会報「SOPHIA」 平成18年5月号より

【特集】どうなってるの?国選報酬
ある国選無罪事件の報酬例(豊川幼児殺人事件)

会 員 後 藤 昌 弘

1 事件の概要

被告人は、深夜ゲームセンターの駐車場に停めた車内で寝ていたところ、近くの車両で泣きわめく被害者の泣き声にかっとなって被害者を連れだし(未成年者略取)、その後始末に困って被害者を岸壁から海に投げ落として殺害した、というもの。当番弁護士から被疑者扶助にて受任。事件現場は豊川市、勾留場所も豊川警察であるが、公判が本庁で行われることから、当職と堀龍之会員が受任した。被告人は勾留当初は認めていたが、勾留途中から否認に転じ、公判では一貫して否認を続けた。物的証拠が無く、直接の目撃者もいないことから、争点は自白調書の任意性と信用性が中心となった。判決は、自白調書の任意性は認めたものの、信用性を否定して無罪とした。検察側が控訴し、秋頃には控訴審が始まる見込みである。

2 活動の概要(記録上明確なもののみ)

  1. 接見:22回、約50時間。(豊川警察署・名古屋拘置所)
  2. 関係者等との打ち合わせ:10回、約30時間。
  3. 現場見分等調査:9回、約60時間。
  4. 公判回数22回、進行協議6回。
  5. 証人9人。
【国選活動報告書に記載した活動時間の合計約240時間・・補助弁護士2名分含まず】


3 支出費用(記録上明確なもののみ)

  1. 謄写費用:16万1425円(但し事務所のコピー代は除く)
  2. 交通費・現地調査宿泊費:19万1284円(但しガソリン代は除く)
  3. その他:37万4970円(心理分析費用35万円、騒音測定器レンタル代、23条照会2回分、被告人と同一車両のレンタル代等)
【国選弁護活動報告書に記載した支出費用合計72万7679円】


4 弁護活動としての特記事項

  1. 被告人の迎合的性格の立証のために心理分析を依頼した。費用の金35万円は人権救済基金より借用(現時点では未返済)。
  2. 犯行動機となった被害者の泣き声の音量について、被告人車両と同一の車両を借り受けて音量測定を実施。なおその関係で東京の音響研究所に調査に出向いた。
  3. 被告人が逮捕状執行前にホテルに宿泊させられていたことが判明したため、同ホテルに宿泊して調査した。また、現場海域の潮位の推移を確認するため、泊まり込みで調査した。現地調査は計9回にわたっている。
  4. 現地調査等には、2名の弁護人の勤務弁護士も同行し、また修習生も同行している。
  5. 弁護側の冒頭陳述要旨8枚、弁論要旨は97枚。


5 報酬額

弁護人1人について40万円。但し、記録謄写費用16万1425円のみは別途支給。


6 雑感

 勾留場所及び事件現場が豊川であったため、接見・現場調査等が最低半日がかりとなり、国選弁護人としては辛い面があった(高速代や宿泊費等については明細を提出したが別途支給はされていない)。社会的関心を集める重大事件は、支部管轄内の事件であっても警察・検察の都合で本庁扱いとされることが多いが、その結果著しく増大する国選弁護人の時間的・経済的負担を弁護人自身に負わせることは到底容認できない。ちなみに、国選弁護報酬アンケート一覧表の時間給計算によると、本件の時給(当事務所の売上げと言うべきか)は487円である。
 なお、懇意な書記官経験者の話によると、今回の金額は、通常案件の国選報酬としてはそれなりに配慮された金額ではないか、とのことであった。

 

愛知県弁護士会会報「SOPHIA」 平成18年5月号

【特集】どうなってるの?国選報酬   
  国選弁護報酬問題を特集するにあたって
  ある国選無罪事件の報酬例(豊川幼児殺人事件)
  無罪の場合の国選弁護報酬について
  国選弁護報酬について 〜元検察官からみて思うこと〜

 





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