会報「SOPHIA」 平成18年5月号より

【特集】どうなってるの?国選報酬

 

 国選弁護人という存在については皆様お聞き及びと思います。貧困等の理由により自費で弁護人を付けられない被告人ついて、国の費用で弁護人を付けるという制度です。国民の裁判を受ける権利・弁護人をつけて防御する権利(いずれも憲法に定められている権利です)を実質的に保障しようという趣旨に基づくものです。
 この国選弁護人の報酬については裁判所が決めることになっているのですが、その支給基準については公開されておりませんでした。事案によっては、かなり低廉な金額となっている事例も少なくありません。この問題について、今回会報委員会が特集を組みましたので、ここに転載します。



国選弁護報酬問題を特集するにあたって

会報編集委員会

 「国選弁護報酬の金額は一体どのように決められているんだろうか?」
前月号から始めた新シリーズ「なんでも調査隊が行く!あれってどうなっているの?」を議論する中で出てきた疑問である。
 地裁における標準的事件(3回開廷)の国選弁護報酬基準額が毎年最高裁から日弁連に通知されて来ているが(平成18年は8万5100円だとのこと)、この基準額を基にして、個別事件ごとの国選弁護報酬額は一体どのように決められているのか。どんな事情をどの程度考慮して決められているのか。国選弁護人を務めるわれわれ弁護士は誰でも一度は同様の疑問を抱くのではないだろうか。この身近で素朴な疑問が本特集を組むきっかけとなっている。

 国選弁護報酬額は裁判所の報酬支給決定で決められるが、同決定の性質は非訟事件で、同決定に対しては不服申立ての途はないとされる(最高裁昭和63年11月29日決定)。
 国選弁護報酬額は、弁護人が被告人の人権を守り社会正義の実現に努める職責を担う法律の専門家であること、当事者主義的色彩の濃い現行刑事裁判制度のもとでその役割が極めて重要であることに鑑み、これにふさわしい報酬であるべきで、報酬支給決定に上記のとおり不服申立ての途が用意されていないことからも、個別事件における報酬支給決定に際しては慎重な配慮が望まれるとされている(上記最高裁決定坂上壽夫裁判官補足意見)。
 しかし、実際に何か配慮がなされているのだろうか。
 国選弁護報酬の支給基準を明示してもらいたいとの申入れにも、裁判所は、「国選弁護人に対する具体的な報酬の支給額は、当該事件の審理を担当した係属部又は係が、支給基準を一応の基準としながら、事件の難易、弁護人の訴訟活動及び事前準備の程度等をも斟酌して定めているものである。この意味で、支給基準は、裁判の内容にもかかわる裁判に関する内部的な基準であり、部外秘のものであるから、公表することはできない」などと頑なな回答をしてきている(平成2年10月22日開催の第一審強化方策名古屋地方協議会)。
 我々は、裁判所に公判外の準備活動時間や実費支弁の実情を訴えるべく国選弁護活動報告書を提出しているが、提出した報告書に記載した弁護活動の実情について裁判所が果たしてどれほど「慎重な配慮」を行っているのかを全く知らされず、批判することさえできない状況下で、一方的に決められた報酬に甘んじながら、黙々と国選弁護制度を支えてきている。

  本年10月からは、日本司法支援センターの業務が開始されて同センターで国選弁護人選任事務が取り扱われるようになる。それに伴い、国選弁護報酬も、同センターの定める契約約款の算定基準に基づき算定され、同センターから支給される(総合法律支援法36条)。報酬額算定基準を含め大きく制度が変わろうとしている。
 この制度変革期に、これまでの国選弁護報酬を巡る問題、とりわけ、ほとんど固定額制度とでも言うべきで、熱心に時間や労力をかければかけるほど相対的に割安になるという国選弁護報酬の支給基準の不当さの問題などを、様々な観点から掘り下げその解明に努め、現状をできるだけ正確に認識しておくことは、意味あることと思われる。今後新しく立ち上がる制度に対しても、われわれは不断に検証を加え、あるべき制度の実現に向けて改善を提案していかねばならない。本特集がその際の一つの参考になれば幸いである。

 

愛知県弁護士会会報「SOPHIA」 平成18年5月号

【特集】どうなってるの?国選報酬   
  国選弁護報酬問題を特集するにあたって
  ある国選無罪事件の報酬例(豊川幼児殺人事件)
  無罪の場合の国選弁護報酬について
  国選弁護報酬について 〜元検察官からみて思うこと〜





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