政府は、いわゆる「共謀罪」規定を含む組織犯罪処罰法改正案を、「テロ等準備罪」と呼び名を変えて、今国会に提出する予定である。

 今回の改正案は、過去に国会で3度も廃案となった「共謀罪」法案と比べ、呼び名以外にもいくつか修正が加えられたと報道されているが、法のもつ危険性は何ら修正されていない。

 第1に、「共謀」を「計画」に修正した点については、「計画」とは、犯罪の順序や方法を考えることであり、「共謀」と何ら変わらない。

 第2に、共謀罪の適用される主体を、「団体」から「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」に修正した点については、「その他の組織的犯罪集団」が明確に定義されておらず、正当な目的で活動していた集団であっても、性質が変わったと判断されると、「組織的犯罪集団」に該当すると国会で答弁されていることから、犯罪成立の限定機能を果たしていない。

 第3に、共謀罪の成立のために、計画だけでなく、「その計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われた」ことを要すると修正した点については、たとえば、生活費として使うために預金を引き出した行為であっても、犯罪実行のための資金の準備と判断されて「準備行為」にされかねないこと、「その他の~準備行為」が非常に曖昧かつ広汎なことから、計画自体を処罰するのと変わらない。

 第4に、対象犯罪を長期4年以上の刑を定める676の犯罪から277の犯罪に修正した点については、絞り込んだ基準が不明であるし、依然としてテロ対策や組織犯罪と関係ない犯罪が多数含まれている。

 以上のように、報道されているような修正を加えたとしても、従来の「共謀罪」同様、犯罪の実行に着手していない段階で処罰することから、表現の自由、思想・良心の自由を侵害するものであることはいうまでもなく、現行刑法の体系を根本から変容させることになる。

 また、以前、国会では、目配せがあっただけでも、「共謀」に当たると説明されており、何をすれば「計画」に当たるか予測できないことから、罪刑法定主義に反し、市民は処罰をおそれ、自由な行動、自由な言論の自粛を余儀なくされる。

 さらに、捜査機関が、「計画」がなされた証拠を収集するために、市民間の会話、通話、電子メール、SNS等を監視し、市民のプライバシーを侵害する危険性も高い。

 政府は、これまで、共謀罪が必要な理由として、国連越境組織犯罪防止条約(以下、「本条約」という。)を締結するためと説明していたが、今般、テロ対策という理由を持ち出してきた。しかし、そもそも、本条約は、経済的な利益を得ることを目的とする組織を対象とする条約であり、テロ対策とは本来無関係である。日本は、テロ防止関連13条約を締結して、既に充分なテロ対策がなされており、想定されるテロ行為も、現行の法律又は個別条文の修正で対策できることが、国会の答弁において明らかにされた。本条約を締結する必要性は認めるが、外務省によると、本条約を締結するために共謀罪を新設したのは、ノルウェーとブルガリアの2か国だけであり、前述した日本の法整備からすると、共謀罪を新設しなくても本条約を締結することは可能である。

 以上のように、報道されている政府の法案は、「共謀罪」と何ら性格を異にすることなく、市民の権利を著しく侵害する危険性があるだけでなく、テロ対策という名の下、政府が市民を監視し、政府に反対する言論を封殺するものとなりかねない。

 よって、当会は、政府が、いわゆる「共謀罪」法案を国会に上程することに断固反対する。

              2017(平成29)年3月14日

          愛知県弁護士会 会長 石 原 真 二