2017年5月30日

愛知県弁護士会

 当会は、会内の男女共同参画を実現し、ジェンダー(社会的性別)に基づく性別役割分業意識・固定観念・偏見を排除し、さらに社会全体の男女共同参画の推進のために積極的に取り組むことを決意し、この基本計画(以下「基本計画」という。)を策定する。

1 当会男女共同参画推進施策基本大綱の内容

 当会は、2015年10月下記のような理由から「男女共同参画推進施策基本大綱」(以下「当会基本大綱」という。)を制定した。

 当会基本大綱では、当会が男女の人権の尊重、社会における制度又は慣行についての配慮、政策等の立案及び決定への共同参画、家庭生活における活動と他の活動の両立、及び国際的協調という男女共同参画社会基本法に定められた基本理念(以下「基本法基本理念」という。)に則り、当会における男女共同参画の推進に関する施策(積極的改善措置を含む)を総合的に策定し、実施する責務を有し(第2項)、男女共同参画推進本部を設置して(第12項)、当会における男女共同参画の推進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、実施するために、男女共同参画の推進に関する基本的な計画(男女共同参画推進基本計画)を定めるものとされている(第10項)。

2 当会基本大綱制定の経緯と現状

(1) 男女が性別に関わりなくその個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現は、「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」(男女共同参画社会基本法前文)と位置付けられている。

(2) 日本弁護士連合会では、2002年5月24日定期総会で「ジェンダーの視点を盛り込んだ司法改革の実現をめざす決議」を採択し、2007年4月20日に理事会決議によって「日本弁護士連合会男女共同参画施策基本大綱」を定め、同年5月25日には総会決議によって「日本弁護士連合会における男女共同参画の実現をめざす決議」を行い、「会内における男女の実質的な平等を図るとともに、ジェンダーに基づく性別役割分業意識・固定観念・偏見を排除し、女性会員の積極的な政策・方針決定過程への参画の拡大をはじめとする男女共同参画の実現をめざす」ことを可決して、各単位会にもその取組を求めた。

(3) 当会においても、これまでの男女共同参画の理念に根ざした取組に拘わらず、当会の理事者、委員会委員長など役職者に占める女性会員の割合は高いとはいえず、就職差別、セクシュアル・ハラスメントによる被害、収入格差が現存するなど、その取組は未だ不十分といわざるを得ない現状がある。

 当会では、2016年に男女共同参画推進本部を設置した後、議論を重ねてきたところに従い、基本計画を策定し、一層の推進を図ることとする。

3 基本計画の基本的な考え方・数値目標の位置づけについて

(1) 基本計画は、①女性会員の会務参加の促進(第1)、②女性会員・女性修習生に対する差別是正と活躍の場の拡大(第2)、③男女を問わない弁護士のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)(第3)の3つの柱から構成されているが、これらは相互に深く関係していることに留意すべきである。

 ①女性会員の会務参加促進、②女性会員の活躍の場の拡大のためには、③弁護士全体のワーク・ライフ・バランスを健康的に図ることが必要不可欠であって、③は①②の重要な前提条件という関係にある。他方、②女性会員の活躍の場の拡大、③弁護士のワーク・ライフ・バランスを十分に図るためには、そのような施策を方向付けていく活動、すなわち①会務への女性会員の参加が欠かせないのであって、その意味において②③と①とは車の両輪である。

 以上のとおり、基本計画では、①~③の全ての施策が相互に深く関連しており、有機的・一体的にその推進が図られなければならない。

(2) なお、基本計画を具体的に策定するに当たっては、当会での具体的な活動を立案・実行するにあたっての目安となるよう、できる限り具体的な数値目標を書き込むものとした。

 この数値目標の実現を含め、基本計画の具体的な実践にあたっては、特定の女性会員のみに負担が集中することがないよう、男女を問わず当会会員全体で共同して取り組み、実践内容を広く社会に発信できるよう積極的に活動する。

