を対象とするコロナ特則の説明会を開催するなどしています。

『コロナ版ローン減免制度無料電話相談』の開催(令和2年12月23日・24日) - 災害対策委員会 - 愛知県弁護士会

今後も、この制度が円滑に機能し、多くの債務者が生活や事業を再建できるよう、取り組んでいきます。