(人権賞小委員会 委員長 池田 伸之)

平成16年度人権賞 「セイブ・イラクチルドレン・名古屋」に決定

名古屋弁護士会では、平成元年度から当地で優れた人権活動をしている民間の個人・団体を表彰し、今後の活動を応援する趣旨から人権賞を制定しており、今年で16回目となる。受賞者は、マスコミ関係者、大学教授らの外部委員5名、弁護士4名の選考会で決定されるが、今年度は4つの団体・個人がノミネートされ、最終的に、当会の小野万里子会員が代表を務める「セイブ・イラクチルドレン・名古屋」に決定し、過日、常議員会において、その授賞式が行われた。

セイブ・イラクチルドレン・名古屋
【小川会長から表彰状を受ける小野万里子代表(左)、塩之谷香副代表(右)】

活動の発端は、小野代表が平成15年2月にイラクに赴き、現地の病院の実状(劣悪な衛生状況、多数の未熟児の死亡、設備、医薬品の不足)、とりわけ子ども達の置かれた惨状を目の当たりにして、帰国後、代表の子どもさんの通っている保育園の父母にその惨状を伝えたところにあり、ここから、活動の輪が広がっていったものである。

特定の政治色があるわけではなく、同じ小さな子ども達をもつ親として、黙っていられない、何とかしてやりたいという思いを活動の原点としているものであり、好感がもて、こうした草の根の活動が短期間ですばらしい実績をあげるという行動力の源泉となっているものである。遠く離れた中東の地にある子ども達に思いを馳せ、その窮状を思いやることができる想像力、共感力が活動のエネルギーとなっているこの活動は、「名古屋発信のグローバル人権賞」と呼ぶにふさわしい。

マスコミには小野代表が対応しているので、小野会員の個人の活動ではないかとの誤解の向きもあるかもしれないが、そうではない。草の根レベルー多くの普通の家庭の主婦等が個別のミーティングのほか、月一回の全体会議で、また、メーリングリストを活用して議論をし、運動方針を決め活動をしているものである。また、活動の輪の中に、弁護士のほか医師が関わっていることから、医薬品の供給ということだけではなく、イラク人医師の受け入れ、CTスキャン等中古医療機器の現地への提供といった実現困難な支援活動が現実のものとなっている。

その活動は、たとえば、劣化ウラン弾による白血病治療のために来日したアッパーズ君の治療というマスコミの注目度の高いものに力点をおいているわけでは決してない。イラクでは外科消耗品や一般薬さえ不足しているのが実状であり、より多くの子ども達を救うために、現地での要請の高い医薬品の優先的な送付をする等、地に足をつけた活動として評価しうるものである。

イラク情勢が日に日に悪化していく現在、活動はますます困難となっていることが予想されるが、その活動の重要性もますます高まっているもので、今後の活動をさらに期待したい。

<平成16年度人権賞を受賞して>

セイブ・イラクチルドレン・名古屋

代表 小野 万里子

1 このたび、平成16年度の人権賞をいただくことができました。

手探りの小さな活動を、「人権擁護の分野で功績があった」「現地の要請にきめ細かく対応している」とお認めいただいたことに、メンバー一同感激しているところです。ありがとうございます。

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2 日々の活動にあたって

(1) 私たちの活動は、2003年2月、イラク戦争直前のイラクの病院で累々たる白血病や小児がんの子どもたちに出会ったことがきっかけで始まりました。日本も協力した湾岸戦争で劣化ウラン弾が使われ、戦後12年が経過してなお毎日毎日子どもたちが殺されていっているのです。あまつさえ、劣化ウランを使った側が「経済制裁」としてそのがん治療を妨害すらしている。唾棄すべき非人道的なことが国連の承認のもとに行われていること、私たち「ヒロシマの国」は被害者を救うどころか日々の殺戮に積極的に協力していること。自分の手が汚れていることを意識しないわけには行きませんでした。

(稲葉)私がこの活動に関わったのは、子ども達が安心して寝起きしたり、食べ物の心配がない場を作るということが最初の動機でした。今日寝ても、明日も命があることを認識する。そういうことが出来て初めて子ども達は将来を考えることが出来ます。私も教職に就いてましたので、子どもに明日を信じて学び成長して欲しいと思って取り組んできました。

(2) 「支援は御用聞き。押しつけにならないように。」と心に刻んで活動をしてきました。最初は、医薬品を届けることから始まり、徐々に、イラク人医師の日本での研修、患者の治療、医療器械技師研修、医療機器の送付など、自分たちの力量でできることには取り組んできました。NGOがイラクに入れないなら、この名古屋でやればいいじゃないか、やれることはたくさんある......。

3 頭を上げれば、救いの手が

行く先々で、本当に多くの方々が協力してくれます。行き詰まってふっと頭を上げると、そこにはいつも誰かの手がさしのべられている、ということの連続です。理不尽な戦争に苦しむイラクの子どもたちに対する多くの人々の気持ちがあるのだと思います。人間って捨てたもんじゃない、と思い知ることもたびたび。高速道路下でホームレス生活を強いられている人から「日々生存の危機にさらされている点で、私たちは同じです。何日も空き缶を集めました。」と数百円が送られてきたり、また、ヨルダンで医薬品を購入したとき、「遠い日本からアラブの同胞を助けに来てくれてありがとう」と、価格の1.5倍の薬品を渡されたりしたこともありました。

4 いつまで続く、この活動

当初、「この活動は、国の本格的イラク医療支援が始まるまで。1年くらい?」と漠然と考えていました。しかし、泥沼化するイラク情勢下、まだまだ足抜けはできないようですので、しばらくはがんばります。そのための人権賞だったかも知れません。引き続きご支援をお願いいたします。