『離婚』別れ際の基礎知識(その2)


『離婚』別れ際の基礎知識(その2)


(新婚旅行帰りのA子が叔父の弁護士事務所を訪れている。土産話で盛り上がるのかと思いきや、どういうわけか離婚談義に。今回は家庭裁判所での離婚調停の話から、である)

A子

自分は別れたいけど、相手は別れたくない、そんな時は家庭裁判所へ行って離婚調停を申し立てれば、裁判所がその夫婦を別れさせてくれるということね。

叔父

何も無理矢理に別れさせるという訳じゃあない。調停はあくまでも話し合いによって問題を解決するための手続だから、話し合いをしても合意に達することができなかった場合には、調停は不成立ということで手続は終わってしまう。話し合いの場所として家庭裁判所を使わせてもらうというイメージだな。

A子

相手と直接話し合ってもうまく行かなかったからこそ裁判所に行くわけで、何だか修羅場になっちゃいそうね。

叔父

いや、話し合いと言ったって、調停の手続は裁判所の調停委員さんが間に入ってくれて、双方の言い分を聴き取りながら進められていくのだから、修羅場になるということは、まずない。待合室は別々に用意されているし、話し合いを進める際も夫婦が一つの部屋で同席することは避けて、交互に言い分を聞くといった配慮をしてくれるよ。

A子

話し合いがまとまると、裁判官の前で離婚届にハンコを押すわけね。

叔父

いや、それは違う。離婚するという内容の調停が成立すると、その時に調停離婚自体は成立してしまう。当事者は、調停の結果が記載された調停調書という裁判所の正式な書類を持って、「離婚しました」という報告の届出を役所に出すことになる。

A子

調停が成立しないときはどうなるのかしら。

叔父

家庭裁判所の裁判官が審判という形で離婚を決める手続もあるんだが、多くの場合、それでも離婚を求めるという側が地方裁判所に離婚の裁判、いわゆる離婚訴訟を起こすことになる。

A子

また話し合いをするの。

叔父

いや、訴訟は、調停とは違って、裁判所に判断を求めて、裁判所に結論を決めてもらうための手続だ。当事者が出した証拠を調べて、その結果、民法という法律で決められている離婚原因があると認められる場合には原則として離婚の判決が出るし、認められなければ離婚の判決は出ない。離婚の判決が出て、これが確定すれば、別れたくなかった方が納得しなくたって離婚は成立ということになる。

A子

じゃあ、最初から離婚訴訟を起こした方が手っ取り早くていいじゃない。
叔父

そういうわけにはいかないんだな。家庭内のもめごとはできるだけ話し合いで解決した方が望ましいという考え方から、訴訟を起こす前にまずは調停をやってみなさい、と法律で決められている。これを調停前置主義と呼んでいるよ。

A子

へえ、そうなんだ。ところで、その民法とやらで決められている離婚原因というのはどういうものなの。

叔父

まず不貞行為、つまり浮気だな。それから、悪意の遺棄、3年以上の生死不明などが条文にずらずらと書いてある。そして、いろんなことをひっくるめた離婚原因として、「婚姻を継続し難い重大な事由」というのもある。

A子

浮気っ?浮気をしておきながら自分から離婚を求めることができるの。それは酷いわ。

叔父

そうだね、浮気をされた方にしてみれば確かに酷い、そんな身勝手許せるわけがない。そこで、これまでの裁判例や学説は、浮気をした側からの離婚請求は認めないという理屈を打ち立てて、伝統的にそういう運用で裁判が行われている。この理屈は「有責配偶者からの離婚請求は認められない」なんて言い方で表現されているよ。

A子

一生離婚できないということね、いい気味だわ。

叔父

ところがそうとは言い切れないんだな。前に少し話したように、日々の生活を共にして夫婦助け合って生きていくという実体が失われてしまっている場合に、形だけ、戸籍だけの夫婦関係を続けさせることはかえって不正義ではないかという考え方もあり得るところだからね。そこで、別居状態が相当長期間続いていて、成熟していない子どもがいない場合には、相手方に格別酷な結果とならない限りは、有責配偶者からの離婚請求も認められる余地があると解釈されているんだ。

A子

そういえば5年だか何年だか別居すれば別れられるようになるって、どこかで聞いたことがあるわ。

叔父

それはかなり不正確だな。確かに、法律をそういう風に変えようという意見はあるんだが、成立はしていない。別居状態といった夫婦の破綻という客観的な状態をもって、これを法律上ストレートに離婚原因としてよいのかどうかは、夫婦とは何か、家族とは何か、といった大問題に関わることだから、そう簡単には議論が収束しないと思うね。

A子

ふうん、難しいのね。それで、離婚訴訟で離婚が認められるときには、財産分与や慰謝料のことも裁判所で決めてくれるのかしら。

叔父

そう、当事者が判断を求めていれば裁判所は決めてくれる。離婚訴訟の中には、離婚すること自体については夫婦双方とも異存がないけれど、そういったお金の面の条件などで折り合いがつかないというケースも少なくない。そういうケースでは離婚原因があるかどうかよりも、むしろ離婚条件をどうするかが裁判の焦点になってくるね。

A子

なるほどねえ。

叔父

そうそう、最近の法律改正についても話しておこう。まず、これまで地方裁判所の担当だった離婚訴訟が家庭裁判所の担当に変わることになった。これは家庭裁判所の離婚調停との繋がりに配慮したものと言えるだろうね。それからもう一つ。正式に決められた養育費の支払いを確実にさせるため、払われないまま溜まってしまった養育費があるときには、これから支払ってもらうことになる分も含めて、相手の給料などを差し押さえる手続を始めることができるようになった。そして、その差押えの上限も引き上げられたんだよ。どちらの法律もまだ施行されていないけれどね。

A子

あら、もうこんな時間。難しい話をいろいろ聞いたせいかしら、何だかお腹が空いてきちゃったわ。旅行中おいしい和食とはしばらくご無沙汰だったから、ねえ叔父さん、何かごちそうしてよ、ダンナも呼び出すから。

叔父

おいおい。


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