会報「SOPHIA」 平成21年1月号より

特集 就職最前線(前編)

即独弁護士の現状(大阪編)
〜中井真雄弁護士の場合

   会報編集委員会 

会報 簡単に自己紹介をお願いいたします。
中井  私は、昭和41年生まれで、平成3年頃に大学を卒業しました。大学卒業後は特に就職はせず、アルバイトなどをしながら、勉強を続けていました。
 修習期は現行60期です。平成19年9月に弁護士登録し、11月に事務所を開業して今に至ります。
会報 修習中の就職活動から即独されるまでの経緯を教えて下さい。
中井  前期修習中は、特に就職活動はしていませんでした。
 実務修習(大阪)に入る時点で、私たちと入れ替わりの59期の大阪修習生が10名くらい就職できなかったという話を聞きました。年齢が高いと就職が厳しいようで、私も若くなかったので、大阪での就職をあきらめ、地元の京都か滋賀での就職先を探しました。しかし、京都や滋賀も就職希望者が多く、就職先は見つかりませんでした。
 幸い親が事務所を開くなら開けば良いと言ってくれましたので、この頃から独立も考え始めました。
 ただ、修習をやっていると、自分がいかに実務ができないかを実感し、やはりできればどこかの事務所に就職したいと思い、実務修習中は大阪での就職活動を続けました。しかし、イソ弁を募集する事務所が1つ出ると、希望者が20〜30人殺到するという状況で、結局就職先は決まりませんでした。
 そして、実務修習が終わる頃に、就職活動を辞め独立を決意しました。ただ、後期中は二回試験の勉強に専念し、独立準備はしませんでした。
 二回試験合格後、9月に大阪で弁護士登録をしてから、事務所開設の準備を始め、11月下旬に事務所の形ができあがりました。事務所開設までの準備は、良い物件がすぐに見つかったため、非常にスムーズだったと思います。
会報 事務所の開業費用はどれくらいですか。
中井  事務所の保証金として100万円、内装で200万円ほどかかり、その他備品を購入して、合計で350万円くらいかかりました。
 事務所は裁判所や弁護士会に近い西天満にあり、家賃は20万円、広さは20坪くらいです。
 私の事務所は相談スペースが2つあるため、パーテーション代が高くつきました。
 開業費用は、自分の貯金100万円と、親から運転資金込みで借りた800万円を充てました。
 私には親の援助があったため、恵まれていると思っています。
 父親が大学教授であるため、私が独立したことを機に、父親も弁護士登録をしましたが、特に実務をやっている訳ではありません。
会報 事務所の月々のランニングコストを教えて下さい。
中井  事務所経費でだいたい30〜35万円、自分の経費を加えて45〜50万円くらいです。
 事務員として、週に3日弟が手伝いに来てくれています。また、最近私の事務所に同期の友人がノキ弁のような形で登録しましたが、その友人の妹さんが週2日手伝いに来てくれています。
 事務員のお給料は、弟分は自分が、友人の妹さん分は友人が負担することにしています。
会報 現在の中井さんの仕事の内容や事件数等、仕事の状況を教えて下さい。
中井  最近の仕事の状況は、刑事事件が3件、家事事件が3〜5件、民事事件が5件、債務整理が6件、弁護団事件が7件です。
 また、会務にも積極的に参加しています。委員会は、犯罪被害者支援、刑事弁護、消費者保護に所属しています。大阪弁護士会では義務として弁護士登録後すぐに最低1つの委員会に所属することになっています。
 また、委員会とは別にプロジェクトチームにも入っています。具体的には、即独支援PT、民法改正PT、新保険法PTなどです。
 私は即独したため、委員会活動、勉強会、弁護団などに積極的に参加して、他の弁護士と関わりをもっていきたいと思っています。
 弁護団事件は、経済的な理由というよりは、勉強のためにやっています。即独して一番困るのは、自分のやったことで、誰にも怒られない、直されないことです。自分の実力が伸びないのが一番心配です。弁護団に入れば、他人の書面を見たり、自分の書面を直してもらえるので、大変勉強になります。
会報 差し支えなければ、中井さんの収入状況を教えて下さい。
中井  大阪弁護士会では、登録後半年間は国選事件を取れないため、それまでは収入が安定せず、経営は厳しかったです。
 少ないときには、月の売上が5万円のときもありました。
 また、国選事件が取れるようになっても、年間の受任上限(年間24件)が決まっています。私の場合は、年間18件の割り当てがありました。その他に、当番出動による私選援助事件や被疑者国選事件の受任もあります。これにより、毎月15〜20万円の固定収入につながっています。
 そのうち国選事件等の刑事事件以外にも事件が少しずつ入ってくるようになったため、平成20年の夏頃には、月の売上げが大体50万円程度になりました。
 これで、自分の給料を考えなければ、事務所的には黒字になりましたが、自分の収入を考えると、まだ足りません。
 予備校のアルバイトなどは、時間が無いのでやっていません。
会報 大阪では国選事件をすぐに取れないので、即独は大変そうですね。
中井  そうですね。大阪では国選事件の割り当てが半年間ないことに加えて、弁護士会の法律相談も1年目の6月までは割り当てがありません。また地方自治体の法律相談は、2年目の6月以降でなければ担当させてもらえません。
 そういう意味で、登録後しばらくは収入が安定しないので大変厳しいです。
 国選事件は、法テラスが開く前から並んで事件を取ります。9時半頃には事件が無いことが多いです。また、最初から事件が少ないときには並んでいても取り合いになります。国選事件を受けるのは、若手と年輩の方が多いです。
 国選事件以外の事件は、法律相談を担当できなかった間は、修習先の事務所や、昔の知り合い、会派関係・委員会の方など、顔を出しているところから、事件を紹介してもらっていました。

