「院内学習会 秘密保護法施行10年~秘密保護法・重要経済安保情報保護法の課題を考える~」報告(3月21日、衆議院第二議員会館)
秘密保護法・共謀罪法対策本部
副本部長 濵 嶌 将 周
特定秘密の保護に関する法律(秘密保護法)が、市民の強い反対にもかかわらず強行制定されたのが2013年12月、施行されたのが2014年12月、それから10年余が経過した。秘密保護法の運用実態はどうなっているのか、2024年5月に重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(重要経済安保情報保護法)が制定されたこともあわせ、標記の院内学習会が開催された。
以下、学習会の概要を報告する。
1 最初に、三宅 弘 弁護士(日弁連秘密保護法・共謀罪法対策本部本部長代行)が主催者挨拶をした。
三宅本部長代行は、
日弁連等の反対運動により、①秘密保護法に、報道の自由の尊重が規定されたこと(同法22条)、②国会法の改正により、各議院に情報監視審査会が設置されたこと、の2点の成果があった。この2点を中心に、秘密保護法の現況を確認したい。
と問題提起した。
2 次に、齋藤 裕 弁護士(同副本部長)が「秘密保護法・重要経済安保情報保護法の改革課題」と題して報告した。
齋藤副本部長は、
⑴ 現状、「○年の△会議の議事録(令和◇年分)」といった極めて広い範囲の情報が秘密指定されているため、情報監視審査会が、個々の文書の秘密指定をチェックできない。米国の運用のように、文書単位でのチェックができるようにすべきだ。
⑵ 情報監視審査会による特定秘密の提出要請について、過半数要件が設定されている。これでは、多数与党の下では事実上機能しない。委員の2人以上の賛成があれば提出要請できるようにすべきだ。
⑶ 従来の政府見解では、秘密保護法の「安全保障」は、国民の生命・身体にかかわるものだけが対象のはずだった。しかし、重要経済安保情報保護法の制定で、秘密保護法の「安全保障」に、国民の生活、経済にかかわるものまで含まれていく危険がある。
などと報告した。
3 続いて、菱谷 毅 弁護士(同事務局次長)が「情報監視審査会報告書に関する当連合会の意見」と題して報告した。
菱谷事務局次長は、
毎年の情報監視審査会の年次報告書に対し、日弁連は意見書等を出し続けている。その中で、例えば、特定秘密文書の公文書館への移管について何度も求めているが、現状、まったく移管されていない。情報監視審査会による特定秘密の提出要求の要件緩和と義務づけについても求めているが、要件は緩和されず、要求に対して拒否し得るという運用に変化はない。
などと報告した。
4 メインの報告は、石井 暁 氏(共同通信社編集委員・立命館大学客員教授)による「自衛隊における秘密保護法の運用実態」である。
石井氏は、長年、自衛隊を取材し、記事を書き続けてきた記者である。石井氏が最近執筆したいくつかの記事を題材に、秘密保護法施行の前後で、取材現場がいかに変容したかが具体的に述べられた。
⑴ 特定の戦争(朝鮮半島、尖閣諸島)を想定した自衛隊・米軍の連携が進んでいるところ(日米共同作戦計画)、自衛隊統合幕僚長は「共同計画は特定秘密」だと明言した。
⑵ 「米軍、西南諸島に臨時拠点」:台湾有事の際、米海兵隊は、南西諸島に小規模部隊を展開し、島から島に移動する、自衛隊はその後方支援をするという作戦計画を明らかにした記事。発表後、特定秘密を含む記事だとして、官邸で問題化した。
⑶ 「「中国」明示 日米初演習」:仮想敵国として「中国」を明示し、実際の地図を使用した日米初演習が実施されていることを明らかにした記事。演習自体が特定秘密とされており、発表後、関係者に、記者との接触を問う調査票が配布された。
⑷ 「米、台湾有事でミサイル網」:台湾有事の際、米軍は、フィリピンに米陸軍、西南諸島に米海兵隊を展開して、ミサイル網を構築するという作戦計画を明らかにした記事。
⑸ 「二正面構想 激論の末」:上記記事に関連し、自衛隊幕僚長が、米陸軍が南西諸島に置かれなかったことに激怒し、米インド太平洋軍司令官と激論を交わしたことの顛末の記事。発表後、関係者に、公用・私用のスマートフォン・PCを提出させ、情報源調査がされた。
⑹ 以上の例にとどまらず、秘密保護法施行後、自衛隊内の規制は強まった。陸自秘密情報部隊「別班」の取材・報道ができなくなるなど、自衛隊にかかる取材・報道は困難になった。今後より一層、圧力は強まるであろう。
