1 人権賞とは
愛知県弁護士会では、優れた人権擁護の活動を顕彰するため、愛知県弁護士会人権賞を定めています。人権賞は、愛知県において人権擁護のための優れた活動を行っている個人、団体を表彰し、その活動を広く社会に伝え、さらに前進することを応援する趣旨から設けられたもので、本年度で37回目となります。
本年度の人権賞は、東邦高等学校(以下、「東邦高校」といいます。)生徒会が受賞され、2026年2月17日に授賞式が行われましたので、受賞者と、その活動等についてご紹介いたします。
2 選出理由の概要
(1)東邦高校の生徒たちが主体的自主的に平和の活動に取り組むに至った経緯
1944年12月13日、いわゆる名古屋空襲によって、三菱重工業の軍事工場に学徒動員されていた東邦高校(当時の東邦商業学校)の生徒18名及び引率教員2名の20名が亡くなりました。
東邦高校の生徒たちは、自分と同じ高校に通っていた先輩、先生が戦争で尊い命を失ったことを風化させてはならない、語り継いでいかなければならないという思いで、長きにわたり主体的自主的な活動として平和への取り組みを継続してきています。生徒たちの構成は、生徒会であったり、実行委員会であったりと様々ですが、すべて有志の生徒たちで構成されています。
(2)東邦高校の生徒たちによる平和の活動
東邦高校では、戦後45年以上にわたって、生徒等の有志(辰巳会)により名古屋空襲で犠牲となった20名の生徒と教員の法要を継続するほか、犠牲者の一人である朝鮮の留学生1名の遺骨を遺族に返還するための活動に取り組んでいました。
戦後50年の節目である1995年、名古屋空襲における犠牲者を慰霊するための実行委員会が組織され、三菱重工業が戦争中の遺品として保存していた、爆撃の痕が生々しく残る当時の工場の一部(コンクリートブロック)の提供を受けて、学校において「平和の碑(いしぶみ)」として大切に保存することになり、除幕式を行い、爆撃を受けた12月13日を「慰霊の日」と制定しました。
1996年、犠牲者及びその同級生のために、高校で卒業式を行いました。
2000年頃、実行委員会の中心的な教員と生徒2名が、韓国にわたり、当地の国会議員の協力を得て、犠牲者である留学生について調査し、犠牲者の兄の意向を踏まえて、引き続き日本の寺で遺骨が供養されることになりました。
2003年、文化祭で、「国会議員とトークバトル-戦争と平和-」を開催し、複数政党の議員7名と当時2年生の生徒たちが、有事法制、報復戦争の是非等をテーマにパネルディスカッションを行いました。
2005年、「戦後60周年企画」として、生徒が広島フィールドワークに参加したほか、広島で原爆の残り火を採火し「平和の火」として愛知まで自転車に乗ってリレーする活動に8月7日から1か月かけて参加し、その様子を文化祭で報告しました。
2006年、文化祭で、学園祭実行委員会、平和ボランティア委員会、生徒会執行部の合同企画として、「国会議員とトークバトル~日本国憲法9条をめぐって~」を開催し、複数政党の議員4名と当時の生徒4名(1年生から3年生まで)が、有事法制成立後における憲法9条に関して白熱した議論をしました。実施に先立ち、生徒たちは、平和学習会として広島原爆被爆者を招いて講演会を行う(30名を超える生徒が自主参加した)、憲法学習会を開催して憲法学者から教えを乞う、東京で各政党の見解をヒアリングする、靖国神社にある戦争資料館を見学するといった入念な準備を行い、当日に挑みました。
2014年、「慰霊の日」の規模を拡大し、名古屋空襲70年忌合同慰霊祭を行いました。東邦高校生徒会は、慰霊祭に招いた名古屋市長に対し、12月13日を名古屋空襲慰霊の日として制定する旨の要望書を提出し、生徒会の生徒を中心に、名古屋空襲で犠牲になられた方々の慰霊のための日を名古屋市条例として設置することを宣言し、この条例実現を目的の1つとした「東邦ユネスコ委員会」を発足させました。
