会報「SOPHIA」 平成18年5月号より

【特集】どうなってるの?国選報酬
国選弁護報酬について〜元検察官からみて思うこと〜

会 員 國 田 武二郎

  1.  私は、平成15年4月1日、20年間勤務した検察官を退官し、同年6月23日付で弁護士登録をしました。登録時に共同事務所(但し、独立採算制)を立ち上げました。


  2.  国選弁護事件は、弁護士になった当初は年間40件くらい、現在でも年間20件くらい受任しています。
     検察官当時は、弁護人の国選弁護報酬額を意識したことはほとんどありませんでした。検察官として、起訴した事件が裁判所によってどう判断されるのか、求刑と量刑の開きがどの程度かといった検察官としての職務遂行のみを考えておりました。法廷で国選弁護人の活動を見ていて、非常に熱心な方とそうでもない方はおられました。ある国選弁護人から、「自白事件は1件8万円程度で安い」と聞きましたが、その額が、弁護士の活動から見て妥当なのかどうかの判断材料を持ち合わせておらず、報酬額については、関心外と言って良かったと思います。


  3.  しかし、自分が実際に国選弁護人を経験してみて、現行の国選弁護人の報酬は余りにも低額で、国選弁護事件は弁護士のボランティアで成り立っているとの感を強くしております。
     自白事件であっても、検察庁での記録閲覧・検討、被告人との接見、弁護方針の立案、更に事案により情状証人の準備、被害弁償、示談等は不可欠です。接見場所が名古屋拘置所であれば良いのですが、国選事件の受任直後は、代用監獄に勾留されていることが多く、代用監獄への往復時間、接見までの待ち時間に多くの時間を取られているのが実情です。しかし、国選事件だからと言って手抜きをすることは許されません。
     国選報酬がどのようにして算定されるのか分かりませんので何とも言えませんが、公判外の活動(接見、打合せ、接見の往復時間、待ち時間等)は、報酬に正当に反映されていないように思います。自白事件であっても、廃止された弁護士報酬基準規程で民事事件の最低額とされていた10万円は必要ではないでしょうか。
     否認事件や争いのある事件、弁護活動によって無罪となった事件、量刑が著しく軽くなった事件等では、その弁護活動に見合った報酬決定がなされるべきです。私の経験上、これまで、一番時間を費やしたのは強盗致傷(犯時法定刑が7年)の否認事件(3人の共犯事件の一人を担当)で、争点も多く調書の任意性も争って判決まで2年掛かりました。公判期日は18回、証拠調に半日を費やしたこともありました。判決は、恐喝と傷害の認定となり執行猶予付でしたが、謄写料を除く報酬額は20万円位でした。熱心に弁護活動を行えば行うほど相対的に割安になるのはおかしなことです。
     謄写料、交通費、通信費等の実費は、当然支給されるべきです。検察官は、必要があれば、裁判所から記録を借り出して検討しています。刑訴法上、検察官と被告人とは対等とされていますが、公判準備活動に於ける不平等は著しいといえます。


  4.  検察官時代には余り意識しませんでしたが、弁護士の目から見れば、現在の刑事司法は、「人質司法」そのものです。被告人が真実を述べても「否認」ととられ、安易に勾留され、しかも接見禁止付き。逃亡の虞れ、証拠隠滅といった抽象的な理由で保釈も認められないというのが実情です。このため、早く出たいために心ならずも認めてしまうケースを幾度となく経験しましたが、弁護人としてやるせない気持ちです。そこで、法的に対抗できるあらゆる手段を駆使して争っていますが、勾留担当の若い判事補には弁護士研修を課して、人質司法の実態をつぶさに見て欲しいと思います。
     近時、法務省も世論も被害者の人権救済に力点を置いています。しかし、被害者、被疑者双方の人権を均等に保障するシステムを作ることが健全な民主主義の発展に資すると思います。

     

    愛知県弁護士会会報「SOPHIA」 平成18年5月号

    【特集】どうなってるの?国選報酬   
      国選弁護報酬問題を特集するにあたって
      ある国選無罪事件の報酬例(豊川幼児殺人事件)
      無罪の場合の国選弁護報酬について
      国選弁護報酬について 〜元検察官からみて思うこと〜






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