はじめに

近年、日本各地で、大規模な災害が頻発しています。2018年には大阪北部地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震が、2019年には台風15号及び台風19号が発生し、いずれも各地に大きな爪痕を残しました。

南海トラフ地震の発生も、警鐘が鳴らされています。万一の際には、中部地方を含む広範囲で甚大な影響が出る可能性が強く、予断を許しません。

災害に対して、弁護士が果たせる役割

このような災害に対して、弁護士は、どのような役割を果たせるのでしょうか。

一般的には、災害と弁護士は、あまり関係がないと考えられているのかもしれません。弁護士自身も、一昔前までは、災害対策が弁護士の重要な役割であるとは自己認識していなかったようです。

しかし、阪神大震災や東日本大震災などの大規模災害を経て、今では、災害に対し、弁護士に果たせる役割は大きいことがわかってきました。

発災後の復興支援

第一の柱は、災害発生後の復興支援です。

まず、弁護士は、被災地での法律相談を行います。災害復興のための法制度は存在するものの、被災者に適切な情報を届けられなければ、絵に描いた餅に過ぎません。具体的な情報提供は弁護士の重要な役割です。

法律相談では、必ずしも法律問題ではない被災者の心配事や悩み事も丁寧に伺い、場合によっては、他の適切な専門家につなぎます。この役割を弁護士が担うことで、災害対応に追われる自治体の負担を軽減することもできます。

また、こうした法律相談の情報を集約し、立法提言などにつなげることも、弁護士ならではの役割です。実際、災害弔慰金の支給対象を兄弟姉妹に拡大する法改正、災害によって返済できなくなった債務を整理するためのガイドライン制度の創設など、法改正や新制度に結実した例があります。

平常時の備え

もう一本の柱は、平常時の備えです。

事業者の皆様は、この機会に、BCP(Busuiness Continuity Plan・事業継続計画)の策定をご検討ください。備えなしに被災してしまえば、復旧に手間取って事業の縮小を余儀なくされたり、最悪の場合、廃業に追い込まれることもあります。これに対して、BCPを導入することで、万一の災害時にも中核事業の維持・早期復旧を果たしやすくなりますし、また、平常時においても取引先からの信用性が高まる等の効果が期待できます。

また、事業者の皆様は、職場で働く従業員の命を預かっています。

石巻市立大川小学校の裁判をご存知でしょうか。東日本大震災で発生した津波によって児童が命を落としたことについて、裁判所は、事前の防災体制に不備があったことを理由に、市と県の責任を認めました。

小学校だからこその判断ではありますが、事前の防災体制について管理者に小さくない義務を課した裁判所の判断は、従業員が働く職場を管理する事業者にとっても、大きな意味を持ちます。この点からも、事業にとって、BCPなど、平常時の備えは大切です。

愛知県弁護士会の取り組み

愛知県弁護士会は、災害対策委員会を中心に、災害対策に取り組んでいます。

災害対策委員会は、

  • 災害法制度その他災害対策に関する諸制度の調査・研究
  • 官公署、日本司法支援センターその他公私の団体との災害時に備えた協力体制の構築
  • 災害が生じた場合の被災者に対する法律相談その他の支援活動の実施

など、災害発生時における対応策の研究やシステムの整備を行うことを任務とする委員会です。

災害時法律相談協定

愛知県弁護士会は、愛知県下の自治体と、災害時の法律相談等の業務についての協定を締結しています。

これまでに災害対策協定を締結した自治体は、以下のとおりです。

  • 名古屋市
  • 春日井市
  • 刈谷市
  • 江南市
  • 小牧市

今後も、自治体との関係構築に取り組んでいきます。

災害に備えた研修や勉強会の実施

愛知県弁護士会では、平時より、主に会員を対象に、災害に備えた研修や勉強会を実施しています。

たとえば、BCP(事業継続計画)の研修会、名古屋市の地域防災計画の勉強会、災害法制の研修会などを開催しました。

また、災害発生時には他士業やボランティア団体との連携が重要である、との観点から、他士業団体や社会福祉協議会等にも呼びかけて、災害時の連携に関する学習会を企画実施しました。

自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインについて

平成28年4月1日より、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(被災ローン減免制度)の運用が開始されました。この制度は、平成27年9月2日以降に災害救助法が適用された自然災害の影響により、従前の住宅ローン等の支払が困難となった被災者について、一定の要件のもとに、住宅ローン等の債務の減額や免除が認められる制度です。

愛知県弁護士会は、このガイドラインの登録支援専門家弁護士の委嘱について、受付窓口を開設しています。

詳しくは、以下のページをご覧ください。

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づく支援専門家の委嘱について - 災害対策委員会 - 愛知県弁護士会

ぼうさいこくたい2019@NAGOYAへの出展

関連団体との連携強化と情報発信を目的に、令和元年10月19日、20日にささしまライブで開催された「ぼうさいこくたい2019@NAGOYA」に出展しました。

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おわりに

災害はいつ発生するかわかりません。

愛知県弁護士会は、東日本大震災発生時には、現地への弁護士派遣や、県内に移住されてきた被災者の方を対象とした無料電話法律相談など、様々な支援をしてきました。万一、将来、当地域において大規模災害が発生した場合も、法律相談会の実施や情報提供、法的助言など、法律の専門家としての役割を果たしてゆきたいと考えています。

災害がないことと万一の災害発生時の皆様方の安全を祈念しつつ、平常時から、災害に向けて、ともに取り組んでいきましょう。