会報「SOPHIA」 平成21年6月号より

改正刑訴法・裁判員法講座(50)

最高裁「模擬裁判の成果と課題」について(3)




裁判員制度実施本部 委員
舟橋 直昭

  先月号先々月号に引き続き、最高裁「模擬裁判の成果と課題」(以下「成果と課題」という)に関する拡大研究会最終回(第3回)の報告をさせていただく。

3 審理の在り方

(10)被害者参加と裁判員裁判
 犯罪被害者等が刑事裁判に関与する手続としては、@自身が証人となる場合、A刑訴法316条の36に規定する情状証人に対する尋問、B刑訴法316条の37に規定する被告人に対する質問、C刑訴法292条の2に規定する意見陳述、D刑訴法316条の38に規定する弁論としての意見陳述がある。
 成果と課題は、@、C、Dの各手続については「いずれも立法趣旨を異にするものであり、それぞれの手続をことさら制限的に運用することは立法趣旨を没却しかねず、相当でないであろう。」と述べる。
 この5つが被害者参加制度の中心であることは確かであるが、これらは事実上、重複する場合が多く、必要以上の被害感情の発露がなされることは留意されなければならない。
 次に、成果と課題は、「被害者参加人の訴訟活動については、『被害者参加人の訴訟活動が裁判員の情緒に強く作用することにより、裁判員の心証に不当な影響が及ぶことになるのではないか。』との指摘が一部からされており、被害者参加人等による質問や意見の陳述が違法・不当なものにならないようにする必要がある。」と述べる。
 刑事弁護人としても同じ懸念を抱くものではあるが、被害者参加人の立場からは異論があるかもしれない。そもそも、被害者参加制度が刑事裁判に犯罪被害者の意見をより反映させるために設けられた制度であることを考えると、被害者参加人の訴訟活動が裁判員の情緒に作用することも所与の前提といえ、何が「不当」かの評価については、関係者間で考えが分かれるところだからである。


(11)要通訳事件における審理の在り方
 成果と課題は、要通訳事件において「冒頭陳述、書証の取調べ等については、基本的に当事者の作成した読み上げ原稿等に基づき、ワイヤレスマイクを使用して同時的に通訳することになろう。」と述べる。
 しかし、裁判員を説得する際の最も大切な技術の一つとして、原稿を朗読すべきでない、暗記すべきでないということが指摘されており(日弁連編集・法廷弁護技術第2版97頁)、日弁連における近時の裁判員研修でも徹底して教えられている技術である。
 この点、成果と課題は、模擬裁判では「当事者から、読み上げ原稿に基づく同時的な通訳でなく、口頭で行われる弁論等を同時通訳することが求められた例もあったようであるが、そうした通訳の方法によるべき必要性がさほど高いとは思われず、また、通訳の正確性確保の観点からは問題なしとしないであろう。」とコメントしている。
 これに対して、要通訳事件に関して行われた模擬裁判では、逐語訳の方が裁判員にとっても理解する時間的余裕を与えて好評であったとの報告もある。
 今後の重要検討課題と考える。


(12)障害者が裁判員として参加する場合の審理の在り方
 成果と課題は、「障害者が裁判員に選ばれた場合でも、当事者の権限と責任において、障害者である裁判員にも分かりやすいような主張・立証が行われる必要がある。」と述べる。
 視覚障害を持つ方に対しては、耳で聞いてわかる裁判を基本とすべきであり、聴覚障害を持つ方に対しては、正確な手話通訳等に適した法廷活動が行われるよう配慮しなければならない。但し、当事者の責任と言っても、物理的・労力的に自ずと限界があり、これらの点も今後の検討課題である。


(13)補充裁判員が参加した場合の配慮の在り方
 補充裁判員について、成果と課題は、模擬裁判において、補充裁判員からは「裁判員役と同様に審理・評議に出席しなければならない一方で、裁判員と異なり、自発的な補充尋問や評議での発言等ができないため、基本的には聞いているだけの受身の対応に終始せざるを得ず、ストレスが溜まったとの意見が往々にして聞かれた」と述べる。
 もっともな感想である。しかし、現実の運用として、公判・評議を3〜4日間程度と想定するのであれば、補充裁判員は必須の存在であり、後にアクシデント等により裁判員となった場合の評議の在り方にまで十分配慮しておかねばならない。この点も、法曹三者の課題であろう。