会報 判例検索サービスや書籍は事務所で購入していますか。
中井  判例検索サービスは事務所に入れています。弁護士会にあるから要らないとも思いましたが、夜中に調べたいときもあると思い、事務所に入れました。
 書籍は、加除式は買っていませんが、それ以外の本は目に付くと購入しています。
 ちなみに大阪弁護士会では、図書室に即独用セットのコーナーを置くことになりました。そのコーナーの書籍は持ち出し厳禁になっており、そのコーナーに行けば、色々な書式集や手引きを見られるようになっています。
会報 中井さんの周りで「即独」や「ノキ弁」をされている方はいますか。
中井  即独をした方は、大阪では新旧60期で自分を含めて5人います。もともと司法書士をされていた方だったり、税理士、公認会計士のご兄弟がいるので、その事務所で開業した方もいます。また、企業内弁護士も含まれています。
 また、修習のクラスでは、友人が福井で即独しました。
 ノキ弁をやっている知人も何人かいますし、私の事務所に来ている友人はノキ弁の形態だと思います。
会報 それらの方が即独された経緯は分かりますか。
中井  あまり聞いていません。就職先がなかったり、自分でできるという考えから独立したのだと思います。
 福井で即独したクラスの友人は、就職活動をした際、福井では独立するのが普通だと言われ、独立したと聞いています。
会報 中井さんの事務所のノキ弁の方は、どのような経緯で中井さんの事務所に入るようになったのですか。
中井  そもそも私の事務所は、弁護士事務所を辞めた方から、その後の就職活動中の事務所として登録依頼されることが多かったです。
 今までにも、同期や同じ会派で事務所を辞めた方数名から、登録の依頼があり、実際に就職活動用に2名登録したことがあります。
 現在登録している同期の友人は、東京で就職していましたが辞めることになり、私の事務所に登録しました。彼は登録だけではなく、実際に1〜2週間前から事務所に来てくれています。
 彼は今のところ就職活動を考えていませんし、特に経費負担をせず、私の事件を手伝ってくれている状態ですので、いわばノキ弁のような形態になっています。
 彼が来てくれたお陰で、1人では忙しくてできなかった事件を、共同でできるので、助かっています。
会報 中井さんの周りで、「宅弁」をされている方はいますか。
中井  大阪や知人では聞いたことがありません。
 ただ、修習終了後、弁護士登録をせずに就職活動を続けていた方はいました。その方は、大阪での就職を希望していたようですが、1年間就職活動をして、結局東京で就職したようです。
会報 大阪では登録時の費用はどれくらいかかるのですか。
中井  弁護士登録時に、会館負担金40万を含め、合計50万円くらいを支払った記憶です。月々の会費は、現在日弁連の分が7000円減額されていますので、毎月3万7000円です。
会報 中井さんの周りで、「アパ弁」をしている方はいますか。
中井  大阪ではいないようです。新聞等で読んだ限りですが、福岡では打ち合わせ用に共同でアパートを借りて独立した方がいるようです。
会報 中井さんの周りの修習生の就職活動は、大変そうでしたか。
中井  本当に大変そうでした。10〜20カ所くらい事務所訪問をするのはごく普通でした。
 また、何よりストレスが貯まるのは、2次面接まで進む人には連絡が来ますが、そこまで進まない人には断りの連絡が無いことです。せめて連絡くらい欲しいです。
 修習のクラスでは、修習終了時に2人くらい就職が決まっていない状況でした。その後、まもなく就職が決まったようですが、今後はもっと多くなると思います。
会報 最近1年以内という短期間に事務所を辞める新人弁護士が増えていると聞いていますが、中井さんの周りにそのような方はいらっしゃいますか。
中井  現に短期間で辞め、就職活動用に私の事務所に一時登録を希望する知人は複数名いました。
 また、直接は知らなくても、会派などで、短期で辞めた方の話を聞きます。
 短期で辞めた理由は、詳しくは聞いていないので分かりませんが、事務所のボスとの相性や取扱業務などだと思います。
会報 最近の即独、ノキ弁、宅弁という形態の弁護士が増えてきた現状について、中井さんはどのような感想をお持ちですか。
中井  危ないと思います。ある意味、路上教習をやらず、ペーパーテストだけで、自動車を運転しているようなものです。
 弁護士会や会派など、どこにも顔を出さず、何をしているか分からない方が増えてしまうと、不正に関与してしまう危険が増えるため、大変問題だと思います。
会報 今後若手弁護士はどうしていくべきであると考えますか。
中井  自分も含めて若手弁護士は、地道に仕事をしていくしか無いと思います。
 正直、今の日弁連には期待できません。
 日弁連は、弁護士の就職問題をあまり真剣に考えていないと思います。10年後20年後を見据えて真剣に考えて欲しいです。 
 このままの状況が続けば、どこかで歪みが生じると思います。
 最低限の生活が保障されなければ、良い弁護士活動はできないと思います。
 また就職をした同期の弁護士も、従前より年収が低いようです。大阪では月20万円以下の人もいるようですが、同期の話では400〜500万円前後の年収の人が多いように感じます。個人事件の可否やその負担割合で、収入はかなり違いますが、同期の話では、実際に個人事件をやる時間的余裕はないようです。同期の中では、4〜5年後に独立する場合、その独立資金を貯められるかという不安もあるようです。
 また、これから弁護士を目指す方には、色々大変なこともあるでしょうが、弁護士になって何をしたいのか、良く考えて、信念をもって頑張って欲しいです。
会報 本日はお忙しいところ、大変貴重なお話をありがとうございました。




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