弁護士への道(第2回) 会報「SOPHIA」平成20年2月号より 


「弁護士への道」第2回 ロースクール入学試験

会報編集委員会

1 ロースクール入試について
 ロースクール入学のためには、まず、「法科大学院適性試験」(以下、「適性試験」という)を受験する必要がある。適性試験は2種類あり、大学入試センターの実施するもの、日弁連法務研究財団などで構成される適性試験委員会が実施するものがある。この適性試験を受験した上で、更に各ロースクール独自の「入学選抜試験」(以下、「入学試験」という)に合格しなければならない。入学試験は、概ね、第一次選抜試験の書類審査(以下、「書類審査」という)と第二次の小論文試験(以下、「小論文試験」という)とがあり、適性試験、書類審査、小論文試験、3段階の試験について、それぞれロースクール毎に配点が決められている。2種類の適性試験のうち、どちらを採用するかはロースクールによって違いがあり、両方採用しているところが多いが、国公立は大学入試センター実施の試験だけというところも多いようである。
 ところで、ロースクールには、既に法学の基本科目について既に十分な知識を有しているとされる「既修者コース」と、これに至らない「未修者コース」とがあり、既修者コースは2年、未修者コースは3年のプログラムを経なければならない。そして、既修者コース受験の場合、最終合格のためには、「法律科目試験」にも合格しなければならない。

(ロースクール入学に至るまでのモデル)
6月    法科大学院適性試験
         ↓出願
9月    第1次選抜試験(書類審査)
〜11月頃
         ↓(合格者)
10月    第2次選抜試験(小論文試験)
〜12月頃
         ↓
12月頃   未修者コース最終合格発表
(既修者コースの場合、小論文試験の後にあるいは小論文試験に代えて)
         ↓
11月〜   法律科目試験(各法律科目など
翌年1月頃        加えて、面接の
             ある場合も)
         ↓
11月〜   既修者コース最終合格発表
翌年1月頃
         ↓
2月     入学手続


2 進路の決定
 菊野は、自分の軍資金の範囲内という基準を重視して、受験するロースクールを決め、本命としてX大学を受験することとした。費用も比較的リーズナブルだし、新司法試験の合格率も全国平均をかなり上回る。
 しかし、既修者コースを受験するか、未修者コースを受験するかでは、かなり悩んだ。
 菊野は、大学時代所属していた合唱サークルの後輩に、ロースクールに通学しているものがいたので、実情を聞いてみた。すると、ロースクール生の約7割が法学部出身者であり、そのうち既修者コースはごく一部であって、未修者コースの多くが法学部出身者であるという。既修者コースには旧試験の受験者も多いということであり、法学部出身者だからというだけでは、簡単に既修者レベルには達しないらしい。
 菊野は、一応、法学部を出てはいるが、大学時代は合唱サークルとアルバイト、そして合コンに明け暮れ、学部成績も普通である。卒業後はすぐに、電子部品メーカーに就職し4年間、営業畑でやってきた。
 一方、菊野には、26歳という受験年齢や学費の限界等の問題もある。
 いろいろ検討した末、やはり、菊野は、未修者コースを受験することとした。
(以下、適性試験委員会作成の適性試験2007年 入学有資格受験者一覧表、学部専攻別・年齢別)

 次に、複数校を受験するかどうかで悩んだ。いわゆる「滑り止め」として受験日の異なる別のロースクールを受験する学生は多いらしい。しかし、複数合格すれば、入学金を納める必要があり、無駄金になる可能性もある。場合によっては、親から借金する必要が出てくるかも知れない。
 しかし、X大学の未修者コースの最終合格率は20パーセント弱である。やはり、X大学1校だけでは不安なので、X大学と同じ位の授業料・費用のY大学を1校だけ受験することとした。

