法律事務所の窓辺から

納得できない“弁護士ドラマ”


先般、弁護士を扱ったあるドラマを見た。司法研修所を卒業した60歳半ばの弁護士3名が、一緒に法律事務所を開業して活動していくというストーリーだ。彼らはそれぞれ別の職業人として半生を過ごし、一念発起し、現行司法試験に合格したという設定。ドラマとしての展開はそれなりに悪くないし、役者もいい、見せ場もあるのだが、どうも弁護士から見ると納得できない点がいくつかあった。

まず、彼らは、研修所を出たばかりなのに、ほとんど誰にも助言を仰ぐこともなく、テキパキと決断し、バリバリと仕事をこなしていた。もちろんそういう天才肌の新人もいるだろうが、普通は先輩弁護士から種々アドバイスをもらい、書面についても添削を受けながら、一人前の弁護士に育っていくというのが普通だ。

次に、事件一件主義。ほかのドラマでもよく見られるが、彼らはそれぞれ一件の事件だけを扱い、毎日すべての時間をその事件に注ぐ。実際にこのようなことをしていては、遠からず事務所は閉鎖となるだろう。弁護士は、訴訟事件を一人あたり10件から30件、かなり忙しい人だと50件以上を同時進行で担当して処理しているのが実情だ(これは刑事ドラマでも同じかもしれない。捜査員一人又は二人で一件だけ担当していては、日々発生する犯罪にはとても対応できないだろう)。

それから、法廷における尋問で本人や証人があまりにスムーズに答えるのも不自然だ。普通の人は法廷で尋問を受けるというのは一生のうちで一回あるかないかだ。緊張してしまい、話があっちに行ったりこっちに行ったりして、場合によっては代理人や裁判官に「まずは聞かれたことだけに答えてください。」と助言を受けることもしばしばだ。ところが、このドラマを見ているとまるで台本があるかのように(あるのが当然か・・)本筋を外さず必要十分なことを流れるように述べていく。

ここまではまあ許せるが、驚きは次のシーン。主人公の依頼者は離婚をしたばかりの一人暮らしの女性だ。事件に疑問をもった彼は、ある夜ふと彼女のアパートを一人で訪れ、「ちょっと、よろしいですか。」と部屋にあがり込み、聴き取りを始めた。李下に冠を正さず。このような非常識かつ危険なこと、社会人としてやってはいけません。  こんな調子でブツブツつっこみを入れていたら、妻から「うるさいなあ。ドラマなの。ドラマ。」としかられてしまった。
まあ、弁護士がバラエティー番組に出たりマラソンしていたら参議院議員になってしまうということもあるのだから、何がリアルかは分からないか・・。