弁護士の「専門」表示


客観的な認定基準が必要


 もしもあなたが交通事故の被害に遭って、その損害賠償のことで相談をしたり、依頼をしたりする弁護士を探しているとしましょう。電話帳で弁護士のページを開いて、交通事故専門の弁護士はどこにいるのだろうかと目を凝らすけれども・・・見つからない。離婚専門弁護士しかり、会社専門弁護士しかり、「専門」性を明示した弁護士の広告は見当たらないはずです。

 弁護士による広告が原則として禁止されていたのは昔の話。平成12年から原則として自由に広告ができることになっています。しかし、「専門」の表示は、今なお、日弁連が定めた指針によって、「誤導のおそれがあり・・・現状ではその表示を差し控えるのが望ましい」とされているのです。すなわち、弁護士が特定の分野について「専門」と表示する以上はその分野での経験が豊富で能力が優れていることが期待されるところですが、経験や能力の程度を客観的に判断する基準がないのに「専門」性表示を許すならば、自称専門家による弊害が発生するおそれがあると考えられているのです。

 ところで辞書で調べてみると、「専門」とは、もっぱらその分野に取り組んでいることを意味するに過ぎず、「専門」という言葉自体に必ずしも優れた能力という含意があるわけではありません。「餃子専門店」は必ず旨いかといえば、そうとは限らないのです。しかし、弁護士は依頼者の方々の一生に一度あるかないかの一大事を引き受けることも少なくない職業です。「専門」という言葉の意味を、本来の語義よりも若干重いものと解釈して、その表示について慎重な取扱いをしている趣旨はここにあります。

 だからと言って、こうした慎重さが市民の皆さんが弁護士にアクセスする際の障害になってしまったのでは本末転倒です。

 そこで、名古屋弁護士会のホームページでは、「取り扱い業務分野」と「特に関心のある法律分野」という2つの検索条件を設けて、条件に当てはまる弁護士を検索できるようにしています。「取り扱い業務分野」には「専門」性の評価が伴っていませんし、「特に関心のある法律分野」と言えばその弁護士の主観的な関心であることがはっきりしていますから、「専門」表示と異なって、誤導のおそれはないでしょう。

 一方、各地の弁護士会の中には専門認定の制度を構想し、特定の分野における能力について客観的に認定するための基準を設けることによって、将来における「専門」表示解禁へと動き出しているところもあります。

 弁護士の「専門」表示については今後まだまだ変化があるかも知れません。