3 受験勉強開始
 「適性試験」の過去問題を調べてみた菊野は、「この試験問題と法曹資質とはどんなつながりがあるのだろうか?」と戸惑いを覚えた。どうやら、適性試験というのは、アメリカのロースクール入試の際に実施されているエルサット(LSAT=LawSchoolAdmission Test)とやらをモデルにしたらしい。法律知識の全くない者も含めた一定の基準として、何らかのものを設けなければならないのはわかるが、それにしても・・・。(後記に、適性試験の問題文の一部と正解を掲載します。著作権の関係で架空の設例ですが、現実の試験問題と同等、同質と考えていただいて結構です:会報編集委員会)。
 そもそも、2つの機関による異なる試験が実施されて、一方に「統一」という名称が用いられていることにも疑問を覚えたが、いろいろな意味で余裕のない菊野は、それ以上、深く考えないこととした。
 適性試験の問題は、公務員試験の教養科目に一部、出題傾向が似ていると言われるようである。それはともかく、どうやって試験対策を立てたらよいのか。後輩に聞いたところ、司法試験予備校などで適性試験対策用の講座があるらしいが、利用者はそれほど多くないという。菊野も、適性試験に向けて、講義を受けるまでのことはないと考え、問題集と模擬試験、二本立てを基本対策とし、6月の適性試験までに数をこなすことを目標にした。

4 入学試験
 適性試験受験後に、成績通知があり、2種類の試験のうち、成績の良い方を出願の際、提出できるところが多い。猛勉強の甲斐あって、適性試験は、いずれも、まずまずの成績をとることができた。
 さて、2番目のハードルは、入学試験である。
 まず、第一次の書類審査には、概ね、以下のような4つの基準がある。
  (1) 適性試験成績
  (2) 志願理由書
  (3) 自己評価書
  (4) 学部成績証明書
 このうち、(2)、(3)は決められた頁数の中で、自己をアピールする必要があり、この部分も全体の得点の中で一定程度の配分があるとされているため、受験者の中には、1ヶ月間以上、練り上げて作成する者もいるという。
 菊野は、社会人時代に営業畑で培った「顧客を引きつける説得術」をつかみとして自己をアピールし、法曹を志した動機に結びつけることとした。以下に、菊野の自己評価書を抜粋する。
「商品を売り込む際、ある優れた性能を強調したい場合(意見)には、必ず、裏付けとなる客観的なデータを述べることが必要である(事実)。例えば、『このコンピューターは処理能力が早い』と主張するだけでなく『従来製品に比較して〜というデータが出ています』と述べる。そして、相手の目とそこに表れる反応をしっかり見極め、食いつきが悪いと見れば直ちに次の強調点に移り、相手が興味を覚える点が出たら一気呵成に攻める(熱意)。説得するツールは、言葉と、非言葉では後者を圧倒的に重視すべきである。言葉以外の身振り、手振り、表情、視線等に気を配ることはもちろん、画像やサンプルといったビジュアル資料の他、購買意欲をかき立てるものは全て用いる。しかし、・意見、・事実、・熱意という、顧客の説得に向けた3つの要件のうちいずれか一つでも突出しては、逆に説得に失敗する。私の経験では、〜(以下、省略)」
 自分は社会人の経験があるので、少しは他の受験生と差別化できる部分があったのではないかと思ったが、他の学生はどんなことを書いたのだろうか。大学時代に、自分は「財産」と呼べるようなものを築いていただろうか。だが、深く考えないこととした。
 未修者コースの最後のハードルである第二次の小論文試験は、これまた傾向があってないようなものである。各ロースクールの小論文問題を見ると、基本法学について書かれた文献や、ある主張などを読ませて、自分の考え方などを数百字あるいは千字程度の範囲で述べさせる問題が多い。しかし、題材となる主張・文献などには限定がない。どうやら、模擬試験などで慣れるしかない。「出たとこ勝負」の感があるが、「みんな同じ。」と深く考えず、腹をくくって、年末の小論文試験を迎えた。

5 合格者発表
 難解であり、かつ趣旨の今ひとつわからない数々の試験を経験した菊野は、平成20年12月○日、X大学ロースクールの合格者発表の張り紙の前で、自分の受験番号を見つけ、大学入試発表の時以来、いやそれ以上の感激を覚えていた。
 「やっと、自分も法曹への第一歩を踏み出すことができる。」 ロースクール受験を決めた時は将来に不安を覚えていた彼女も、菊野が受験勉強に真剣に打ち込む姿を見ているうちに、一緒になって応援してくれ、菊野の合格を我が事のように喜んでくれた。
 しかし、この至福の瞬間が、弁護士へと続く自らのドラマの「波乱の序章」となることを、菊野は予想だにしなかった。

弁護士への道 第3回へつづく


 【適性試験サンプル】