4 評議の在り方

(1)裁判員裁判における評議の在り方
 成果と課題は、「評議では、審理での当事者の主張立証、最終的には論告・弁論を参考に、検察官の主張する事実が、弁護人の主張立証したところを踏まえても、合理的疑いを容れない程度に立証できたかを議論する。」と述べる。
 「評価型」評議が基本であることが再確認されており、至当である。


(2)評議において論告・弁論に挙げられていなかった意見が述べられた場合の取扱い
 成果と課題は、「裁判員裁判においても自由心証主義は妥当することから、評議において、必要な限度で、論告や弁論で触れられていない事情等を考慮することは何ら妨げられない。」、「裁判員が指摘した事実が裁判の結論に影響を与えるなど、重要なものである場合は、弁論を再開して公判廷に顕出する措置をとることが必要。」と述べる。
 具体例に言及した論述ではないのでコメントしにくいが、「考慮することは何ら妨げられない」という記載は、当事者主義を基本とすべき(成果と課題第1、1)との立場との整合性が問題となろう。更に、少なくとも、評議について前述のように「評価型」を原則とするのであれば、被告人に不利な方向での再開は許されないものと解すべきであろう。


(3)中間評議等の活用
 成果と課題は、「裁判官としては、中間評議や審理の合間における裁判員との雑談の機会を捉えて、関心があること、疑問があること等について、裁判員に自由に発言してもらい、裁判官と裁判員とのコミュニケーションを徐々に密にしていく中で、問題意識や暫定的な心証を交換していくことが必要であろう。」と述べる。
 しかし、中間評議については、これによって裁判員が裁判官の心証に触れ、その後の審理に一定の予断を抱いて臨む結果、その心証形成過程において裁判官の暫定的な心証に迎合していくという懸念が指摘される。裁判員の自由な判断を保障するためにも、中間的な会話の中では、証拠の立証趣旨を明らかにしたり、問題意識の交換程度に留めるべきであり、各自の心証は、最終評議の場で述べられるべきである。


(4)量刑評議の在り方
 成果と課題は、量刑資料(量刑分布グラフ)について以下のように述べる。すなわち、「量刑分布グラフを提示することをためらう必要はない」、「量刑分布グラフを示す場合には、あくまでも具体的な量刑意見を述べてもらうための参考資料であり、量刑分布グラフに示された量刑の幅に必ずしも縛られる必要はないことについて、適切に説明しておくことが必要」、「説明の仕方さえ誤解無いようにすれば、量刑評議の冒頭に示しても全く問題がないようにも考えられる」と各々述べる。
 しかし、これまでの模擬裁判の評議においては、量刑資料が裁判員に与える影響は顕著であった。幅のあった量刑意見が、量刑資料を見た後に、資料の範囲内での意見に収束される傾向が大であった。
 かかる傾向を見ると、少なくとも、各自の量刑意見が十分に述べられた後に、量刑資料の呈示はなされるべきである。
 更に、どのような量刑資料が提示され、どのような説明がなされるかについては弁護人にとってはブラックボックスであり、わからない。
 弁護人としては、公判前整理手続段階にて、できる限り裁判所の作成する量刑資料の当該事案に対する適合性やその正確性等を把握することが望ましく、把握できた資料に基づいて対策を立てておくことも必要である。更に、弁論においても弁護士会にて独自に収集した量刑データベースの分析・検討が必須であろう(先月号ご参照)。


(5)評議における裁判官のスタンス等
 成果と課題は、「裁判員制度の眼目は、裁判官と裁判員の『1つのチーム』としての協働にある。」と述べる。
 言葉の問題かもしれないが「1つのチーム」と聞くと、「まとまり感」、あるいは何らかの指揮系統の存在をイメージしてしまう。
 裁判官の意見が裁判員に極めて大きな影響を与えることがよく認識され、裁判員それぞれの価値観、人生観、バックグラウンド全てが尊重された上で、自由闊達な評議がなされるような一つの合議体が形成されるべきである。

(舟橋直昭)






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