2018年、文化祭で、「僕らのピースアカデミア」と題し、平和をテーマとしたシンポジウムを行いました。戦後70年以上が経った今こそ、平和について考えることは必要不可欠であるとの考えのもとで、学徒動員として戦闘機を製造する工場に派遣されていた当時の東邦高校生徒や空襲の体験者を招いて話を聞きました。また、「名古屋空襲慰霊の日」の制定に向けて、教員の助力を得て、名古屋市に対し請願書を提出しました。私学集会の機会を活かすなどして、他の学校に対する働きかけも行いました。同じ年に、空襲体験を含む戦争体験を聞き取った様子を映像にまとめ、戦争体験者の生の声を次世代につなぐ活動をしました。
2023年、先輩たちの思いを継承したいという生徒たちの思いが原動力となって、「名古屋空襲慰霊の日」制定を求める実行委員会を立ち上げ、名古屋市に対し再度請願書を提出しました。同年の文化祭では、絵本「ぞうれっしゃがやってきた」を合唱劇にして上演しました。
2024年から1年近くの期間をかけて、先輩である戦争体験者から生徒たちが聞き取った話をもとに、平和実行委員会が主体となって、絵本「おかちゃんとピース!」を製作しました。この絵本は、小さな子どもにも戦争について考えてもらいたいという思いで製作されたものであり、保育園における読み聞かせ、図書館への設置へと活動が広がりました。2024年の文化祭では、平和企画として、平和実行委員を中心とした生徒が、戦争体験者の話を朗読しつつ、美術科の生徒を中心とした生徒がライブペインティング(生徒たちが人前で絵を描くパフォーマンス)を行いました。
2025年、愛知県高校生フェスティバル主催の沖縄スタディーツアー、広島―名古屋自転車ピースリレー(広島から愛知まで1か月をかけて平和の灯を運ぶリレー)に生徒が参加しました。文化祭では、絵本の原画展を開催したほか、沖縄スタディーツアーでの学びをもとにした演劇を上演しました。
(3)名古屋市「なごや平和の日」の制定
以上のような活動が1つの契機となって、2024年4月、名古屋市は、5月14日を「なごや平和の日」(平和の大切さを考える日)と制定しました。
3 結びに
東邦高校の生徒たちは、自分と同じ高校の先輩である生徒や教員が亡くなった、留学生は亡くなった後も故郷に帰ることができなかったという事実の重さをしっかりと受け止め、この事実を風化させないために、次の世代にどのようにつないでいくのかという課題に対して、自らのこととして主体的に向き合っています。そして、時代を超えて先輩の思いが後輩へと受け継がれ、切れ目なく活動が継続されています。生徒たちは、もともと崇高で特別な存在であるというよりは、今を生きるごく普通の高校生であるかもしれませんが、今の自分らしく、自分にできる方法で、仲間たちと感化しあいながら、勇気をもって行動に踏み出しています。その活動の内容は、大人からのお仕着せではなく、生徒たちの自由な発想と感性が十分に発揮されています。
戦後80年の節目において、戦争体験を若い世代に承継していくことが大切であるという観点から、東邦高校の生徒たちによる平和の活動は、高く評価されるべきであると考えます。もちろん、東邦高校の生徒たちだけではなく、全国の高校生の皆さんが、それぞれ素晴らしい平和の活動に取り組んでいます。その活動はいずれも尊いものであり、優劣は決してありません。東邦高校の生徒たちは、「自分たちだけが平和の活動をしているわけではない」といたって謙虚です。そして、「もっと日本の高校生たちと平和活動を通じてつながりたい」「自分たちが学んだことを発信していきたい」という強い意欲を持っています。
これまで東邦高校で平和の活動に取り組んできた生徒たちに敬意を表し、今回の受賞が全ての高校生が主体的に自主的に平和の活動に取り組む契機になることを祈念し、平和の活動に取り組む全ての高校生にエールを送りたいと思います。

