1 はじめに

 本年度の愛知県弁護士会人権賞は、戦争の記憶の風化と遺品の散逸を防止し、後世に伝えていくための資料館「ピースあいち」を運営する団体である「認定NPO法人 平和のための戦争メモリアルセンター」が受賞され、2月18日に授賞式が行われました。

 そこで、「ピースあいち」館長の宮原大輔さんをはじめとする「認定NPO法人 平和のための戦争メモリアルセンター」の活動と実績についてご紹介いたします。

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2 立ち上げにいたるまでの経緯

 宮原さんは、学生時代から被爆や核に対する関心が強く、平和サークルに入るなど、精力的に活動をしていました。その後、戦争の記憶の風化を防止するために資料館を建設すべきだという想いをもった100人近くの有識者で団体を設立し、県や市に建設を要求し続けましたが、建設には場所と費用がかかるため、なかなか実現させることはできませんでした。

 それでも宮原さんたちは諦めず活動を続け、平成17年、「平和のための戦争資料館展」というモデル展を開催しました。資料館建設に向けた想いと現状を新聞でも取り上げてもらうことができ、偶々それを見た一般の方から、土地と建設費用1億円の寄付を受けることができたのです。

 こうしたご縁に恵まれ、平成19年、民設民営の資料館である「ピースあいち」が誕生しました。「ピースあいち」は、市民の想いが交差しながら平和を紡いでいきたいという想いを込め、「希望を編み合わせる」というメッセージを発信しています。

3 活動組織

 認定NPO法人 平和のための戦争メモリアルセンターは、宮原さんのほか、理事や監事が選任され、宮原さんをサポートしています(NPO理事長・野間美喜子さん、弁護士)。他方、資料館「ピースあいち」の運営は、100名近くが登録するボランティアの方々によって支えられています。平日は常にボランティアの方が10名以上いて、来館者に展示品の説明などをしてくれています。戦争を実際に体験された方から学生の方まで幅広い年齢層の方がおり、活動に熱意と誇りを持っています。

4 活動内容

(1)常設展示

 資料館「ピースあいち」では、「歴史の客観性、総合性」をテーマとした常設展示が行われています。「愛知県下の空襲」「戦争の全体像」「戦時下のくらし」「現代の戦争と平和」という4つのカテゴリーに分かれており、特に愛知県の戦争被害にスポットを当てている点は、他の資料館にはない独自性を有しています。

(2)企画展示

 常設展示のほか、季節ごとに「ピースあいち」で独自のイベントを開催しています。戦争の記憶を後世に遺すという意味で、学生と共同でイベントを開催することも多いようです。過去には、芸術大学の学生や教員が「平和」をテーマに制作した作品を展示する展覧会を開催したり、中学生が就学旅行先の広島で見聞きし、感じたことをまとめた壁新聞の展示会などが開催されました。戦時下の動物に焦点を当てたイベントを開催するなど、多くの方に興味を持っていただけるようなイベントがもりだくさんです。過去のイベント一覧はホームページにも掲載されていますので、是非「ピースあいち」のホームページもご覧ください。

(3)語り・語り継ぎ

 戦争の記憶の風化を防止するためには遺品などを展示することも重要ですが、実際の戦争体験を聞くことでより具体的なイメージを持つことができます。そこで、「ピースあいち語り手の会」を立ち上げ、戦争体験者が各々の戦争の記憶を語り伝える活動をしています。県や市から派遣の要請を受けることも多く、平成28年頃には語り手の派遣者数は約600人にのぼり、参加者も約4万人に達しています。語り手によって体験の内容も語りの手法も異なるので、何度も語りを聴きに来る方もいらっしゃるそうです。しかし、時が進むにつれて、戦争体験者の数も減っていってしまいます。宮原さん自身、戦後生まれです。そこで認定NPO法人 平和のための戦争メモリアルセンターでは、「語り手から語り継ぎ手へ」というテーマを掲げ、戦争体験者である語り手の生い立ちや当時の戦況、体験内容を忠実に再現する語り継ぎ手の育成を始めました。現在では語り継ぎ手の数も増え、実際に語り継ぎ手による講演も行われています。

5 活動の成果

 「ピースあいち」は資料館であり、戦争の記憶の風化を防止できているかということを目に見える成果としてはかることは難しいです。しかし、令和元年8月には来館者数が8万人を超え、新聞でも取り上げられました。来館者の年齢層は多岐にわたり、修学旅行の下準備のための勉強会の受け入れをするなど、若者の来館も増えています。来館者のアンケートは軒並み高評価で、口コミが広まり、県外からの来館者も増えているそうです。宮原さんたちの活動が徐々に根付いていき、一人ひとりが戦争について考える大切さが浸透してきているのだと思います。

6 今後の方向性

 「ピースあいち」ではさらに、外国人の来館者数増加に向けた活動を展開していく予定です。外国人に戦争のことを説明するためには、自分たちがより戦争についての知識と考えを深めていくことが必要です。

 課題としては、やはり言語の問題があります。名古屋市内の大学の留学生などの協力を得て、英語版、中国語版、韓国語版のリーフレットが作成されましたが、ホームページは日本語版のみです。外国人が来館された際、外国語で展示品の説明ができる人員も十分ではありません。こうした課題を乗り越え、戦争の記憶を日本、そして世界に遺していくための重要な役割を担う施設として、誇りをもって活動を続けていきたいとのことでした。

7 終わりに

 認定NPO法人 平和のための戦争メモリアルセンターは、「平和」という大きなテーマに正面から向き合っています。そして、資料館「ピースあいち」の建設・運営によって「平和の大切さ」を形作り、人々に広めているのです。「ピースあいち」は民設民営であり、ボランティアの方を含めた多くの人とのご縁と温かい気持ちで支えられています。宮原さんたちを含め、人々が自ら考え、賛同し、実現してきた成果であるため、来館者の心にも宮原氏らの想いが伝わり、平和に対する人々の想いは今後も紡がれていくのだと思います。見返りや名声を求めることなく、長年地道に継続して戦争の記憶の風化防止に努めており、まさに人権賞の受賞者にふさわしい活動です。

 戦争や平和という言葉は身近に感じにくいものであり、特に戦争を体験していない人にとっては想像することすら難しいものだと思います。今回の受賞を機に、認定NPO法人 平和のための戦争メモリアルセンターの活動をより一層充実させ、平和への想いをつなぎ続けてほしいと思います。