などと報告した。
石井氏の報告は、秘密保護法の制定で市民に知らされるべき情報まで特定秘密とされてしまうとの懸念、取材・報道の自由が制限されるとの懸念が、現実化していることを明らかにした。石井氏が、若い記者たちが秘密保護法施行後の現場しか知らず、それが当たり前になってしまっているとの危惧を示したこと、他方で、例えば台湾有事にかかる作戦計画は、西南諸島の住民を巻き添えにしかねないもので、報道すべき内容であるとし、そのような問題については今後もこれまでどおり取材を続けていくとの気概を示したこと、しかし、それは、石井氏ら記者が秘密保護法違反とされる状況を招きかねないが、報道・取材の自由の尊重規定(同法22条)が拠り所だという率直な心境を述べたことが印象的だった。
以上
[日弁連会長声明]
重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律案(いわゆる「能動的サイバー防御」法案)に関する会長声明
政府は、本年2月7日、①官民連携(情報共有、政府から民間事業者等への対処調整、支援等の取組強化等)、②通信情報の利用(日本に対するサイバー攻撃の実態を把握するため、通信情報を利用し、分析)、③アクセス・無害化措置(サイバー攻撃による重大な危害を防止するための警察・自衛隊による措置等を可能とし、その際の適正性を確保するための手続を新設)等を内容とする重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律案及びその施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(以下合わせて「本法案」という。)を国会に提出した。
同法案は、基幹インフラ等に対するサイバー攻撃への対処能力を高めることを目的としており、本法案が規定する官民連携等については一定評価し得るところである。
しかし、本法案中、通信情報の利用及びアクセス・無害化措置については、国会における慎重な審議が必要である。
当連合会は、「個人が尊重される民主主義社会の実現のため、プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進を求める決議」(2017年10月6日人権擁護大会)において、プライバシー尊重の観点から、「公権力が自ら又は民間企業を利用して、あらゆる人々のインターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視を禁止すること」を求めている。本法案における通信情報の利用については、不特定の人や回線を対象として行うものであり、「インターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視」に該当する可能性がある。また、通信当事者のメールアドレスなど、個人の交流や取引関係を推知し得る情報も選別され、対象となるものであり、通信の秘密の観点から重大な懸念を持たざるを得ない。国会審議においては、通信情報の利用が網羅的な通信情報の利用に該当するのではないか、日本国憲法や自由権規約が保障する通信の秘密やプライバシー権との関係で正当化し得るのか否かという観点からの審議が慎重になされる必要がある。
また、本法案が内容とするアクセス・無害化措置については、主に国外に所在する攻撃サーバ等を対象にすることが想定されており、内閣官房内に設置されていた「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」は、当該攻撃サーバが所在する他国の主権との抵触が問題となることを前提に、緊急避難法理により違法性が阻却され得るとしている。この緊急避難が適用されるためには重大かつ急迫した危険や唯一手段性等の要件が必要とされるところである。国会審議においては、アクセス・無害化措置がなされることが想定される事例に即して、本法案がこれらの緊急避難の要件を充足するものとなっているかなどについて慎重な審議を行うことが求められる。
よって、当連合会は、本法案の審議に当たっては、通信情報の利用及びアクセス・無害化措置に関し、上記のとおり指摘した懸念や課題事項について、慎重な検討を行うことを求める。
2025年(令和7年)2月19日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子