会報「SOPHIA」 平成17年3月号より

改正刑訴法・裁判員法講座
裁判員制度における評議・評決の手続きと判決


刑事弁護委員会制度検討部会
委員 金 井 正 成

1、 裁判員制度における評議・判決の基本姿勢
  裁判員制度導入の趣旨は国民の司法参加及び社会常識の反映にある。したがって、裁判員裁判では、直接主義・口頭主義を重視した集中審理を実現し、裁判員に分かりやすい審理が行われなければならない。評議における基本姿勢としては、裁判員が判断に実質的に関与できるようにするために、裁判官と裁判員が十分なコミュニケーションをとり、裁判員が自由に発言できる状況を作る必要がある。また、裁判員は判決の宣告まで関与するが、裁判員の負担を考えると、論告・弁論の後、評議に入り、評決に達すれば速やかに判決宣告を行うべきである。

2、 評議について
(1)  評議の主宰 裁判員法66条1項は「評議は、構成裁判官及び裁判員が行う」と規定するが、評議の主宰についての明文の規定はない。しかし、条文の体裁等から、裁判長がその任にあたると想定される。
(2)  中間評議 全ての審理を終えてから全争点を一度に評議するか、尋問終了ごとに評議するなどの中間評議を認めるかについては議論がある。中間評議を安易に認めると、公判審理は検察官の立証が先行するので有罪方向への心証を固める結果となる可能性があるとの懸念と、直接主義・口頭主義の趣旨からすれば当日の公判終了後に、当日の証拠調べの印象等について話し合う中間評議的なものも認めるべきとの考えとのせめぎ合いである。
 裁判員裁判の趣旨からすれば、公判の印象が鮮明な時点で中間評議等を行うこととなろうが、裁判官のリードによる裁判員に対する説得とならないように規則等で厳格にそのルールを定めたり、弁護人が「検察立証の途中であるが、弁護人の意見は〇〇である」等の中間弁論を行う等の工夫が必要となろう。

3、 評決について
 
(1)  基本原則 過半数が原則であるが、裁判官及び裁判員の双方の意見を含むとの要件があり、裁判員のみ、あるいは裁判官のみの全員一致で有罪にはできない(67条1項)。
(2)  量刑の評決方法 量刑の場合も過半数が原則だが、67条2項に固有の特例がある。同条項の文言は難解であるので具体例で示すと、例えば、死刑・無期・懲役20年に分かれた場合、死刑選択意見が過半数(5人以上)であっても、その意見の中に裁判官の意見が含まれていなければ双方の構成員を含まないため死刑は選択できない。この場合、死刑選択意見を順次無期選択意見数に加算し無期選択意見の中に裁判官の意見が含まれている場合には、無期以上の意見が過半数かつ双方の構成員を含むとの要件をみたし、無期以上の意見の中で最も被告人に利益な無期が結論となる。
(3)  評決の時期・手段等 評議は裁判長が主宰するが、いつ(どの程度の評議を経た上で)・どのような手段で(挙手、記名or秘密投票)評決を行うかも裁判長の裁量である。但し、裁判員の意見は尊重されるべきである。

4、 判決について
(1)  裁判員は判決期日に出頭しなければならないが、裁判員が出頭しないことは判決宣告を妨げないとされる(63条1項)。これは評決後判決宣告までの間に判決書起案等の作業のために一定期間を要する場合を考慮してのことと思われる。
(2)  評決後速やかに判決宣告を行えば、裁判員の立会が可能となるが、その場合、判決書の記載内容としてどの程度のものが要求されるのかが問題となる。とりわけ有罪判決の判決理由の記載の程度が問題となるが、直接主義・口頭主義を重視する裁判員裁判においては、判決書は現在のものとは異なり、公判前整理手続において整理された争点を中心としたある程度簡潔なものになると予想される。