【関連企画のご報告】
今、考えたい! AI vs 人権

情報問題対策委員会 委員  福 島 正 人

1 はじめに

 2019年12月14日(土)、名古屋市博物館講堂にて、「今、考えたい! AI vs 人権」をテーマに、憲法学者の山本龍彦氏(慶應義塾大学大学院法務研究科教授)による講演と山本氏、花井増實会員、加藤光宏委員長によるパネルディスカッションが行われた。

 AIは便利である。しかし、冷静に考えると人権に抵触する問題点も見えてくる。これを踏まえ、EUでは、GDPRにおいて、同意なくAIによるプロファイリングを行うことを禁止した。このシンポジウムは、AIの問題点を探り、これにどう対処すべきか、という最先端の問題を考えるものであった。

2 講演「憲法から考えるAI社会―私たちに必要な心構え」

 講演では、まずプライバシーの問題が取り上げられた。ビッグデータを収集・解析して事物の相関関係を抽出し、それを特定のデータベースに適用してプロファイリングすれば、その予測結果を活用できる。他方で、一見して関連性を持たない、センシティブでない情報からセンシティブ情報が導かれてしまう危険がある(例えば「○○の購入者は妊娠している」)。プライバシーは、AI社会ではプロファイリングによる思想・内面調査の問題も含むものとして捉えられる必要がある。

 次に、AI社会における差別の問題、特に信用スコアが取り上げられた。信用スコアは、信用情報を持たなかった若者や少数派への融資を可能にして、平等の実現に資する面がある。その一方、AIがスコアを算出した過程が明らかでないため、スコアを上げる方法が分からず、低スコアの者はそのまま固定化される恐れがあるという。

 最後に、民主主義との関係も指摘された。AIは、サイトの閲覧履歴を解析し、関心のありそうなニュースを選別して表示する。その結果、異なる意見に接する機会が失われ、社会的分断が拡大する危険がある。また、政治ニュースの利用が少ない者の無関心を助長することも懸念される。

 このように、AIの活用は利便性を向上させる一方で、人間の権利や自由を脅かす危険を孕む。山本氏は、プライバシーや個人情報保護への意識を高めるとともに、データ保護を基本権として位置付け、そのための制度を具体化することが重要であると指摘した。

3 パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、会場からの質問に答える形で、私たちが今後どのようにAIと関わっていけばよいのかが議論された。

 そこでは、人間とAIがお互いの弱点を補完して協働していく関係が望ましいこと、そのためには、AIとは何かがよくわからなくても、関わり方を議論していくことが重要であるとの指摘がなされた。

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4 おわりに

 サイトの閲覧履歴から内定辞退率が予測されていた問題は記憶に新しい。AIをどのように活用していくべきかが問われる場面は今後も増えることが予想される。こうした社会の到来にどう向き合えばよいのか、今回のシンポジウムを契機に考えを深めていきたい。