怖〜い時効の話

建築資材の卸商であるAさんが、弁護士の事務所にやってきました。

 ちょっとご相談があるんですが

弁護士

 どうされました。

 実は、10年ほど前から取引のあった建築業者のC社が、先月、破産宣告を受けたんです。

弁護士

 何かC社に売掛金とかあったんですか?

 ええ、130万ほど。それで裁判所から『債権届出用紙』というのが届いたんで、その130万円を書いて出したんです。
 ところが、破産管財人は、『最近、納品していただいた30万円については、あなたの債権は認められますが、100万円については、C社の関係者は注文と違った商品が納入されたから支払う必要はないと申しております。管財人としては、商品に相違があったかどうかについては現時点では何とも言えませんが、いずれにしても、この100万円については、既に時効期間が経過していますので認められません。』て言うんです。
 納品してから3年かそこらですよ。もう時効ってどういうことなんでしょうか。

弁護士

 う〜ん。その売掛金の支払時期は何時だったんですか。

 うちは、得意先には月末締めの翌月20日払いでやってもらっているんで、その売掛金は、平成11年10月20日が支払日でした。

弁護士

 そうすると、代金を請求できる時から丸2年以上経っていますから時効の可能性が高いですねえ。

 どうしてですか?

弁護士

 卸売りとか小売りの商品売掛金債権の時効は2年です。ですから、Aさんが、その代金を請求できる時から2年で時効がきてしまうんですよ。

 じゃあ、私の権利は消えてしまったんですか。

弁護士

 いや、2年経つと忽然と権利が消えてしまうものではありません。相手が払ってくれればそれでいいんです。
 ただ、相手が『時効です。払いません。』と言うことを時効の『援用』というんですけどね、相手が時効を『援用』すると、もう、支払を法的に強制することができなくなるんです。

 そんなの正義に反しませんか。

弁護士

 そうも言えますね。でも、長いこと権利を行使せず放置していると証拠が散逸していったりもします。権利の上に眠っていた人の権利は、そう何年も保護する必要はない、ていうことになるんです。特に商品の卸売・小売りについては、煩雑なんで、時効期間が短くなっているんですよ。

 でも、私は、請求書は、毎月ずっと送っていたんです。権利の上に眠っていたわけではありません。

弁護士

 専門的な話で難しいんですがね、時効は、『請求』をすれば『中断』して、中断の理由がなくなったら新たに進行するんです。リセットですよね。ただ、この『請求』というのは、裁判所に裁判をおこすことなんかをいうんで、単に『請求書』を送っただけでは『催告』としか評価されないんですよ。

 『請求』とか『催告』とか、専門用語ばかりでよくわかりませんが、結局のところ、請求書を送っても何の意味もなかったてことなんですか

弁護士

 いや、そういうわけではありません。時効期間が満了する少し前に請求書を送って『催告』していれば、そこから6ヶ月間は時効が成立しないんですよ。その間に裁判をおこせば時効は中断します。
 具体的にいうと、Aさんの場合、請求書を送っていなければ、平成13年10月20日には時効が成立してしまっていたんですが、請求書がたとえば平成13年10月10日に相手に到達していたとすると、そこから6ヶ月は時効は成立しないことになるんです。
 ですから、4月10日までに裁判を提起しておけばよかったんですがね。

 平成13年10月以降も毎月請求書を送っていたんですから、どんどん時効は伸びないんですか。

弁護士

 時効成立前に1回しか『催告』としての効力はないんですよ。

 催告のための請求書はどんな形式でもいいんですか。

弁護士

 ちゃんとその日に送ったんだということを明確にするために、内容証明で送った方が無難ですよね。

 うーん。だけど解せないなあ。そんな裁判するなんて、大げさなこと普通はしません。ほかに、時効を中断させる方法はないんですか?

弁護士

 相手の財産などに差押や仮差押などをしても時効は中断します。それに、相手が債務を『承認』すれば中断します。
 たとえば、相手が「私はあなたにこれこれこういう債務を負っています。」という念書などを書いていれば、『債務の承認』になります。
 でも、今回のような、納品したものに争いがあったような場合だと、念書を書いてもらうことは難しいですよね。

 そういえば、ほかの取引先で、ここ2年くらいいつも『そのうちちゃんと払います。』って言って、なかなか払ってくれないところがあるんですが。口頭の『払います』は、債務承認になるんですか。

弁護士

 うーん、口頭の承認でも理論的にはいいのだけれど、要は裁判になったときにそれを証明できるかどうかなんですよ。
 口頭ですと、どうしても言った言わないの問題になることが多いんで、やはり、書面に書いてもらっておくべきですね。

 ほかに『承認』になるのはどんなことですか。

弁護士

 たとえば、お金を30万円借りて月々1万円ずつ返済していいく約束をしたとき、返済をするごとに『承認』をしたことになります。

 もし、時効が完成する前に裁判をして勝っていたら、もう時効を気にしなくていいんですか?

弁護士

 判決で確定した権利の時効期間は10年です。ですから、判決が確定してから10年間は、大丈夫です。

 面倒ですね。悔しいですが、今後は気をつけます。参考までに、どういう権利について何年くらいで時効がくるか教えてください。

弁護士

 ここに簡単な表があるから参考にしてください。
 時効がいつ開始するか、とか、中断の方法については、微妙な問題が隠れていることが多いので、また、その都度、相談にいらして下さいね。

民事債権(例 一般人(商人でない者)の間のお金の貸借)
10年
商事債権(例 銀行との間のお金の貸借) 5年
手形債権(例 約束手形の受取人の振出人に対する権利)  3年
請負人の工事代金  3年
不法行為に基づく損害賠償請求権  3年
生産者、卸売商人、小売商人の売却した商品等の代金  2年
運送代金   1年
旅館の宿泊料、料理店の飲食料  1年

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