平成14年度人権賞に「笹島診療所」の3医師を選出

 名古屋弁護士会は、平成14年度「人権賞」に、「笹島診療所」ボランティア医師グループの伊藤光保さん、佐藤光さん、杉浦裕さんの3名を選出しました。

 伊藤さんたち3名は、炊き出し場におけるホームレスの人たちの無料診察を長年にわたって続けてこられた方々です。

 名古屋の炊き出し場でのホームレスの人たちに対する無料診療は昭和51年から始まり、当初は十数名の医師がかかわっていました。しかし、その後次第に数が減っていき、現在は伊藤さんら3名が中心となって、看護師、保健師、学生のボランティアの人たちなどと協力して、毎週1回名古屋市中村区の若宮ゲートボール場で、検診・問診や健康に関する相談にのるなどの活動を続けてきています。

 不況の長期化でホームレスが増加する中、こうした活動が行政や社会に警鐘を鳴らす意義は大きく、医師としての専門性を生かしながらホームレスの人権問題に取り組んできたこのような活動は、正に「人権賞」に相応しいものであるため、今回の授賞となりました。

《受賞のお言葉》

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伊藤光保さん

呼吸器内科医、NPO(非営利組織)「医療と保健と福祉の市民ネットワーク・東海」理事長、愛知県東海市、51歳。

 人権賞などという重い賞を頂き、先ずは御礼申し上げます。単なるボランティアがこんな賞をもらって良いのだろうかというのが第一の思いであります。この地域は、市民の活動があまり継続せず広がりを持たなかった、そんな中で23年間続けられたということへの御褒美ということなのか、そういうことであれば大変ありがたいと思います。また、この賞は野宿者の生活・医療支援にかかわる多くのボランティアの総合力として頂けたものと考えています。そして阪神淡路大震災以来この地域でも新たに盛んになってきたボランティア活動・市民の活動がさらに飛躍するきっかけとなればありがたいと思います。一人一人の心と一つ一つの命を大切にする動きが強まってくれればと思います。

 大阪での大学生時代、被差別部落の医療健康実態調査のボランティアとなり、これやハンディキャッパーに対する差別・偏見に抗し闘うという市民運動を目の当たりにして愛知県に戻って思ったことは、この地域では、こうした動きがあまり起こらず、頭では差別・偏見はいけないということが解っていても、潜在意識の中に持ったままで、それを変えようとしない人々があまりに多くいるということであります。今回の受賞の後も、「大変でしょう。」とか「何で働かないのでしょう。」と言ってくる方が多数居られました。老・病・死ということは誰にとっても同じであり、働けない事情がどこにあるのかということすら解っていただけないのは残念でなりません。今回の受賞が、こういう差別・偏見といった潜在意識を変えて行く力にもなればと思います。

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杉浦 裕さん

内科医、「名古屋労災職業病研究会」代表、名古屋市昭和区、50歳。

 人権賞を頂きありがとうございました。

 もう10年以上前になりますが、初めて名古屋駅の地下道の炊き出しの場所で医療相談をしたときのことを覚えています。長年の労働と日焼けで固く黒くなった腕や顔だけを見た時は、普段外来で診察している人たちとは違う人たちのように見えました。でも聴診器を胸に当てさせてもらうためにシャツを持ち上げてもらうと、そこには日に焼けていない普通の皮膚があり、音を聞くと、誰もと同じような心臓の鼓動が、そして呼吸の音が聞こえました。

「そうか、このおじさんも痛み、苦しみ、そして喜び、楽しむ人たちなんだ。この人が自分らしく生きたいと意思を持つことは当たり前だ。」

 細々と医療相談や生活相談に関わってきて、笹島の野宿労働者のおじさんたちに教えられたのは、彼らが自分らしく生活を送りたいと願う、普通の人たちであるというごく当たり前のことでした。

 今後も、当たり前の生活をしたいと願っている個々人と共にありながら、それをさせないでいる社会の仕組みそのものを問うていく動きに連なりたいと願っています。

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佐藤 光さん

内科医、「財団法人アジア保健研修財団アジア保健研修所」(日進市)事務長、愛知県三好町、49歳。

 名古屋に戻ってまる8年がたとうとしています。東京にいた時には、山谷の越冬の医療班の支援にいっていました。名古屋でも越冬があるというので、伊藤先生に教えられて、名古屋駅の通称おけら公園に顔を出したのが、笹島診療所との関わりのはじめです。冬だけでなく、日常的にも活動をしているとわかり、何かホームレスの人の役にたてばと思って木曜の医療生活相談にも段々顔をだすようになりました。医療相談・診察といっても、冬は寒風の中暗い中での相談ですから、医療的な対応はあまりできなくて、「ちゃんと医者にかからないと」「紹介状を書くから明日福祉にいって診察にいきなさい」となることが多いのです。ホームレスを生み出す構造を変えることには、なかなか直結はしないのですが、少しでも変えるきっかけになればいいと思います。私の診療所の患者さんも、「ホームレスの人はなんだか怖い」「悪い人がいると聞く」などと言って、結構偏見は強いものです。今回の受賞は、ホームレスの問題解決に取り組む人達全てにむけられたものとうけとめています。ありがとうございました。

《名古屋弁護士会・人権賞とは》

名古屋弁護士会人権賞は、人権擁護のための地道な活動を続ける人や団体を顕彰するため、平成元年度に創設されたもので、今回が第14回となります。

候補者の中から受賞者を選考する選考委員会は、学者の方やマスコミ関係者などから5名と弁護士4名の合計9名で構成され、さまざまな視点から意見を交わして選考を行います。