1.はじめに

 公害対策・環境保全委員会では、毎年、市民の皆様に向けて公害や環境保全の問題について一緒に考えていただくシンポジウムを開催しています。

  今年度は、2023年11月24日に、再生可能エネルギーや地域経済、低炭素経済の分野において多数の業績を上げられておられる京都大学大学院諸富徹教授をお招きし、今後の再生可能エネルギーの普及・拡大を行っていくためには、どのようなことが必要なのかを市民の皆様と一緒に考える機会とすべく、シンポジウムを開催しました。

2.基調講演

 基調講演では、諸富教授より、日本の現状を踏まえつつ再生可能エネルギーの普及・拡大に向け、示唆に富んだお話しをしていただきました。

 諸富教授の基調講演の概要は次のようなものでした。

①パリ協定で設定された1.5℃目標を実現していくために、日本政府は、2030年に2013年比で温室効果ガスを46%削減するとし、そのために2030年には再生可能エネルギーの電源構成に占める割合を36~38%にする目標を設定している。

 太陽光発電、風力発電のコストが劇的に低下してきていることから、2020年代は太陽光発電のさらなる増加が中心になっていくべきである。

②石炭火力発電は段階的に縮小して2030年までに全廃し、再エネは少なくとも発電総量の40%に増加させるべきで、そのためには太陽光発電の設備容量は倍増以上にする必要がある。

 太陽光発電を急速に伸ばす上で、工場やビル、住宅の屋根に太陽光パネルを設置し、その電力を自家消費しつつ、余剰電力は電力系統を通じて売却する企業や人々、いわゆる「プロシューマ-」(プロデューサーかつコンシューマー)という存在が重要になる。

③京都大学と英国ケンブリッジ大学との共同研究によれば、2050年カーボンニュートラルを前提として炭素税導入を想定したシナリオを分析した結果、炭素税導入によるカーボンニュートラル実現を目指した場合、そうでない場合よりもGDPは3~4.5%上昇する。

 しかも、「原発なし」シナリオの方が「原発あり」シナリオよりも高い成長率を示す結果が得られた。

 これは、原発の代替電源としての再エネによる発電コストが十分に下がるほか、原発フェーズアウトによる投資縮小効果を再エネ拡大による投資拡大効果が上回ることや、化石燃料の輸入が抑えられることで貿易収支も改善し、再エネへの移行に伴う雇用拡大が消費を刺激することなどの要因による。

④日本政府の政策は原発・石炭火力への回帰を目指すように見える。しかし、その他の電源を見ると、大前提として日本の電力消費量が減少しているトレンドがあることに加え、再エネのコストが最も安くなり、燃料の購入コストも不要であることから、限界費用の高い石油火力が退場していくことは必然である。

  原発依存を高めることには、日本が直面する災害(地震、噴火、台風など)の巨大なリスクや、最終処分や事故リスクなども含めた総コストとの関連から、もはや再エネに比して有利とはいえないこと(このことは政府自身も認めていること)から慎重であるべきである。

 同様に、政府が進めようとしている石炭火力によるアンモニア混焼も、経済性や排出削減効果から有用性に疑問があり、アンモニア燃焼による新たな大気汚染の懸念もあることから、非現実的な道であると考えられる。

⑤足元では、再エネ導入拡大に停滞感も見えていることから、今後暫くはFIT価格(再生可能エネルギーの固定価格買取制度における買取価格)の維持などの支援で支えつつ、自家消費型ビジネスの可能性を解き放つため、FITによらない自家消費モデルの経済性を高める努力が必要である。

 せっかく増大した太陽光発電の出力抑制(出力制御)の問題(発電しすぎてしまった再エネの発電電力を使わずに捨ててしまうこと)に対応するため、優先給電ルールの改革(火力発電の出力下限を50%から30%に低下させて、より多くの再エネを使えるようにすることなど)も必要である。

シンポジウム「再生可能エネルギーのさらなる普及・拡大に向けて」写真.jpg

3.パネルディスカッション

 基調講演に引き続いて、当委員会の弁護士2名が質問者役となり、諸富教授の基調講演の内容をさらに深堀する内容で議論を行いました。

 まず、IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」。気候変動とその対策に関する科学的な知見を提供している世界的な組織。)の第6次評価報告書を前提としたカーボンバジェットの考え方に基づいて、2050年のカーボンニュートラルだけではなく、2030年までの10年間の早期排出削減の重要性が改めて確認されました。

 また、FIT制度からの脱却に向けた移行期にあることからの問題点(移行期の制度として新たにFIP制度が導入されているものの、事業者が使いこなし切れておらず、戸惑ってしまっており、導入が進んでいっていない状況)や、再エネ事業者が森林伐採などの環境破壊を起こしてしまう問題点についても議論がされました。

 この点に関しては、日本における問題点として、開発に関する規制が欧州(例えばドイツ)と異なり不十分であることから、問題がある地域における開発がされてしまった状況があるのではないかという指摘がされました。

 対応策としては、開発に関する規制をしっかりと行わなければならず、温暖化対策法の改正による促進地域の導入に関しても、単なる地域の指定に留まるのではなく、税制優遇等も含めた誘導の政策や、地域に利益をもたらすものとするため、欧州の制度のように、開発による利益を必ず地域に還元させるような政策も考えられるのではないか、という指摘もされました。

4.最後に

 本シンポジウムを通じて、昨年度のものと同様、再エネの大幅なコスト低下などを根拠に、世界の大きな潮流として再エネの一層の普及拡大に向かっていることが確認できました。

 他方で、日本の政策が必ずしもそのような潮流に合致していない部分があることも改めて認識する機会ともなりました。

 参加いただいた皆様にも専門的な知見を基に、再生可能エネルギーの普及に向けた現状や課題について理解を深めていただけたのではないでしょうか。

 今後も、当委員会では、地球温暖化問題は、重要な人権課題であるとの考えのもと、望ましいと考えられる対策や方向性について、継続的な取り組みをしていきます。

 当委員会が開催するシンポジウムに是非ご参加ください。