1 人権賞とは

 愛知県弁護士会では、優れた人権擁護の活動を顕彰するため、愛知県弁護士会人権賞を定めています。人権賞は、愛知県において人権擁護のための優れた活動を行っている個人、団体を表彰し、その活動を広く社会に伝え、さらに前進することを応援する趣旨から設けられたもので、本年度で36回目となります。

 本年度の人権賞は、株式会社コウエイ物流(以下、「コウエイ物流」といいます。)が受賞され、2025年2月18日に授賞式が行われましたので、受賞者と、その活動等についてご紹介いたします。

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2 選出理由の概要

(1)コウエイ物流が協力雇用主として元受刑者らを雇用するに至った経緯

 コウエイ物流は、2012年に、代表者の村上結美さんにより設立され、主に東海三県を発着地とする各種機械部品の運送業務を取り扱う運送会社です。

 2014年、村上さんは、近所に住む同地域の保護司会長の方を通して、「協力雇用主をやってみないか」と打診を受け、協力雇用主という制度を知りました。

 「協力雇用主」とは、犯罪をした者等の自立及び社会復帰に協力することを目的として、犯罪をした者等を雇用し、または雇用しようとする民間の事業主の方々のことです。

 村上さんは、ご自身の子育て等を通して、周囲の方々の支えがなければ生きてこられなかったという実感を有していたため、協力雇用主となることで犯罪や非行をした人の支えとなることができればとの思いから、協力雇用主となることを快諾しました。

(2)コウエイ物流の協力雇用主としての活動

 コウエイ物流の協力雇用主としての活動内容は、刑務所を出所した元受刑者や、少年院を出院した少年(以下、「元受刑者ら」といいます。)を雇用することですが、村上さんの考えは、「運送業を営む一民間企業が人材を採用しているだけ」であって、元受刑者らであることを特別に意識しているわけではないとのことでした。

 ただ、村上さんも、協力雇用主として1人目の受け入れを行った際には、他の社員や取引先との間で問題を起こさないか、不安や悩みはあったとのことでした。しかし、結局、その不安は取り越し苦労であり、杞憂に終わりました。その理由として、村上さんは、「社員が問題を起こさないよう、積極的にコミュニケーションをとるようにしたこともあるとは思うが、運送業は、トラックで一歩社外へ出てしまうと、誰の目も届かない一人になってしまうので、最終的には本人の心掛けによるところが大きい」と話されていました。社員の方のお話では、そのような心掛けの根底には、「社長に拾ってもらえたから、社長を裏切るようなことはできない、だから頑張るんだ」との思いがあるとのことでした。

 このようにして、コウエイ物流は、これまでに延べ45人の元受刑者らを雇用しています(令和7年1月時点)。

 中には、コウエイ物流での仕事がうまくいかず退職する方もいますが、コウエイ物流での勤務を続け管理職となり、自身と同様の経歴を持つ若い社員に対する育成や、より働きやすい環境作りに尽力されている社員の方もおられます。

 また、コウエイ物流には2つの社員寮があります。元受刑者らの中には、家庭環境が悪かったり、生活基盤が弱い方もいるため、社員寮には、そのような社員に家庭のような、アットホームな場を設けるという役割があります。そして、社員寮には、社長である村上さんが自ら、仕事の合間を縫って食事を作りに行くこともあります。

 さらに、コウエイ物流では、定期的に懇親会や、誕生日会、クリスマス会などの行事も開催し、社員同士の親睦を深めるとともに、家庭のような温かい環境を作っています。

 こうしたコウエイ物流の環境によって、元受刑者らが働きづらさを感じることなく勤務することができ、ひいては、元受刑者らの自立や社会復帰に大きく貢献しています。

(3)コウエイ物流のその他の活動

 コウエイ物流は、2023年6月末から、同社敷地内に、寄付型自動販売機を設置しています。この自動販売機での売上げの一部が、公益社団法人被害者サポートセンターあいちに寄付され、事件・事故等の犯罪被害に遭われた方への様々な支援活動に充てられています。

 寄付型自動販売機設置のきっかけは、村上さんが、愛知署の元刑事の方から寄付型自動販売機の話を聞いたことでした。その後、村上さんは社員らと寄付型自動販売機について話をして、社員らが自ら汗水を垂らして得たお金が、自動販売機の利用による寄付を通して犯罪被害者への支援に繋がれば、社会貢献できるのではないか、として設置を決めました。

 コウエイ物流に設置された寄付型自動販売機は、一般の方も利用することは可能ですが、特に、コウエイ物流の若い社員が積極的に利用しています。寄付型自動販売機の利用は、犯罪被害に遭われた方への支援という面だけではなく、過去に犯罪被害を生じさせた立場である社員にとっては、犯罪被害に思いを致すとともに、自らの行為が社会貢献になるとの実感を得られることで、更生への意識を涵養することにも繋がるものであり、この両面から重要な取組です。

 また、村上さんは、コウエイ物流での雇用を通して元受刑者を支援している立場から、篤志面接委員(全国の矯正施設(刑務所、拘置所、少年院及び婦人補導院)に収容されている人に対して面接や指導を行い、改善更生と社会復帰に向けた援助をする民間ボランティア)向けの講演も実施し、元受刑者らの立直り支援のために必要なことを伝えています。

3 おわりに

 村上さんは、偶然の出会いがきっかけで協力雇用主になり、積極的に刑務所を出所した元受刑者や少年院を出院した少年を雇い入れてきました。

 会社内で、前科のない人と前科のある人を混ぜてしまうと、前科のある人は馴染めず、一方で前科のない人たちは遠慮してしまい、双方が遠慮し、お互いに少し溝ができてしまうことから、コウエイ物流では、現在、前科のある人のみを募集し、同じ境遇の者同士、遠慮なく包み隠さず話し、互いに励まし合える環境を作っています。村上さんは、こうして、単に協力雇用主として元受刑者らを雇用するだけではなく、雇い入れた元受刑者らが働きやすい環境作りのため試行錯誤を繰り返し、元受刑者らが更生するための支援を続けています。

 また、村上さんは、現在、元受刑者らへの更生の支援にとどまらず、未然に犯罪を防止することにも目を向け、家庭環境の悪さから虐待が引き起こされ、虐待が連鎖している現状を憂い、ファミリーホームの設立を目指しており、協力雇用主の枠にとらわれない幅広い活動を展開しています。

 罪を犯してしまった方にとって、その後社会復帰して更生し、再犯をしないことが重要であることは言うまでもありません。しかし、現実には、罪を犯してしまった方の社会復帰は容易とは言えず、社会内に自身の居場所を見つけられずに、更生を誓っても再び犯罪に手を染めてしまう例は存在します。

 コウエイ物流は、こうした方の居場所となり、同社の家庭のような温かい環境のもと、元受刑者らの社会復帰を支援しています。これまでのコウエイ物流の取組や村上さんの今後の活動の積み重ねによって、1人でも多くの元受刑者らが社会復帰できるようになるとともに、1つでも多くの犯罪が防止されることを願います。