非常勤裁判官制度とは


調停制度とは

 裁判所を通じて紛争を解決する制度には、裁判と調停があります。

 裁判は、原告(訴える側)が訴えを提起して、原告と被告(訴えられた側)がそれぞれ自分の言い分を主張し、自分の言い分を証拠で立証します。この主張・立証を受けて裁判官が原告と被告のどちらの言い分が正しいかを判断し、最終的には判決という形で紛争の解決をはかります。

 これに対して、調停は、紛争を話し合いで解決するものです。調停委員が間に入り、当事者双方の話を聞いて妥協点を見いだしていきます。

 調停は、裁判に比べて、申立の内容、提出すべき証拠についてあまり厳格に要求されないことから手続きが簡単で、申立費用も割安になっています。平均審理期間は6か月ですから、早い解決ができるとも言えます。調停での話し合いで円満に解決できれば、それに越したことがないでしょう。ですから調停を利用する人は結構多いのです。

 調停には、民事調停と家事調停があります。民事調停は、貸金返還、家賃交渉、損害賠償など一般民事紛争を扱い、その多くは簡易裁判所で行われます。

 家事調停は、離婚、遺産分割などを取り扱い、家庭裁判所で行われます。 調停で重要な役割を果たす調停委員は民間の人達から選任されます。その職種は、弁護士、弁理士、司法書士、元裁判官、元裁判所書記官、元銀行員、元警察官、元新聞記者、医師、建築士、公認会計士、不動産鑑定士、消費生活委員、主婦、会社役員、大学教授など様々です。様々な職種の調停委員の社会経験、職業経験を生かして、紛争解決に役立てようとするものです。

 現在、名古屋簡易裁判所所属の調停委員は約220名です。


最近の調停の特徴

1.調停事件の急増
 バブル経済が崩壊した平成5年頃は、1年間の調停申立件数は約20万件でした。このうち、一般民事調停事件は約11万件、離婚、遺産分割などの家事調停は約9万件でした。これに対し訴訟提起件数は約38万件でした(全国総数。以下同じ)。

 ところが、その後、調停申立件数は年々増加の一途をたどり、平成14年には1年間に62万件の申立がされました。このうち民事調停は約49万件(うち特定調停事件は約41万件で85%も占めています)、家事調停は13万件です(離婚調停が増えています)。 民事調停は平成5年時の実に約四倍にもなったのです。訴訟提起件数も増加しましたが49万件でした。平成12年段階で調停事件数が訴訟事件数を追い越したのです。 調停申立件数が急増した原因の一つは、平成12年から特定調停制度(多重債務者の債務負担軽減をはかる調停)がスタートしたためだと考えられます。長引く不況で、経済的に困窮する人達が増え、サラ金などからの借入金が返済できなくなって、特定調停制度を利用する人が多くなってきたからです。

 このように調停事件が急増したために、全国のどの簡易裁判所も忙しく、てんてこ舞いの状態です。調停委員の数も、調停をする部屋も不足しています。その為、調停を申し立ててから3か月経ってようやく第1回目の調停の日ということが常態化しています。調停制度は機能不全寸前です。

2.非常勤裁判官制度の創設
 調停委員の社会経験を調停という話し合いによる紛争解決の場で生かしてもらい、法的な問題点は裁判官がサポートするという点に調停制度の妙味があります。しかし、調停担当の簡裁裁判官の数は少なく、しかも手持ち事件数が多すぎることから、裁判官は調停にはあまり関与できないというのが実状です。

 これを改善するために、非常勤裁判官制度が創設され、早速今年の1月からこの制度がスタートしました。

 非常勤裁判官というのは、弁護士がその身分を有したまま、非常勤の形態で、週1回、地裁あるいは簡裁の民事調停官、家裁の家事調停官として、裁判官と同等の立場で調停手続きを主宰する制度です。この制度の主な目的は、弁護士の体験を活用した民事・家事調停制度の充実と弁護士任官(弁護士から裁判官になること)の促進という点にあります。

 弁護士経験が5年以上ある者が調停を主宰する裁判官となり、裁判官が調停に関与する度合いを強めて調停を充実させる、これがこの非常勤裁判官制度の目的の一つです。

 第一期生として全国で30名採用され、名古屋では、名古屋簡裁に民事調停官3名が採用されました。毎年30名程度増員し、最終的には非常勤裁判官を100名程度までにするというのが最高裁判所の計画です。

簡裁の調停は、手続きが簡単で、早く、実情に即したいい解決が出来るということになれば、司法サービスを利用する国民の皆さんにとって、とても良いことです。

 この非常勤裁判官制度は、裁判所に新しい血を注入する試みとして非常に注目されています。