公正証書(その2)  

 
      金銭支払い契約で悪用も
            内容確認と署名は慎重に
 

 今回は、12月号の遺言公正証書に続いて、公正証書の内容をご紹介する。

2 公正証書による契約書
 契約によっては、借地借家法に定める事業用借地権のように、公正証書の作成が要件とされるものもあるが、公正証書の作成が要件となっていない契約についても、公正証書で作成される例は多く見受けられる。
 その理由としては、単に契約内容を確実なものにしておきたいという場合もあるが、金銭の支払に関する内容を含む契約について、公正証書を作成することが多い。それというのも、金銭の一定額の支払を定めたもので、かつ、債務者が強制執行に服する文言(いわゆる執行認諾文言)が記載された公正証書の場合、債権者は、約束にしたがった支払がなされないときには、債務者の財産を差し押さえることができるためである。つまり、一般に、他人の財産を差押えるには、裁判所で判決や支払督促命令をとる必要があるが、執行認諾文言が書かれた公正証書の場合には、公証人役場で、債権者が、債務者の関与なく、執行文付与を受けることにより、裁判所で判決等をとらなくても、裁判所での強制執行手続で、債務者の預金、給与、不動産等の差押が可能となるのである。
 これは、本来、公証人の面前で契約書が作成される場合には、厳格な手続のもと、その内容の適正・有効性が確認されて作成されるとの前提があり、改めて相手方の言い分を聞かなくても、強制執行手続を認めてが認められてもよいと考えられているからである。
 しかし、公正証書を悪用するケースが問題になっている。これは、公正証書で契約を作成する場合には、本人が委任事項を明確にした委任状を作成し、実印で押印し、印鑑証明書を添付すれば、本人が出向かなくても、代理人が出頭して作成することが可能であることを悪用したものである。つまり、貸金業者等が、金銭消費貸借契約書(借用書)を作成する際に、借主において、公正証書が作成されること、あるいは公正証書が作成されるとどのような効果があるかも分からないまま委任状への署名と実印の押印、印鑑証明書の交付をしてしまう場合があるからである。そして、現実には、貸金業者の社員ないし関係者が、借主の代理人として公正証書を作成し、内容としても適正なものでないものが作成されてしまうこともある。
 もともと、代理人で公正証書が作成された場合には、公証人は、作成日から3日以内に委任者本人に通知するとの規定もあるが、単なる訓示規定であり、必ずしも、実行されているわけではないようである。
 そして、公正証書の作成について代理権の存在等を争おうとしても、請求異議の訴え等の裁判手続によって、争わざるをえなくなってしまうものである。
 したがって、契約書に署名等する場合には、内容が分からない書面(委任状等)には署名しないように注意をする必要がある。