第1 女性会員の会務参加について

1 目標・具体的施策

(1) 会長については、今後5年間における女性会員の会長就任状況等を検証し、その検証結果をふまえ、数値目標の設定を含む具体的施策を検討する。

(2) 副会長(毎年合計5名)については、女性会員が毎年複数名含まれることが望ましいが、女性会員が毎年1名以上になることを数値目標とする。また、その達成状況について5年後を目処に検証したうえで、数値目標の達成状況が不十分な場合には、数値目標の具体的な達成方法について検討する。

(3) 常議員については、女性会員の割合が毎年30%以上になることを数値目標とする。また、その達成状況について5年後を目処に検証したうえで数値目標の達成状況が不十分な場合には、数値目標の具体的な達成方法について検討する。

(4) 法定委員会(資格審査会、懲戒委員会、綱紀委員会)については、女性会員の割合が毎年30%以上になることを数値目標とする。また、その達成状況について5年後を目処に検証したうえで、数値目標の達成状況が不十分な場合には、数値目標の具体的な達成方法について検討する。

(5) 前項以外の委員会等(本部、協議会、プロジェクトチーム等を含む。)については、数値目標は設定しないが、女性会員の積極的参加を促す。

2 趣旨・基本的考え方

(1) 当会基本大綱の第4項にいう「本会における政策・方針等の立案及び決定過程に女性会員が積極的に参画することを実現する」との目的に照らせば、①当会を代表し、会務を統理する「会長」、②会長を補佐し、会長が欠けたとき又は事故があるときは入会順により会長の職務を行う「副会長」、③総会に提出する議案に関する事項、規則の制定・改廃に関する事項等について審議する「常議員」について、女性会員の積極的な参加を実現することは極めて重要な課題である。

(2) また、各種委員会等(本部、協議会、プロジェクトチーム等を含む。)の活動や意見等が、当会における政策・方針等の立案及び決定過程に欠かせないものであることからして、各種委員会等における女性会員の積極的な参加を実現することも重要な課題である。

(3) 男女共同参画の実現にあたり女性会員が会長に就任する意義は大きく、その積極的な選出が望ましい。しかしながら、会長としての職務や役割の大きさや、適任と思われる年代(修習期)の女性会員数などからして、現段階で数値目標を設定することは時期尚早であるといえる。そのため、会長については、今後5年間における女性会員の会長就任状況等を検証し、その検証結果をふまえ、数値目標の設定を含む具体的施策を幅広く検討する。

(4) 男女共同参画の実現にあたり副会長(毎年合計5名)に占める女性会員が0名の年度が生じることは妥当でないため、毎年1名の選出は必須である。なお、本来であれば毎年複数名(2名以上)の女性会員が選出されることが望ましいが、副会長としての業務負担や、適任と思われる年代(修習期)の女性会員数などからして、毎年複数名の選出には現実的な困難が伴うであろうといえる。そのため、副会長については、女性会員が毎年1名以上になることを数値目標としたうえで、5年後を目処に数値目標の達成状況を検証することとした。

(5) 常議員には様々な年代(修習期)の会員が参加することが望ましく、特に男女共同参画の実現にあたっては若手会員の積極的な参加が望まれる。また、当会全体における相対的人数が少ない女性会員の意見を反映させるためには、その人数割合(平成29年2月6日現在で19.26%)よりも大きな割合の参加を実現すべきである。そのため、常議員については、女性会員の割合が毎年30%以上になることを数値目標としたうえで、5年後を目処に数値目標の達成状況を検証することとした。

(6) 法定委員会(資格審査会、懲戒委員会、綱紀委員会)についても、常議員と同じく、当会全体に占める女性会員の人数割合よりも大きな割合の参加を実現すべきである。そのため、法定委員会等については、女性会員の割合が毎年30%以上になることを数値目標とした。

(7) 前項以外の委員会等(本部、協議会、プロジェクトチーム等を含む。)については、数値目標は設定しないこととした。ただし、男女共同参画の理念に鑑み、女性会員の積極的参加を促すとともに、参加促進のための施策(会議時間の短縮、開催日時の配慮等)を検討することとした。

