1 はじめに

 本年度の当会人権賞は、障がい者の生活介護・就労継続支援B型を行い、重度・重複障がい者を積極的に受け入れている社会福祉法人たんぽぽハウス(以下、「たんぽぽハウス」)が受賞され、2月16日に授賞式が行われました。

 たんぽぽハウスは、稲沢市を拠点に、特に、受け入れ施設の乏しい、重度・重複障がい者の支援を長年にわたって続け、地域社会と障がい者の窓口の役割も果たしています。

 たんぽぽハウスの活動と実績は人権賞に相応しいものですので、その活動や実績をご紹介させていただきます。

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2 活動のきっかけ

 昭和63年、重度の障がい児をもつ親たち5名が集まり、養護学校(現在の特別支援学校)の教員を講師に招き、障がい児・その兄弟姉妹の子育てや将来のこと等について勉強するための学習会を始めました。

 これが、たんぽぽハウスの前身です。

 たんぽぽハウスの現代表者の加賀俊子さん(以下「加賀さん」)は、重度かつ重複障がいをもつお子さんの母であり、この学習会のメンバーの1人でした。

 今でこそ、一定数の重度・重複障がい者を受け入れる施設がありますが、昭和63年当時は、障がいの程度が重い子どもは家庭で面倒をみることが当然であるという社会の風潮があって、学校を卒業した重度障がいや重複障がいをもつお子さんたちが通える場所は、少なくとも稲沢市及びその周辺にはなかったそうです。

 そのため、加賀さんたちは、重度障がい、重複障がいをもったお子さんたちが、学校を卒業した後も、健常者と同じく、社会で活動することができる場所(作業所)を作りたいという強い思いをもっていたそうです。

3 作業所の立ち上げ

 平成元年から、加賀さんたちは、作業所を立ち上げるための資金集めに奔走します。

 空き缶などの廃品回収、手作りの石鹸の販売、バザーへの出店など、色々な活動を行い、作業所の開設・運営資金をコツコツと貯めました。

 そして、平成11年に、廃園になった保育園の一室を借り、ついに作業所の運営を開始することができました。

 立ち上げ当初は、行政からの補助金などは一切なく、これまで集めてきた資金と、空き缶などの廃品回収を継続することにより、作業所の運営資金を賄いました。

4 社会福祉法人になるまで

 学習会から始まった親の集まりは、平成13年、NPO法人たんぽぽハウスとして認証を受けます。

 これまでの廃品回収等に加え、募金活動も行い、NPO法人たんぽぽハウスは、平成20年、現在の所在地に自己資金で施設を建設するに至りました。

 平成26年1月には、稲沢市から社会福祉法人たんぽぽハウスとして認証されました。実に、親の学習会立ち上げから、25年以上もの月日がながれていました。

 社会福祉法人となったことにより、法人所在地である稲沢市以外に在住している方の受け入れも進みました。

5 たんぽぽハウスの紹介

(1)組織の概要

 たんぽぽハウスを構成する理事、監事、評議員には、障がい者の親御さんが多数含まれています。

 利用者に適切かつ十分なケア・サービスを提供するためには、法定の人員では足りず、また、たんぽぽハウスに潤沢な予算があるわけでもないため、多くのボランティアの助けによって、その活動は支えられています。

(2)活動理念

 たんぽぽハウスは、

①障がい者、ひとりひとりの意思を最大限に尊重し、誰もが活躍できる場を作ること

②ひとりひとりの発達段階に応じた取り組みを通じて持っている力を引き出し伸ばすこと

③地域の人々の輪を広げ、たんぽぽハウスを地域福祉発展の拠点となる場所とすること

④地域の一員として積極的に地域の方と交流を図り、障がい者と健常者の相互理解を深めること

⑤障がい者が社会の構成員として生きる力を身につけ、思いを分かち合える場にすること

⑥活動を通して、障がい者が働く喜び、生きる喜びを感じ、社会の中でともに歩んでいけるよう支援すること

を目指しています。

 そのため、障がい者に対する支援は勿論、障がい者への差別・偏見をなくすべく、たんぽぽ祭り、映画の上映会、セミナー、コンサートなどのイベントを企画・開催し、障がい者に対する理解を深めてもらうための活動も行っています。

6 活動の成果

 地元のスーパーで利用者が育てた作物を販売したり、たんぽぽ祭りに多くの地域住民が参加する等、長年活動を続けるうちに、たんぽぽハウスは、地域に広く認知され、地域に根差した重度・重複障がい者受け入れ施設の草分け的存在となりました。

 また、たんぽぽハウスは、「来るものは拒まず」の精神で利用者を積極的に受け入れており、現在では、稲沢市のみならず、周辺市町村在住の方の受け入れも行っています。

7 今後の活動について

 たんぽぽハウスは、利用者が定員に達し、現状の施設・職員体制では新たな利用者を受け入れることが不可能な状況ですが、利用を希望する人が現実にいます。

 また、親の高齢化に伴い、親が自宅で障がいをもった子の面倒をみることができなくなるという現象が多く発生していることから、たんぽぽハウスは、今後も、重度障がいや重複障がいをもった人を受け入れる施設の需要は高まると考えています。

 そのため、たんぽぽハウスは、現在の施設の増設・職員の増員を行い、受け入れ可能人数を増やす予定で、施設の増設に着手しており、平成31年4月には、新施設が完成する予定です。

 また、日中利用できる場だけでなく、生活をすることができる場を提供する必要性も感じていることから、グループホームの建設も視野に入れています。

8 最後に

 たんぽぽハウス(及びその前身の団体)は、どんなに重い障がい、どんなにたくさんの障がいをもっている人でも、障がいのない人と同じように、社会の一員として、生きる喜び、楽しさを感じてほしい、という強い思いをもって30年以上もの長きにわたって活動を続けてきました。

 現在も、なるべく多くの人がそのような生活を送ることができるようにと、日々奔走しています。たんぽぽハウスは、障がい者の支援のみにとどまらず、地域社会の理解を得ることにも努め、障がい者に対する差別・偏見を無くすことにより、障がい者自身が、より快適な生活を営むことができるようにも日々努めておられ、まさに人権賞に相応しいと言えます。

 近年、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定されるなど、国も、障がい者に対する理解が得られるよう様々な政策を推進していますが、一方で、障がいのある人を標的にした痛ましい事件も起こっており、障がい者に対する差別・偏見は、残念ながら無くなったとはいえません。そのような現状の中、たんぽぽハウスには、今回の受賞を機に、障がいのある人がより快適に暮らせる社会の実現のため、更なる飛躍を遂げていただきたいと思います。