従業員が逮捕された!
社長 「大変だ!うちの営業の従業員が外回り中に人身事故を起こして逮捕されちゃった!先月号の記事で刑事責任があることはわかっているんだが、もう少し詳しく教えて欲しいんだ」

「まぁ、落ち着いてください。どんな事故なんですか?」

社長

「詳しいことはまだわからないんだが、どうやら昼食時に取引先と少し飲んで、その後、一旦停止で十分に停止しないまま交差点に入っちゃったらしいんだ。大事な従業員なんで、会社としてもできる限りのことをしてやりたいが、これから彼はどうなるのかね」

「逮捕された場合には、七二時間以内に釈放してもらえる場合と、検察官によって勾留請求される場合があります。この勾留請求がなされた場合に裁判官が勾留が相当と判断すれば勾留決定が出されます。勾留決定が出されると、取り敢えず一〇日間、勾留と言って警察署や拘置所に身体を拘束されることになります。」

社長

「取り敢えずっていうのはどういうこと?」

「原則的に勾留は一〇日間なのですが、検察官がもう一〇日間延長することを裁判所に請求できるんです」

社長

「そうすると彼は二〇日も戻れないってことかい?」

「検察官はこの二〇日以内にどんな処分をするかを決めます。起訴猶予や略式命令請求で済めばいいんですが、正式な公判請求(起訴)になってしまうと、さらに勾留期間が伸びることになります」

社長

「じゃあ、彼が早く出てくるためにどんなことをしてやればいいんだい?」

「被害者のケガの程度が軽ければ、被害者のところにお詫びに行っていただくなど誠意を尽くして示談することでしょう。その示談書を勾留期間内に検察官のところに持参して起訴猶予処分を目指すのがいいでしょうね」

社長

「起訴猶予って何だい」

「起訴猶予というのは、起訴しなければならないほど大きな被害が生じておらず、本人も十分に反省しているときに、敢えて起訴しないという制度です。起訴猶予になれば最長でも二〇日で釈放してもらえます。ただ、今回は少しとは言え飲んでるから起訴猶予は無理かなぁ」

社長

「そうすると起訴されるってことかい?」

「いえ、次の目標として略式命令請求があります」

社長

「そりゃ何だい?」

「これは公判請求より軽い制度で、検察官が簡易裁判所に罰金支払を命じるよう請求する制度です。公判請求よりは早く釈放してもらえるし、罰金を支払えば刑務所に行くことはありません」

社長

「じゃあ、それで行こう」

「いや、飲酒の点を検察庁がどう評価するかでしょう。最近は酒気帯び運転で事故を起こした場合、厳しい判決が下されることが多いですよ。昨年一二月に道路交通法が改正になって、飲酒運転で死亡事故を起こした場合には最高で懲役一五年という刑を科すことができるようになりました。公判請求の可能性もけっこうあると考えてもらう方がいいでしょう」

社長

「その場合はどうなるんだい?」

「公判請求された場合には、保釈決定により一時的に釈放されることもありますが、最終的には懲役刑の求刑・判決が予想されます。したがって、何とか執行猶予付きの判決をいただけるようにしないと、刑務所に行かねばなりません」

社長

「執行猶予っていうのは何?」

「これは、懲役刑にせざるを得ないけれども、諸般の事情からその執行を一定期間猶予するという制度です。この場合、判決と同時に釈放してもらえて勾留から解放されます。また、執行猶予期間を無事に過ぎれば刑務所に行く必要もなくなります」

社長

「流れは大体わかった。けど、当面、私としてはどうすりゃいいんだよ」

「とにかく、営業中の事故なので、会社としても被害者の方に損害賠償責任を負っているのですから、逮捕された従業員に成り代わって、社長が被害者のところへお詫びに行ってください。法律論の前に、人間としての誠意を見せましょう。その誠意を被害者が理解してくれれば早期に示談できる可能性が高くなりますから、彼にとって有利な事情となるでしょう」

社長

「それでも公判請求されちゃったら、どうなるの?」

「その場合は、社長か上司の方に法廷で彼の仕事ぶりや今後会社として事故に注意することを証言してもらいます。執行猶予付きの判決になれば二〜三ヶ月はかかるかも知れませんが釈放されます。ただ、被害者が亡くなっていると実刑の可能性が高いことは覚悟しておいてください」

社長

「彼は断り切れずに飲んだんだろうが、えらいことになっちゃったなぁ」