第2 女性会員・女性司法修習生に対する差別是正と活躍の場の拡大について

1 目標・具体的施策

(1) 当会は、女性会員及び女性の司法修習生に対する性別による差別を是正し、女性会員が十分に活躍できる条件の整備を図り、女性会員の社会における活躍の場を拡大する方策を検討する。

(2) 当会会員は、弁護士等の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

(3) 当会会員は、弁護士等の待遇について性別を理由として差別的取扱いをしてはならない。

(4) 当会会員が5名以上所属する法律事務所のうち、所属する女性会員の割合が20%に至っていない法律事務所においては、すみやかに所属する女性会員の割合が20%となるよう努力する。

(5) 自治体、裁判所、その他の団体からの委員等の推薦依頼に基づき、当会から推薦する女性会員の割合を当会が推薦した任期中の委員等の総数の25%以上となるよう努める。

(6) 日本弁護士連合会と連携して、金融機関、法務局、裁判所等において、職務上の氏名を使用できるようにするための活動を推進する。

(7) 女性会員への業務妨害に対するサポート体制を強化する。

(8) 当会は、性別による差別的取扱い等の防止に関する規則を制定して、それに関する苦情処理機関を設置する。

(9) 当会は、制定された性別による差別的取扱い等の防止に関する規則の内容及び苦情相談窓口の存在を会報、ホームページ、ちらし、パンフレット等により毎年広報する。

2 趣旨・基本的考え方

(1) 当会基本大綱前文にあるとおり、当会においても、これまでの男女共同参画の理念に根ざした取組に拘わらず、就職差別、セクシュアル・ハラスメントによる被害、収入格差が現存するなど、その取組は未だ不十分といわざるを得ない現状がある。

(2) 2016年6月に日本弁護士連合会によって実施された第68期弁護士の就業状況に関する調査の結果によれば、既存法律事務所に就業している男性の割合が、女性よりもやや高く、また、入所先から毎月一定額を支給されている者については、総じて男性よりも女性の方が比較的収入が低い傾向にあるという調査結果が数年続いている。

(3) さらに2016年8月~9月に当会が実施した会員アンケートの結果によれば、回答した女性会員の4人に1人は業務を妨害されたり、それを見聞きしたことがあり、回答した女性会員の約4割が、職務上の氏名を使用できず支障が出たり面倒であったことを経験したり見聞きしている。

(4) 当会基本大綱第2項は、男女の人権の尊重等の男女共同参画社会基本法に定められた基本理念(以下「基本法基本理念」という。)に則り、男女共同参画の推進に関する施策を総合的に策定し、実施する責務が当会にあることを明らかにし、同第3項は、基本法基本理念に則り、当会における男女共同参画の推進に寄与する責務が当会会員にあることを明らかにしている。

(5) また、男女雇用機会均等法は第1条において「男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことを目的として掲げ、第5条においては募集採用について、第6条においては待遇についての性別を理由とする事業主による差別を禁止しており、法律上も上記の性別による就職差別、収入格差を放置することはできない。

(6) 以上からすれば、当会において女性の司法修習生や女性会員に対する就職差別や待遇の差別、収入格差を是正し、女性会員が十分に活躍できる条件の整備を図り、女性会員の社会における活躍の場を広げていく必要がある。

(7) また、当会の女性会員の割合は約20%であるところ(平成29年2月6日現在で19.26%)、個々の事務所において所属する女性会員の割合を当会の女性会員の割合と同程度の数値目標を設定することによって女性会員に対する就職差別を解消する必要がある。

(8) さらに自治体、裁判所、その他の団体に委員等を推薦するにあたっては、女性会員が十分に活躍できる条件の整備を図るために、当会の女性会員の割合(約20%)を超える数値目標を設定する必要がある。この点、当会が推薦した任期中の委員等の総数における女性会員の割合は28.89%(平成29年4月1日現在)であり、今後も継続してその割合を25%以上となるよう努めるべきである。

第3 弁護士のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)について

1 目標・具体的施策

(1) 出産や育児、介護、病気等の事情で休業したり業務を制限する場合(以下「休業等の場合」という。)の業務引継・共同受任・復職等に関し、名簿・ネットワークを作成するなどして情報を提供したり、そのマッチングも含め、会員の休業・復帰に関わる悩み・不安を相談できる総合的なサポート体制の構築をめざす。

(2) 休業等の場合に、支援を求める弁護士を中心に、広く支援に関わる弁護士・事務所に対し、休業等及び復職後の勤務条件等を決める際の参考例、事務所内での経験談・多様な働き方の工夫例を集めたハンドブックなど、有益な情報を提供する手段を検討する。

(3) 休業等の場合でも会務・研修参加を希望する会員のために、会務・研修のオンライン化(テレビ・スカイプ・eラーニング等)促進、開催時間、研修ビデオの貸し出し、郵送投票制度(弁護士会役員選挙等)等、会務・研修参加を容易にする方策を検討する。また、同じ事情を抱える弁護士間で情報を交換・共有できる方策を検討する。

(4) 会員が育児と両立しながら仕事を続けられるように、一時預かり保育施設、講演・研修等の別室への中継、保育業者との提携・紹介などの保育サービスを検討する。併せて、女性会員休憩室を含めた会館設備の有効利用についても検討する。さらに、育児期間中の会費免除について、制度利用の実態をふまえながら、現行制度の見直し作業に着手する。

(5) 会員のメンタルヘルスについて、実態調査を行い、関連委員会等と連携を図りながら支援体制の構築を検討する。

(6) 介護と仕事の両立について、会員の置かれた状況、支援への要望等について実態調査をする等の取組に着手する。

2 趣旨・基本的考え方

(1) ワーク・ライフ・バランスを健康的に図ることは、会員が性別に関わりなく、その個性と能力を十分発揮しながら、充実した仕事(弁護士会の会務を含む)を継続して行う基礎であり、男女共同参画推進の不可欠の前提となるものである。とりわけ、育児や介護については、憲法第24条の「両性の本質的平等」の理念に基づき、男女共同して取り組まなければならない。しかし、その実現は、個々の会員の自助努力だけでは困難であり、当会全体として取り組むべき課題といえる。

(2) 取り組む課題の具体的内容としては、まず、休業等の場合に、業務の引継や支援を円滑に進める方策、休業中や復職する際の十分な情報提供、会務や研修への参加を容易にする方策等により、会員が業務を継続できるような支援体制を構築することが望まれる。

(3) さらに、休業等の場合に、支援を求める弁護士を中心に、広く支援に関わる弁護士や事務所に対し、多様な選択肢の中で、業務を継続できるような情報を提供していくことも重要である。

(4) また、会員が育児と両立しながら会務・業務を継続していくために、保育に関わる支援を工夫すると共に、育児期間中の会費免除制度のあり方についても検討を加える必要がある。

(5) 加えて、介護と仕事の両立、弁護士活動の基礎となる健康、特にメンタルの健康に向けた取組も進める必要がある。

第4 その他

1 研修・啓蒙活動・広報活動

(1) 男女共同参画に関する当会の実情に応じた効果的な研修方法を研究し、任意の研修としてより多くの参加者が得られるよう努力する。

(2) 男女共同参画の推進や司法におけるジェンダー問題など、男女共同参画に関連する諸問題に対する会員の意識啓発のために、企画の実施や広報活動によって継続的に会員への情報提供に努める。

2 女性会員の意見を聞く会

 理事者は、毎年1回以上、女性会員の意見を直接会務に反映させるために、女性会員の意見を聞く会を開催する。

3 男女共同参画の視点に立った会則・会規の新設と見直し

 当会の会則・会規について、継続して男女共同参画の視点に立った見直しや改正の必要性を検討する。

4 基本計画の実施状況の検証と報告

 男女共同参画推進本部において、毎年、基本計画の実施状況を検証し、

(1) 定期総会において毎年その結果を報告する。

(2) 会報、男女共同参画推進本部ニュース等において、毎年その結果を報告する。

5 男女共同参画基本計画(第2次)の策定

 上記4の検証結果をふまえて、基本計画策定から5年後を目途に、当会の男女共同参画基本計画(第2次)を策定する。

以 上

(平成29年5月30日定期総会決議)